MSL(メディカル・サイエンス・リエゾン)とは?仕事内容などを解説

MSLは、医師や研究者などへの専門的な情報提供を担う職種です。製薬業界やCSO業界での需要が年々高まるなか、薬剤師の転職先としても注目されています。

今回は、MSLに注目が集まっている背景や仕事内容、必要なスキルなどについて詳しく解説します。

MSL(メディカル・サイエンス・リエゾン)とは

MSLは「Medical Science Liaison」の略称で、製薬企業において、医学・科学的なエビデンスや専門知識に基づく医薬品の高度な情報を提供する職種です。

MSLの役割は、企業や製品の価値向上を目的に、中立・公平な立場から臨床現場への情報提供を通じて最適な医療や新しい治療法を普及させることです。多くの場合、製薬企業で医療との橋渡し役を担うメディカルアフェアーズ部門に所属し、活動します。

「KOL(キーオピニオンリーダー)」と呼ばれる専門医や研究者などとの交流から、担当領域の潜在的な医療ニーズを引き出し、それを基にメディカル戦略を立案して解決を図ります。

同じく医療現場へ情報を提供するMRとの大きな違いは、プロモーション活動の有無です。日本製薬工業協会は2019年に、MSLによる販売促進活動の禁止や営業部門からのMSL活動の独立を定めました。

出典:「メディカル・サイエンス・リエゾンの活動に関する基本的考え方」(日本製薬工業協会)

従って、MR は主に販売促進を目的とした情報提供を行いますが、MSLは自社製品の処方促進をはじめとするプロモーション活動が目的の情報提供を原則禁じられています。

MSLは将来性が高い!注目されている背景

MSLは、1960年代から製薬企業を中心に活躍していました。日本では、2000年代から外資系製薬企業でMSLの活動が始まっています。

国内でMSLの必要性が高まる契機となったのは、2011年に発生した臨床研究不正問題です。この事件以降、製薬企業は利益追求よりも「患者中心の医療」を重視する体制へとシフトしたため、中立的・科学的な立場で情報提供をするMSLの需要が増加しました。

MSLの積極的な採用は、2010年頃から外資系企業を中心に展開されるようになりました。近年は、外資系製薬企業だけではなく、内資系製薬企業も積極的に採用しています。

また、昨今はセキュリティー強化やコロナ禍の長期化などを理由に、MRの訪問規制が強化されています。その一方で、販売促進を目的とせず、医療従事者と医学・科学的な交流をもてるMSLは面会が許される場合もあります。

医療業界と製薬企業は互いになくてはならない存在です。今後もその結びつきは強まると予想されるため、医学・科学的な知見から医療従事者をサポートするMSLの需要も高まっていくでしょう。

MSLの仕事内容

適正な医薬品の使用や患者へ適切な医療を届けることを目的に、MSLは以下のような業務に従事しています。

担当疾患領域における最新情報の収集・提供

論文調査や学会参加、専門家との情報交換を通じて、担当領域における最新の医学情報や有効性・安全性情報などを収集・精査します。ときには、KOLから要望を受けて収集した情報を提供する場合もあります。

さらに、MSLは以下の企画運営も行います。

・販売を目的としない自社主催の講演会やセミナー
・学会のブース展示
・社外の有識者から意見を収集する「メディカルアドバイザリーボード会議」
・最新の医学・科学的知見に関して議論を行う「メディカルエデュケーション会合」

KOLへの訪問・サポート

対面やオンラインでKOLとの面談を行います。最新情報の提供や議論を重ねて良好な信頼関係を築き、自社および製品の価値向上やKOLの製品への関与を促します。

また、KOLから得た情報を社内の関連部署と共有し、その情報を基に「アンメットメディカルニーズ」を導き出すこともMSLの業務です。

アンメットメディカルニーズとは、まだ満たされていない医療ニーズのことです。具体的には、治療法が確立されていない疾患の治療薬や治療方法などを指します。

MSLは、アンメットメディカルニーズを満たすため社内で分析や考察を重ねてエビデンスを構築し、KOLに提供します。エビデンスデータは医療現場で役立てられることもあります。

