トレーシングレポートとは?目的や記入例について紹介

トレーシングレポートとは?目的や記入例について紹介

トレーシングレポートとは?目的や記入例について紹介

よりよい医療を提供するために、保険薬局の薬剤師から処方医へ向けて発行する「トレーシングレポート」は、2016年から本格的な運用がはじまりました。「本当にこれでいいのかわからない」「もっと上手く書くにはどうしたらよいのだろう」と、悩みながら記載している薬剤師も多いのではないでしょうか?

今回は、トレーシングレポートを記載する目的や、どのように記載したらよいかなどについて、詳しくご紹介します。ぜひ業務の参考にしてください。

トレーシングレポートとは?

トレーシングレポートとは、服薬情報提供書とも呼ばれ、保険薬局の薬剤師から処方医へ向けて発行する文書で、「緊急性は高くないものの、処方医へ伝えるべき内容」について報告するためのものです。

患者から聴取した服薬状況、体調の変化といった情報を処方医へフィードバックし、処方提案や用法の調整、残薬調整などに活用することが期待されています。より一層、医師との連携を深められるだけでなく、医療費を削減することにもつながりうるため、薬剤師として、必要なケースにはしっかりとトレーシングレポートを作成していきましょう。

トレーシングレポートの目的

トレーシングレポートでは、よりよい医療の提供へ繋げるために、薬剤師として次のような観点から関わっていくことが求められています。

● アドヒアランスの改善
患者がきちんと服薬できていない原因はさまざまです。必要性を理解できていないという場合には、服薬指導で意識を変えられるかもしれません。ただ 、用法が複雑すぎる、剤形が飲みにくいなどの場合は、医師と相談の上で調整が必要です。
患者の生活や性格・嚥下能力などに合わせて処方提案をしましょう。薬剤師ならではの知識が活かせる、重要な介入です。

● 残薬の調整
「副作用が心配になり自己判断で中止しているが、医師には伝えていない」「頓服薬を使っていないが、処方され続けてずっと余っている」など、さまざまな理由で残薬をたくさん抱えている患者は少なくありません。不必要な医療費の削減のためにも、残薬の状況を伝え、調整に繋げることが大切です。先ほど述べた、アドヒアランスの改善とも関わります。

● 有害事象の予防、改善
有害事象の起きやすい組み合わせで薬剤を使用している場合、定期的な採血を提案したり、有害事象の起きにくい組み合わせへの変更提案をしたりすることで、有害事象を未然に予防することができます。すでに薬による副作用を疑う症状が出ている場合にも、情報提供や処方提案をおこなうことで、ポリファーマシーへの進展を防ぐことが可能です。

トレーシングレポートのメリット

トレーシングレポートは、手間のかかるものであり、苦手意識を持っている方もいるかもしれません、ですが、薬剤師・医師・患者の全員にとってメリットがあります。

ポリファーマシーの対策

複数の医療機関にかかっていると、特定の薬剤で副作用症状が出て、その副作用を緩和させるための薬剤がどんどん増えていくという事態に陥りやすいです。また、同効薬が重複してしまうこともあります。

医師は、他の医療機関で処方された薬のチェックにまで時間を割くことが難しいのが現状です。患者からの話・お薬手帳などから得た情報をもとに、ポリファーマシーだと考えられる状況であれば、是正を提案していきましょう。

薬物治療の適正化に貢献していく足掛かりになるというのが、トレーシングレポートを書くメリットの1つです。

治療の連携の強化

トレーシングレポートを用いて有益な情報提供を積み重ねていけば、医師からの信頼を得ることに繋がり、今後スムーズに提案内容を検討・受け入れてもらうこともできるでしょう。患者にとってよい医療を提供するためにも、トレーシングレポートを地道に書き続けることが大切です。
また、訪問看護師など他職種への報告書としても使うことができるため、医師以外との連携にも役立ちます。

トレーシングレポートの内容

トレーシングレポートとして、医師が期待する内容は、主に次の4点です。実際に記載する際の参考になるよう、こちらの資料の内容をもとにご紹介します。

参考:厚生労働省|患者の服薬状況等に係る情報提供書

処方薬・併用薬の情報

他の医療機関の処方薬や併用薬についての情報も、重要です。最近では、マイナ保険証を利用してもらうことで薬剤情報を閲覧できるようになってきてはいますが、医師が外来の合間に全ての情報に目を通せるわけではありません。また、医薬品の名前から薬効などが全てわかるわけでもないでしょう。

相互作用がある、同効薬が重複しているなど、薬剤師として重要だと判断する情報があれば、医師へ伝える必要があります。その際、どのように変更するのがよいと考えるかも記載しておくとスムーズです。

ただし、腎機能からみて減量が必要、過量投与による副作用と考えられる症状が出ているなど、すぐに変更すべき内容であれば、疑義照会をしてください。

処方薬剤の服用状況およびその指導に関する情報

症状がないから、と高血圧や脂質異常症の治療薬を自己中断しているケースは、薬剤師なら一度は遭遇したことがあるのではないでしょうか。他にも、雑誌等のメディアで「飲むと危険な薬」「医師は飲まない薬」などと一部の薬が紹介されているのを見て、不安を感じて自己中断したというケースも、決して少なくありません。

