求人サイトでほとんど募集を見ることがない学校薬剤師。ほかの薬剤師職に比べてマイナーのため、仕事内容や必要なスキル、仕事に就く方法を知らない方がほとんどではないでしょうか?
学校薬剤師は、学校で過ごす子どもたちの健康を守る上で欠かせない役割を担う、非常に社会貢献性の高い仕事です。また、兼業禁止の公務員や管理薬剤師でも、学校薬剤師で得る副収入については例外的に許可される場合があり、貴重な副収入源となるかもしれません。
薬剤師の経験を活かして学校薬剤師として働きたいと考える方は多いものの、頻繁に募集がないこともあり、学校薬剤師に関する詳しい情報を個人で入手するのは、なかなか難しいのが現状です。
この記事では、学校薬剤師の仕事内容、必要なスキル、収入、就職方法について詳しく解説します。
学校薬剤師とは
まずは、学校薬剤師の概要について確認しておきましょう。
大学以外の学校に必ずいる「学校薬剤師」
学校薬剤師は、学校保健安全法によって規定された非常勤の専門職で、大学以外の「学校」に配置が義務づけられています。
「学校」の定義の中には、以下の教育機関が含まれます。
● 幼稚園
● 認定こども園
● 小学校
● 中学校
● 義務教育学校
● 高等学校
● 中等教育学校
● 特別支援学校
● 高等専門学校
学校薬剤師は日本に特有の制度で、海外には存在しません。
学校薬剤師制度が生まれた背景には、ある痛ましい事件が関係しています。1930(昭和5)年、小樽市の小学校で、体調を崩した児童に「アスピリン」を服用させるつもりが、誤って消毒薬の「塩化第二水銀」を服用させ、女子児童が亡くなってしまうという事故が発生しました。この悲劇から、学校に薬剤師を配置する必要性が浮き彫りになり、昭和33年に制定された学校保健法で「学校には学校医、大学以外の学校には学校歯科医または学校薬剤師を配置する」と定められました。
学校薬剤師は法律で定められた職種であるものの、実際の業務量はそこまで多くありません。そのため、普段は病院や薬局に勤務する薬剤師が学校薬剤師を兼務するのが一般的です。
学校薬剤師の役割
学校薬剤師の役割は、学校の保健衛生に携わり、子ども達の快適な教育環境を守ることです。薬品類の使用や保管に関することだけでなく、学校環境衛生の維持管理、健康相談や保健指導などに関する指導や助言などを行います。
社会貢献性の高さに加え、子ども達の明るい姿に元気をもらったり、薬剤師の仕事に興味を持ってもらえたりする場面も多く、本業とはまた違ったやりがいを感じる人も少なくありません。
学校薬剤師の仕事内容
学校薬剤師は、学校でどのような仕事をしているのでしょうか?具体的な仕事内容について解説します。
環境衛生検査・給食施設検査
学校薬剤師のおもな仕事は、学校内の環境衛生検査です。具体的な検査項目と内容は、以下の通りです。
● プールや水道水・飲料水の水質検査
プールの水質や残留塩素濃度が適正か、大腸菌などの汚染がないか、消毒を行う設備に衛生上の問題がないかなどを確認します
● 教室内の照度検査
教室内の明るさを照度計で測定し、明るさが基準内であるかを確認します
● 教室内の空気検査
教室内の温度・湿度・二酸化炭素濃度などの値を測定し、トルエンやホルムアルデヒドといった有害物質が含まれていないかを調査します
● 教室内の騒音検査
教室内で外から聞こえてくる音が騒音に該当するレベルでないか、騒音計で確認します
● 給食施設の検査
給食施設(給食室・給食センター・食堂など)の食材や調理器具の保管場所、食器などの衛生状態、給食施設の水道水に異常がないかを確認します
それぞれの検査項目に従って検査し、結果を報告書の形式にまとめて学校へ報告するのが学校薬剤師の仕事です。また、必要に応じて改善のための指導や助言を行う場合もあります。
検査に使用する機器は高価で管理も難しいため、学校が所持しているケースは非常に稀です。薬剤師会の会員である学校薬剤師が、地域の薬剤師会から貸出を受けて検査を行うのが一般的です。
学校内にある薬品の検査・管理
学校には、理科の実験やプールの衛生管理で使う薬品、保健室に常備されている医薬品、生徒・児童が持ち込む医薬品など、さまざまな薬品が存在します。これらの管理状況を確認し、適切な管理ができるよう助言を行うのも、学校薬剤師の仕事です。
不要な薬品がある場合は、適切に廃棄するよう助言や指導を行い、毒物及び劇物取締法などの法律で管理方法が定められている薬品については、法律に則った適切な管理ができているかという観点でも確認する必要があります。
健康相談・保健指導・薬に関する授業
学校医や保健教師が担当することもありますが、インフルエンザや熱中症といった身近な病気についての保健指導や、シンナーや危険ドラッグなどの乱用・飲酒・喫煙が体に及ぼす影響についての啓発活動も、学校薬剤師の仕事のひとつです。
ほかにも、医薬品の適正使用に関する啓発活動や、ドーピング防止活動など、子どもたちを取り巻く環境の変化に合わせたさまざまな教育が求められるようになってきています。