自社研究のサポート

治験・臨床研究の支援やアカデミアとの共同研究への参加のほか、構築したエビデンスに基づく各種資料・論文の作成、学会発表なども行います。

加えて、アンメットメディカルニーズを基にプランニングされる「メディカル戦略」の策定・遂行もMSLの重要な仕事です。

メディカル戦略は、医薬品の価値向上や最適な使用を目指すための計画であり、MSLの活動において指針となるものです。主に以下のような内容を策定します。

・臨床実験・研究計画
・論文作成・学会発表計画
・専門家との交流計画

MSLに求められるスキル

MSLは、医療・科学分野における最先端の情報提供に携わり、専門家と対等な立場で関わることから、次のようなスキルが求められます。

専門知識

社内外の専門家と情報交換や議論をするMSLにとっては、疾患や医薬品についての高度な専門知識が欠かせません。担当する疾患領域での高い情報収集能力のほか、情報を分かりやすくまとめる力やプレゼンテーション能力も必要です。

要件は企業によって異なりますが、日本製薬工業協会では、医師や薬剤師などの医療系資格のほか、生命科学分野の博士号取得者などを推奨しています。がんや糖尿病といった専門性のある人材は需要が高い傾向にあるようです。

出典:「メディカル・サイエンス・リエゾン(MSL)の目指すべき方向性」(日本製薬工業協会)

また、KOLから信頼されるMSLとなるには、担当分野の専門知識をアップデートし続けることに加え、各種法規制を遵守する倫理観も必要です。

英語力

医学・科学系の最新論文の多くは英語で書かれているため、英語での読解力が不可欠です。日常英語レベルでは、専門的な研究論文を読み解くことは難しいでしょう。

求められる英語力は、案件やポジションによっても異なります。海外の担当者と英語でミーティングや会議を行う仕事では、スムーズな会話や議論ができる総合的な英語力が必要です。

ビジネスで円滑なコミュニケーションを取れるレベルの英語力は、採用時のアピールポイントになるでしょう。

コミュニケーション能力

優れたコミュニケーション能力は、最先端の研究に携わる専門家や医師と頻繁に議論し、良きパートナーとして信頼を得るために必須です。

KOLとの信頼関係を築く土台となるビジネスマナーのほか、KOLの興味・関心や潜在的なニーズを察知する深い洞察力、的確な質問をする力も求められます。専門職ではない人々に医学・科学分野の高度な知識を分かりやすく説明できるスキルも必要です。

そのほか、営業部門や開発部門、海外の担当者といった異なる立場の人々と協業するために、調整力や交渉力、リーダーシップなどを発揮しなければならない場面もあります。

MSLのやりがいとは

最新情報の提供によって臨床現場の医師をはじめとしたKOLのニーズを満たし、影響を与えられる点はMSLの大きなやりがいといえるでしょう。プロモーション活動が目的ではないため、KOLの興味・関心や要望に応じた情報提供に注力できます。

新たなアンメットメディカルニーズの特定に至った瞬間は、大きな喜びを感じる人も多いでしょう。

また、日進月歩の医療・科学分野で最新の知識に触れる機会が多く、知的好奇心を刺激される環境です。新薬の治験や臨床研究へ関わることで、医療や患者への貢献も実感できるでしょう。

まとめ

販売促進を目的とせず、高度な情報提供ができるMSLのニーズは年々高まっています。主な仕事は、医療・科学分野における最新情報の収集・提供をはじめ、KOLとの関係性構築を通じた自社製品の価値向上など、高い専門性が必要とされる内容です。

MSLには、担当領域の知識や英語力のほか、KOLと友好な関係を築くためのコミュニケーション能力も求められます。薬剤師の知見を活かし、長いスパンで患者や医療に貢献できる仕事をしたい人におすすめの仕事です。

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