患者から服用状況を聞き取り、服薬の必要性を説明するなど対応した場合には、医師にもその情報を伝えましょう。その説明で本人が納得しているかどうかの確認や、改めて医師からも説明をするなどの対応に繋げることができます。

また、服薬状況、指導内容、患者の状態など、医療機関から求められた内容について回答を記載するという使い方も可能です。

患者からの情報

患者から聞き取った内容のうち、治療やその効果に影響するような情報は、医師へ伝えます。たとえば、サプリメント・市販薬の使用状況や、食事に関する情報などが挙げられるでしょう。

サプリメント・市販薬の中にも、検査値や治療効果に影響を与えるものがあります。芍薬甘草湯をはじめとした甘草含有製剤は、低カリウム血症を引き起こします。腎機能の悪い患者が、ロキソプロフェンナトリウムなど腎臓に悪影響のある薬剤を購入しているなど、病態へ影響するようなケースも少なくありません。

一部の降圧薬や抗菌薬、ワーファリンなど、食事との相互作用によって効果に影響するものもあります。

治療に影響している可能性のある情報を得たら、医師へフィードバックしましょう。

薬剤に関する提案

上記のような情報を提供するのに伴い、薬剤の変更が必要になるということも多いです。その場合は、どのように変更すべきと考えているのか、薬剤師としての提案も忘れずにおこないましょう。医師に判断を任せた結果、「新たに選択した薬剤にも何らかの問題があり、再度連絡をしなければならない」というような事態になっては、お互いに手間を取るだけです。

ガイドラインや論文など、エビデンスが提示できる場合には、資料も添付すると役に立ちます。たとえば、最近ではCYP (薬物代謝酵素)による相互作用によってAUC (血中薬物濃度)がどの程度変化するのかを評価するフレームワーク(PISCS:Pharmacokinetic Drug Interaction Significance Classification System)も出てきており、そういった観点から具体的な処方提案ができると、医師も納得しやすいです。

トレーシングレポートの記入例

では、ここまでにご紹介した内容を踏まえ、実態にトレーシングレポートを記載してみましょう。具体的にどのように記載したらよいのか、例を2つ挙げてみます。

アドヒアランス向上のための提案

◆夕食後薬の飲み忘れについてのご提案

現在、貴院より朝食後に4剤、夕食後にロスバスタチン1剤の処方をされております。
夕食後のロスバスタチンを飲み忘れることが週に2.3回あると聞き取りました。朝食後は飲み忘れなく服用できていますので、ロスバスタチンも朝食後にまとめることで、アドヒアランスの向上が見込めると考えます。
次回より、服用タイミングの変更をご検討ください。

市販薬使用についての情報提供

◆芍薬甘草湯の連用による低カリウム血症の可能性についてのご連絡

貴院にて、低カリウム血症のためにグルコンサンカリウムを処方されている患者様です。
足のつり予防としてドラッグストアで2ヶ月ほど前から芍薬甘草湯を購入し、毎日2包服用しているという情報を得ました。貴院で処方されている防風通聖散にも少量ですが甘草が含有されており、芍薬甘草湯の併用により低カリウム血症が起きたのではないかと考えました。
芍薬甘草湯を予防的に使わず、足が攣ったときの頓服にするよう指導しました。低カリウム血症の一因になりうると思いますので、先生の方からも、使用の可否や頻度についてお伝えいただけると幸いです。

トレーシングレポート記入時の注意点

トレーシングレポートは、枚数を書けばよいというものではありません。医師にうまく活用してもらうため、意識したい注意点を3つご紹介します。

簡潔に書く

記載にあまり慣れていない方は、周りくどい書き方になってしまいがちです。ですが、長く丁寧に書いたとしても、読んでもらえなければ意味がありません。

医師も限られた時間の中でトレーシングレポートを読むと考えられますので、できるだけ簡潔に、要点がわかるように記載するようにしましょう。また、変更してほしい内容も、誤解を生むことのないようはっきりと記載することが重要です。

エビデンスを記載する

薬剤師としては当然の情報(相互作用、食事による影響など)であったとしても、医師にとっては馴染みがない情報ということもあります。「当然のことですが」というスタンスで伝えると、ネガティブな印象を与えてしまうなど、医師との関係性に悪影響が出るかもしれません。

「◯◯のガイドラインで推奨されています」「インタビューフォームによると、CYPの相互作用によりAUCが◯倍になるため、用量を◯mgへ減量してはどうかと考えました」のような形で、エビデンスを簡単に記載したり、資料を添付したりすることをおすすめします。

疑義照会はしない

トレーシングレポートは、疑義照会の手段ではありません。

用法の誤りがある、用量の調整が必要であるなど、すぐに対応しなければならない問題に関しては、トレーシングレポートを使わずに疑義照会をしてください。疑わしい点がある処方に関して疑義照会をするというのは、薬剤師の義務です。疑わしい処方内容についてそのまま調剤することはないようにしましょう。

まとめ

今回は、医師との連携を深めるために重要な「トレーシングレポート」について、目的や記載のポイント、記載例などをご紹介しました。
まだ記載したことがない方も、何度も記載している方も、改めてポイントを確認してみてください。よりよい連携のため、今回の記事を参考にトレーシングレポートを書いてみましょう。

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