また、アドレナリン自己注射薬(エピペン)や熱性けいれん用坐薬(ダイアップ)、てんかん発作時の口腔用液(ブコラム)など、児童・生徒が緊急時に使用する医薬品の管理を学校が任されるケースが増えてきています。このような医薬品について、学校薬剤師は学校と連携し、適切な管理や健康相談を行うことが求められています。ときには、これらを使用する可能性のある教職員に対し、医薬品の使用方法に関する講習を行う場合もあります。
学校薬剤師は薬の専門家として、対象となる児童・生徒の学年や教職員のレベルに合わせた難易度の授業・講習を行う必要があります。日々の患者応対で身につけた「相手に合わせて分かりやすく説明する」スキルが役立つかもしれません。
学校薬剤師になるために必要なスキル
学校薬剤師として働くために必要な資格は、薬剤師国家資格のみです。ただし、病院や薬局の業務とは異なり、学校薬剤師の業務は「環境衛生」の分野が中心的です。そのため、医学や薬学の知識のみならず、衛生化学の知識が必要とされるのが特徴です。
環境衛生といっても単純作業で検査を行うのではなく、児童・生徒・教職員とコミュニケーションをとりながら仕事を進めるスキルや、学校全体の環境衛生を良好に保つためのマネジメントスキルも必要となります。
また、健康相談や保健指導等の教育面に関しては、対象が児童・生徒であることがほとんどです。学校教育への理解や、職務に必要な知識の研鑽を続けておく必要もあります。
学校薬剤師の収入
学校薬剤師がもらえる報酬額は、市区町村や勤務する学校によって異なります。
学校薬剤師に支払われる報酬は税金から支給されているため、自治体により予算が異なります。報酬額は平均で年間16万円程度とされていますが、年間数万円から50万円程度とばらつきがあり、中には無償の場合もあります。また、報酬が支払われるタイミングもさまざまで、年額一括払いの場合もあれば、半年ごと月ごとに分割して支払われる場合もあります。
学校薬剤師は非常勤扱いのため、勤務日数は年に数回~多くても月1回程度と、さほど多くありません。それに準じて報酬額も低く設定されているため、本業としてではなく副業や地域貢献の目的で従事する薬剤師が多いのが特徴です。
ただ、「副業」という観点でみると実働時間が非常に短いこともあり、時給換算すると「おいしい仕事」と考える薬剤師もいます。また、兼業禁止の公務員や管理薬剤師であっても、学校薬剤師の収入については例外的に許可される場合も多いため、貴重な副収入源となる可能性があります。
学校薬剤師になる方法
学校薬剤師の求人が、一般のWEB求人サイトなどに出回るケースは非常に稀です。欠員状態も外からは見えにくいため、学校薬剤師として仕事をしたい場合は、さまざまな方法で「ツテ」を作ることが重要です。
地域の薬剤師会や教育委員会に問い合わせる
学校薬剤師を目指したいときは、地域の教育委員会や薬剤師会に問い合わせを行うのが1つの方法です。学校薬剤師に欠員があった場合、教育委員会経由で地域の薬剤師会に話が回り、薬剤師会の推薦で任用されるケースが多いためです。
地域によっては学校薬剤師が不足し、1人が複数校の学校薬剤師を兼務している場合もあります。教育委員会や薬剤師会は学校ごとに専任の薬剤師を任用したいと考えているため、欠員の学校がある場合は問い合わせた際に紹介してもらえる可能性があります。
学校薬剤師を募集している学校を探す
数は多くありませんが、WEB上で学校薬剤師を募集している学校もあります。
とくに私立学校の場合、各学校法人が独自に求人を出す場合もあるため、通勤圏内にある私立学校のホームページなどをこまめに確認するのもおすすめです。
地域貢献度が高い薬局に就職する
学校薬剤師の求人の多くは、地域貢献に積極的な薬剤師の内輪で出回るため、地域貢献度が高い職場に就職するのも1つの方法です。学校薬剤師は前任者の紹介で任用される例も多いため、実際に学校薬剤師として勤務している薬剤師のいる職場や、過去にそのような薬剤師がいた職場で働くのも学校薬剤師になるための近道です。
ただ、地域貢献に積極的な職場や学校薬剤師の輩出経験のある職場を個人で探すのは難しい場合もあります。こういった求人を自分で見つけられない場合は、転職エージェントの利用もおすすめです。非公開の求人を含め、多くの求人を扱う転職エージェントでは「学校薬剤師の業務を含む職場」や「学校薬剤師への任用を支援する職場」の求人を取り扱っている可能性があるかもしれません。
まとめ
学校薬剤師は日本に特有の制度で、大学以外の「学校」に配置が義務づけられています。実際の業務量はそこまで多くないため、普段は病院や薬局で働く薬剤師が学校薬剤師を兼務するのが一般的です。
学校薬剤師は、年に数回~多い場合で月1回程度学校を訪問し、さまざまな業務を行います。学校薬剤師になるために必要な資格は、薬剤師国家資格のみですが、医学や薬学の知識のみならず、衛生化学の知識が必要とされるのが特徴です。
学校薬剤師は非常勤扱いのため、報酬はさほど多くはありません。しかし、実働時間が非常に短いため時給換算すると割がいい場合も多く、貴重な副収入源となる可能性も秘めています。
学校薬剤師の求人が、一般のWEBサイトなどに出回るケースは非常に稀です。学校薬剤師として働きたい場合は、転職エージェントなどの利用も検討し、さまざまな方法で求人を探していくことが大切です。