「いずれ独立して、地域に根差した薬局を開業したい」と考える薬剤師の方は少なくないかもしれません。
しかし、実際に独立開業するとなると、何から始めたら良いのか、どのような手続きが必要なのか、資金計画はどう立てるべきか、人材の確保や育成はどうすれば良いのか、競合との差別化戦略はどう立てるべきかなど、多くの不安や疑問を持つ方も多いのではないでしょうか。
この記事では、薬剤師が独立開業するメリット・デメリットから、必要な手続き、具体的な開業の流れ、そして成功させるための重要なポイントまで詳しく解説します。
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👉薬剤師の転職相談はこちら(無料)薬剤師が独立するメリットとは?
まずは、薬剤師が独立することで得られるメリットをご紹介します。
自身の理想とする薬局経営や働き方を実現し、収入アップやスキルアップも期待できる点や、地域医療への貢献をより実感できる点は、大きな魅力のひとつです。
理想の薬局を作れる
独立して薬局を開業すると、経営方針や扱う医薬品などを自由に決められます。地域住民のニーズに合わせた薬局づくりや、専門性を活かした独自のサービス展開も可能です。
例えば、高齢化が進む地域であれば、在宅医療や介護相談に力を入れる、子育て世代が多い地域であれば、小児科やアレルギー科と連携し、専門性の高いサービスを提供するなど、地域に合わせた薬局づくりができます。
また、内装や外装、薬局オリジナルグッズなども自分の理想を追求できるでしょう。患者さんが心地良く過ごせる空間、スタッフが働きやすい環境、地域住民が集まるコミュニティスペースなど、薬局のコンセプトに合わせて自由にデザインできます。OTC医薬品に力を入れる、健康食品や介護用品の店頭販売を充実させるなど、独自性を出すことで、地域に必要とされる薬局を目指せます。
こういった独自の薬局づくりは、統一された設備や仕組みに沿って運営される大手薬局チェーンには難しい場合も多く、独立開業した薬局ならではのやりがいといえるでしょう。
自分の裁量で仕事ができる
独立して薬局を開業することで、勤務時間や休日などを自分で決めることができます。
従業員を雇用しシフトを調整することで、ワークライフバランスを重視した働き方や、子育てや介護と両立しやすい働き方も可能です。
例えば、午前中は子どもの学校行事に参加し、午後から薬局で働く、週に1日は在宅勤務を取り入れるなど、柔軟な働き方が可能です。
ほかにも、従業員のライフスタイルに合わせた勤務形態や、短時間勤務、フレックスタイム制などを導入することで、大手薬局チェーンとの差別化ができ、多様な人材が活躍できる職場環境を作ることができます。
経営者には定年もないため、ライフスタイルや健康状態に合わせて、長く働き続けることができます。いずれは、体力的な負担が少ない経営業務にシフトしたり、後継者に薬局を譲ったりするなど、生涯にわたり柔軟な働き方ができるのは、独立開業した経営者ならではのメリットです。
収入を上げることができる
経営が軌道に乗れば、年収1,000万円以上など勤務薬剤師時代よりも大幅な収入アップを目指せるのも、独立開業するメリットのひとつです。
例えば、複数の介護施設に営業をかけて処方箋の獲得数を増やす、じっくりと対人業務に取り組むことで高度な薬学管理料や指導料など高額な調剤報酬を算定するなど、自分の努力次第で大幅な収入アップにつなげることができます。
さらに経営が軌道に乗った後は、複数店舗展開や、オンライン服薬指導などの新たな事業展開にも成功すれば、さらなる収入アップも期待できるでしょう。
スキルアップになる
独立して薬局を開業することで、経営ノウハウやコミュニケーションスキル、マネジメント能力など、薬剤師としての薬に関する知識だけでなく、経営者として幅広いスキルを習得できます。
例えば、経営セミナーや研修に参加し、経営戦略や財務管理、マーケティングなどを学ぶ、従業員とのコミュニケーションを円滑にするために、コーチングやカウンセリングのスキルを習得するなど、自己啓発に積極的に取り組むことで、経営者としてのスキルを高めることができます。
また、地域住民や医療機関との連携を通じて、地域医療への貢献をより実感できるでしょう。例えば、地域の医療機関と連携して行う勉強会や講演会、地域住民向けの健康イベントを誰かに指示されて行うのではなく、自分の意思で企画・運営することができます。地域医療への貢献を通じて地域住民との信頼関係を築くことができる独立開業は、薬剤師としての成長を加速させる貴重な機会にもなるかもしれません。
薬剤師が独立することにはデメリットも
薬剤師の独立開業には大きなメリットがある一方で、経営者としての責任やリスクをともないます。
経営がうまくいかないと、勤務薬剤師時代よりも収入が減る可能性もありますし、多額の初期費用がかかり、これまで築き上げた貯金(自己資金)を失ってしまう場合もあります。また、トラブル対応などで休日も拘束される可能性や、働く場所が自分の薬局に限定される点も人によっては大きなデメリットとなるかもしれません。
経営者として、様々な課題に立ち向かう覚悟が必要です。
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👉薬剤師の転職相談はこちら(無料)薬局開業に必要な申請手続きとは?
