服薬指導の基礎マニュアル|より良い服薬指導をするポイント

医薬品情報の提供を通じて適正な使用を促す「服薬指導」は、患者の薬に対する不安を軽減する上でも重要な業務です。薬剤師は服薬指導をする際、どのような点に気を付けて行えばよいのでしょうか。今回は、服薬指導の基本的な流れとポイントを詳しく解説します。

服薬指導とは

服薬指導とは、薬剤師が販売または授与の目的で調剤をした際、患者が医薬品を適正に使用できるよう、効能・効果や副作用、服薬方法などの情報を提供することを指します。薬剤師法第25条の2で定められた薬剤師が必ず行うべき業務のひとつです。

服薬指導は処方薬だけではなく、OTC医薬品でも行います。薬剤師は、薬効や服薬方法に加え、必要に応じて添付文書・薬剤情報提供書などに記載がない情報についても説明します。例えば、説明書にない副作用の兆候や効果の個人差などです。

事実に基づく内容が服薬指導の基本ですが、小児や高齢者、がん患者などには個々に合わせた適切な対応が必要です。

2019年からは、PC・スマートフォンなどを使ったオンライン服薬指導もスタートしました。オンライン服薬指導を行う薬剤師には、薬学的知識にとどまらず、情報通信機器の使い方や情報セキュリティの知識も求められます。

出典:「オンライン服薬指導の実施要領について」(厚生労働省)

服薬指導の流れ

服薬指導の基本的な流れは、以下の5つのプロセスに分かれています。それぞれの内容について詳しく見ていきましょう。

患者にお声がけする

薬剤師が薬局の窓口で患者を呼び、投薬台に案内します。挨拶をして自身の紹介をして、患者の本人確認を行います。

コミュニケーションを円滑に進めるためにも、可能な限り患者のほうに体を向け、アイコンタクトを取りながら明るく挨拶しましょう。投薬台まで来られない患者には、座席で服薬指導します。

病状をヒアリングする

服薬指導をするうえで、患者の病状をヒアリングするのは非常に大切です。患者が初回来局の場合は、質問票に病状の記載を促して、状況を把握しましょう。特に以下の情報はヒアリングして確認を徹底します。

・治療中の疾患と症状
・アレルギー・既往症の有無
・服薬中の薬やサプリメント
・過去に合わなかった薬
・喫煙・飲酒の有無

定期的な来局が必要な患者には、経過や副作用、体調をヒアリングします。その際には、患者の話を基に薬学的知見から分析・評価を行う「アセスメント」、薬物治療への意欲を確認する「服薬アドヒアランス」を確認します。

患者が上手く説明できないときは、診断名や症状から推測して「眠気や口の乾きはありますか」「痛みは止まりましたか」など、具体的な質問を準備しておきましょう。

医薬品の説明をする

ヒアリングした内容を参考に処方薬について以下のような事項を説明します。

・薬の名称
・薬の効能
・起こる可能性のある副作用
・飲み合わせに関する事項
・保管方法
・服用方法

薬の変更や追加するときは、その都度詳しく説明します。誤った薬の使用による健康被害の発生を未然に防ぐためにも重要です。

薬袋(やくたい)に入れた処方薬は、以下のものと一緒に患者へ渡します。

・薬剤情報提供書
・調剤報酬明細書
・領収書
・お薬手帳

患者の質問を確認する

患者に不明点・質問の有無を確認します。必要な場合は、副作用が出たときの対処法や緊急時の連絡先も伝えましょう。

患者のなかには、薬について疑問・心配な点があったとしても医師に相談できない人もいます。薬剤師が患者の質問へ丁寧に答えて疑問を解消できれば、薬物治療への不安軽減につながります。

患者が不安や葛藤を口にした際は、話しやすい雰囲気づくりを心がけましょう。相手の感情・考えをリピートする「共感的繰り返し」や、話の要点をまとめる「共感的要約」などを活用すると、安心感や信頼感を与えることができます。