薬局を開業するには、さまざまな申請手続きが必要です。
ここからは、薬局開設許可申請や保険薬局指定申請、そのほかに必要な申請について、具体的な手続き内容や必要書類、注意点などを詳しく解説します。
①薬局開設許可申請を行う
薬局を開設するには都道府県知事の許可が必要なため、薬局開設許可申請に必要な書類を薬局の所在地を管轄する保健所に提出します。
書類を提出した後は、薬局の構造設備(設備要件)や勤務する薬剤師の体制(人的要件)などが薬機法などの基準に適合しているか審査されます。
続いて、薬局として求められる設備要件や人的要件ついて詳しくみてみましょう。
【設備要件】
薬局内の環境や設備に関する基準は、薬機法や都道府県の条例で細かく定められています。例えば、清潔な環境、適切な照明、冷暗貯蔵設備、調剤室の広さ、換気設備、医薬品の保管設備などが挙げられます。これらの基準は、患者さんが安全に薬を受け取るためにも非常に重要です。
薬局の設計段階から薬局の所在地を管轄する都道府県の「薬局等許可審査基準及び指導基準」を参考にして、設備要件に不備がないよう注意することが大切です。
【人的要件】
薬局に配置する薬剤師の人数に関する基準は、患者さんへの適切な服薬指導や薬歴管理を行うために定められています。基本的には1日に扱う処方箋数によって決まり、以下のとおりとされています。
(1)その薬局において一日に応需する平均処方せん数が、四〇までである場合は一とし、四〇以上である場合は、それに四〇又はその端数を増すごとに一を加えた数
参考:厚生労働省「薬事法施行規則及び薬局及び一般販売業の薬剤師の員数を定める省令の一部改正について」
経営が軌道に乗った後は、処方箋数に応じて従業員を雇用しシフトを調整する必要があります。従業員の雇用には時間がかかる場合もあるため、どれくらいの処方箋枚数が見込めそうか、あらかじめ詳細にシミュレーションしておきましょう。
提出書類一覧
薬局開設許可申請には、以下のようなさまざまな書類を提出する必要があります。
● 設備構造の概要(薬局の平面図)
● 業務体制の概要
● 薬剤師・登録販売者の一覧
● 特定販売に関する事項(特定販売を行う場合)
● 薬剤師不在時間の概要(薬剤師不在時間が発生する場合)
● 登記事項証明書(法人の場合)
● 管理者の使用関係証明書(申請者が管理者でない場合)
● 勤務薬剤師・登録販売者の使用関係証明書
● 申請者に係る精神の機能の障害に関する医師の診断書
(申請者が法人の場合には、薬事に関する業務に責任を有する役員の診断書。ただし、精神の機能の障害により業務を適正に行うに当たって必要な認知、判断及び意思疎通を適切に行うことができないおそれがある者に限る。)
● 薬剤師免許証あるいは販売従事登録証(原本)
作成に時間がかかる書類もあるため、余裕を持って準備しましょう。
②保険薬局指定申請を行う
保険薬局として保険調剤を行うには、薬局開設許可申請だけでなく、地方厚生局長の保険薬局指定が必要です。
保険薬局指定申請は、都道府県知事による薬局開設許可を受けた後に行います。指定日は基本的に毎月1日になるため、申請書締切日を良く確認し、開局日までに余裕を持って申請しましょう。
提出書類一覧
保険薬局指定申請には、以下のようなさまざまな書類を提出する必要があります。
● 薬局開設許可証の写し
● 保険薬剤師の氏名・登録番号など
● 上記以外の薬剤師数
● 予定している開局日及び開局時間
● 法人登記簿謄本の写し
● 土地・建物登記簿謄本または賃貸借契約書の写し
● 周辺図
● 平面図
● オンライン資格確認の導入計画書
● 受付番号情報提供依頼書兼回答書の写し
● 社会保険及び労働保険への加入状況にかかる確認票及び加入状況が確認できる資料の写し
参考:関東信越厚生局「保険医療機関・保険薬局の指定申請手続きの流れ及び添付書類等」
作成に時間がかかる書類もあるため、余裕を持って準備しましょう。
③調剤薬局開設に必要なその他申請と書類一覧
薬局で取り扱う薬剤や業態などによって、そのほかの各種申請を別途行う必要があります。申請には、それぞれ指定の書式で申請書を作成し、必要に応じて添付資料も準備します。
● 専門医療機関連携薬局の認定(疾病の区分:がん)
● 薬局製造販売医薬品製造販売業の許可
● 薬局製造販売医薬品製造業の許可
● 店舗販売業の許可
● 卸売販売業の許可
● 高度管理医療機器等の販売業及び貸与業の許可
● 配置販売業の許可
● 再生医療等製品販売業の許可
● 管理者の兼務許可
● 麻薬小売業者の許可
● 向精神薬小売業者の許可
開業後のさまざまなケースを想定して、あらかじめ準備をしておきましょう。
薬局開業の流れ
薬局をスムーズに開業するには、綿密な準備と計画が不可欠です。ここからは、具体的な開業の流れを5つのステップに分けて解説します。
ステップ①保健所への事前相談
薬局の平面図や構造設備の概要を持参し、保健所の担当者に事前相談を行います。申請に必要な書類や手続き、構造設備の基準などを確認しましょう。その後の審査をスムーズにするためにも、事前相談では薬局のコンセプトや地域医療への貢献などあなたの想いも伝え、担当者と信頼関係を築くことが大切です。
ステップ②薬局開設許可申請
事前相談の内容を踏まえ、必要書類を揃えて薬局開設許可申請を行います。申請書類は、薬局の所在地を管轄する保健所に提出します。申請書類は、不備がないようにしっかりと確認し、余裕を持って提出しましょう。
ステップ③保健所の検査
内装工事まで完了した後に、保健所の担当者が薬局を訪問し、構造設備や医薬品の保管状況などが基準に適合しているかを検査します。検査では、薬局の清潔さや安全性、従業員の衛生管理なども確認されます。
ステップ④保険薬局指定申請
薬局開設の許可を受けた後、保険薬局指定申請を行います。申請書類は、薬局の所在地を管轄する地方厚生局に提出します。保険薬局指定を受けることで初めて保険調剤が可能となります。
ステップ⑤厚生局の審査・開局
厚生局の審査を経て、問題がなければ保険薬局として指定され、開局となります。開局後は、地域医療に貢献できるよう、患者一人ひとりと向き合い、信頼される薬局を目指しましょう。
薬局開業に必要な資格はある?
続いては、薬局開業に必要な資格や収益増加が見込める資格について確認しておきましょう。
薬局開業に薬剤師の資格は必須?