出典:「患者の本音や期待の把握を目指した『コミュニケーション・服薬説明実習』の取り組み」(日本ファーマシューティカルコミュニケーション学会)

クロージングする

追加の質問がなければ、患者を見送る「クロージング」をします。「お大事になさってください」「今日はありがとうございました」などの一言を添えて、患者を見送ります。

クロージングの内容は患者の満足度や信頼に影響を与えるため、忙しい状況でも丁寧に行いましょう。

より良い服薬指導をするためのポイント

服薬指導では患者の価値観を受け入れることが重要です。一方的な情報提供に終始せず、薬物療法の質を高めてQOLの維持・向上につなげる努力が求められます。そのための服薬指導のポイントを以下でお伝えします。

一方的に話さずに患者の話を聞く

限られた時間で多くの情報を伝えるため、服薬指導では薬剤師の説明が一方的で早口になりがちです。しかし、それでは患者が説明内容をよく理解できないまま終わる可能性もあります。

良好な信頼関係を築く意味でも、薬剤師が患者の声に耳を傾け、双方向のコミュニケーションを心がけることが大切です。その際に重要なのが、ただ傾聴するだけではなく、患者の意見を受け入れる姿勢を持つことです。

例えば、薬剤師が「薬の量は最小限に抑えたほうが良い」と考えている場合でも、患者は多剤併用で副作用が起きたとしても早く病状を改善したいと考えている可能性があります。

そうしたケースにおいても患者の意見を尊重し、何ができるか考えながら関わることが薬剤師には求められます。日頃から疑問や質問には丁寧に回答し、いざというときの薬の相談相手として信頼を寄せてもらえるように真摯な対応を心がけましょう。

具体的な回答が得られる質問をする

患者から必要な情報を得るには、目的のある具体的な質問が鍵となります。WHOは、薬剤師の役割や使命を定めた行動原理である「ファーマシューティカルケア」の定義において、薬剤師業務の主な目的を患者の「QOLの向上」としています。

つまり、服薬指導の際もQOLの確認を目的に考えれば的確な質問ができ、有益な情報が得られやすいということです。ここで、患者のQOLを確認できる質問例をいくつか見てみましょう。

「薬は決められたタイミングで飲めていますか」「飲み忘れた薬はありませんか」などは、薬物治療に必要な薬を正しく飲めているか確かめる質問です。また、「お薬を飲み始めてからめまいは出ていませんか」と質問すれば、副作用や体調変化を確認できます。

さらに、抽象的な質問と具体的な質問を組み合わせると、患者から必要な情報を引き出しやすくなります。以下は会話例です。

薬剤師:「体調はいかがですか」(抽象的な質問)
患 者:「まあまあです」
薬剤師:「このお薬を飲んでから、ふらつきはありませんか」(具体的な質問)
患 者:「ふらつきはないけど、少し眠気があるかな」

この質問方法は、双方向のコミュニケーションを生み出したい場合にも効果的です。

服薬指導の長さは臨機応変に調節する

薬局には、話を聞きたがらない人や薬に関する悩みがある人など、さまざまな患者が訪れます。そのため、患者の状況に応じて服薬指導の内容や話し方、スピードを調整できることも、薬剤師に求められるスキルのひとつです。

情報が多い場合は重要事項を優先し、複数回に分けて伝えると効率的です。また、よく使う薬の指導箋を収集しておき、必要なタイミングで活用できると服薬指導の時間短縮になり、患者も自宅で見返すことができます。

まとめ

服薬指導は、患者に適正な医薬品使用を促すための重要な業務です。基本的な流れは、お声がけからクロージングまで5つのプロセスがあります。以下のポイントを心がけると、より良い服薬指導が行えます。

・患者の話を丁寧に聞き、価値観を受け入れる
・抽象的な質問と具体的な質問を使い分ける
・患者の状況に合わせて内容や時間を調節する

服薬指導での良好なコミュニケーションが信頼関係の構築につながり、ひいては薬物治療の質向上にも寄与するでしょう。

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