薬局開設者自身が薬剤師である必要はなく、薬剤師を雇い、薬局の管理者とすることで開業が可能です。ただし、薬局の管理者となる薬剤師は、一定の実務経験が必要とされています。
基準薬局の認定は収益増加が見込める
開局後に収益増加が見込める資格として「基準薬局の認定」が挙げられます。基準薬局とは、日本薬剤師会が定める基準を満たした薬局であり、認定を受けることで診療報酬の加算が見込めます。
認定要件としては、薬剤師の常駐、在宅医療への対応、休日・夜間の相談対応、研修制度の実施、地域医療機関との連携、薬歴管理の徹底、個人情報保護の徹底、医薬品の安全管理などが求められます。
認定を受けるメリットは、診療報酬の加算、地域住民からの信頼向上、薬剤師のスキルアップ、薬局のブランド力向上、地域医療への貢献、薬局経営の安定化などが挙げられます。一方で、デメリットとしては、人件費や研修費の増加、認定要件を満たすための準備や維持の負担、地域によっては認定要件を満たすことが難しい場合があること、認定後も定期的な研修や審査が必要となることなどが挙げられます。
メリットとデメリットを良く吟味した上で、認定を目指すかどうかの判断を行いましょう。
薬剤師が独立して薬局を開業するのは難しい?
ここまでで解説したように、薬剤師が独立して薬局を開業するのは、決して容易な道ではありません。
無事に開業まで漕ぎ着けた後も、経営不振や予期せぬトラブル、人材確保の難しさなど、さまざまな困難が待ち受けています。特に、近年は調剤報酬改定や競合の増加、さらには新型コロナウイルス感染症のような予測不能な事態など、薬局経営を取り巻く環境は厳しさを増しています。
しかし、綿密な計画と準備、そして何より「地域医療に貢献したい」「理想の薬局を作りたい」という強い意志があれば、独立は決して不可能ではありません。リスクを十分に理解し、覚悟を持って挑戦することが大切です。
また、独立開業を成功させるためには、薬剤師としての専門知識だけでなく、経営に関する知識やスキルも必要です。開業前に、経営セミナーや研修などに参加し、必要な知識を習得しておきましょう。さらに、地域の医療機関や住民と積極的にコミュニケーションをとり、あらかじめ信頼関係を築いておくことも重要です。
薬剤師の薬局開業を成功させるポイント
薬局開業を成功させるためには、事前準備と戦略が不可欠です。ここでは、具体的なポイントを2つ紹介します。
スケジュール管理と資金計画
薬局の開業には、物件の選定、内装工事、医療機器の導入、人材の確保、各種許認可の取得など、さまざまな手続きや準備が必要です。スケジュールに余裕を持って、計画的に進めましょう。
また、薬局開業を成功させるためには、資金計画も重要なポイントです。開業に必要な資金を明確にし、自己資金だけでなく、必要に応じて融資なども検討しましょう。日本政策金融公庫や信用保証協会など、薬局開業向けの融資制度も活用できます。薬局の立地や規模によって、必要な資金は大きく異なります。事前に複数の物件を比較検討し、賃料や初期費用、将来的な収益性などを考慮して、資金計画に無理がないか確認しましょう。
人脈形成と情報収集
地域の医療機関やほかの薬局経営者との人脈は、開局前の情報収集や開局後の地域連携に役立ちます。地域の薬剤師会に所属するなど積極的に交流し、医療情報や経営ノウハウなどの情報交換を行いましょう。
また、薬局開業を成功させるためには、常に最新の情報を収集し、経営に役立てることも重要です。調剤報酬改定や薬機法改正など、薬局経営に影響を与える最新情報には常にアンテナをはり、もれなく把握しておきましょう。
情報収集には、WEBや書籍だけでなく、地域の薬剤師会や医療機関が主催する勉強会やセミナーなども活用できます。このようなイベントに参加することで、最新の情報を得られるだけでなく、ほかの薬局経営者との交流も深めることができるかもしれません。
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薬剤師の独立は、多くのメリットと同時にリスクもともないます。しかし、綿密な準備と計画、そして何より「地域医療に貢献したい」という強い意志があれば、理想の薬局を実現できるでしょう。
独立開業は、薬剤師としてのキャリアにおける大きな挑戦です。しかし、成功すれば、地域医療への貢献や自己実現など、勤務薬剤師では決して味わうこともできない大きな喜びを得ることができます。
この記事が、あなたの独立への第一歩を踏み出すきっかけとなれば幸いです。