「薬剤師が個人薬局に転職するメリットって?」「大手チェーン薬局との違いや年収を知りたい…」と考えている薬剤師の方もいるかもしれません。
薬剤師が転職を考えるとき、待遇や福利厚生などさまざまな観点から自分に合う職場を選ばなければなりません。特に薬局の場合、経営規模で環境や年収が変わることもあるため、注意が必要です。
この記事では、個人薬局と大手チェーン薬局の違い、個人薬局へ転職するメリット、個人薬局への転職で注意すべきポイント、個人薬局への転職が向いている薬剤師・向いていない薬剤師について、ドラッグストア勤務経験のある元病院薬剤師が解説します。この記事を読めば、薬剤師が個人薬局に転職するメリットが分かります。
個人薬局と大手チェーン薬局の違い
ここでは、個人薬局と大手チェーン薬局のおもな違いを解説します。
年収
個人薬局
令和3年に中央社会保険医療協議会で実施した、医療経済実態調査によれば、薬剤師の年収を店舗数別に見た場合、最も平均年収が多いのは店舗が1つしかない個人薬局です。管理薬剤師で約849万円、一般薬剤師で約529万円となっています。
大手チェーン薬局
医療経済実態調査では、20店舗以上の大規模チェーン薬局薬剤師の年収は、19店舗以下の中小・個人薬局に比べて少ないと報告されています。管理薬剤師で約650万円、一般薬剤師で約461万円としています。
職場の環境・雰囲気
個人薬局
個人薬局の職場の環境・雰囲気の特徴としては、以下のようなものが挙げられます。
● 地域密着型が多い。
● スタッフの入れ替わりが少ない。
● スタッフ間の距離が近く、アットホームな雰囲気である。
● 経営者自身や経営者家族が一緒に働いていることもあり、経営者との距離が近い。
● 設備が古い場合もある。
● 福利厚生や教育制度が整っていないこともある。
個人薬局はスタッフが少人数であるため、アットホームな雰囲気を感じやすい特徴があります。そのため、急な休みや有給休暇が取りにくいというケースも多くあります。また、設備が古いのも個人薬局の特徴です。手書きの紙薬歴・薬袋を使うので、業務効率が悪い場合もあります。
しかし個人薬局は経営者との距離が近く、一人ひとりを見てくれる風土があることが多いでしょう。濃い密度でスタッフとも患者とも接するので、治療に深く関われるでしょう。
大手チェーン薬局
大手チェーン薬局の職場の環境・雰囲気の特徴としては、以下のようなものが挙げられます。
● 異動が多い場合は地域に根差した医療への貢献が難しいこともある。
● スタッフの入れ替わりが多い。
● 他店舗からの応援要請がある。
● 接遇や服装の規定が厳しい傾向がある。
● 設備は新しいことが多い。
● 福利厚生や教育制度が充実していることが多い。
大手チェーン薬局で働くとき の大きな特徴に、異動の可能性があります。全国展開の大手であれば、県をまたぐ転勤もありえるので、地域医療への貢献は難しいこともあります。また、待遇面や教育制度、福利厚生が充実しているのも、大手チェーン薬局の特徴です。設備は新しいことが多い傾向なので、業務は効率よく快適にできるでしょう。
スキルアップ・キャリアアップ
個人薬局
個人薬局では、他店舗を経験することが少ないため、疾患や処方薬が限定されることが多く、その場合は、スキルアップが難しいかもしれません。また、管理職を経営者家族が独占している場合、キャリアアップも難しいでしょう。
しかし、経営者との距離が近いので、環境によっては、経営や店舗運営に関するノウハウを学べる場合もあります。
大手チェーン薬局
大手チェーン薬局は、個人薬局と比較するとスキルアップしやすいでしょう。店舗間の異動や応援業務の経験で、幅広い診療科目を経験でき、スキルアップが期待できます。
勉強会や研修が用意されていることも多く、さらにマネージャー職や本社業務を任されることもあるので、調剤以外のスキルが得られる可能性もあります。
個人薬局へ転職するメリット
ここでは、個人薬局への転職で得られるメリットを紹介します。
高年収が狙える
個人薬局は、一般的に大手チェーン薬局より高年収が可能です。なぜなら個人薬局は大手チェーン薬局と比べると薬剤師の確保が難しいので、高めの年収に設定している傾向があるからです。ただ、勤務評価を経営者の裁量ですることが多いので、昇給が期待できない可能性もあります。
ただ、 後継者候補を募集している個人薬局なら、管理薬剤師よりもさらに上のポストを狙えるでしょう。
引っ越しをともなう異動がない
基本的に異動や他店舗応援も少なく、あったとしても通える範囲である可能性が高い のが特徴です。生活圏を変えなくて済み、自宅から近い店舗を選べば、通勤の負担が少なくて済みます。ひとつの薬局で長く働けることも多く、さらに他のスタッフの出入りも多くないので、慣れれば落ち着いて勤務できるでしょう。
地域に根差した医療に貢献できる
多くの個人薬局は地域密着型です。異動が少なく患者との距離が近くなるため、一人ひとりと深く関わるようになります。患者の小さな体調変化にもすぐ気づくようになり、頼られるようになるとやりがいも大きくなるでしょう。地域医療を支えて、住民の健康を守る、薬剤師として活躍することが期待できます。
子育て中の場合は、家庭と両立しながら勤務を続けることも可能です。
個々の裁量が大きい
個人薬局では薬剤師 が少ないことが多いため、組織的なルールで働く大手チェーン薬局よりも裁量が大きい傾向があります。
個人薬局では、与えられる役割が増え、たとえ一般薬剤師やパート薬剤師でも意見が反映されることも多く、改善案を提案すれば働きやすい職場に変えていける場合もあります。大手チェーン薬局の場合、在籍薬剤師の1人なので、期待される役割は大きくありません。
活躍が期待され、機械的作業ではなく、やりがいを持って仕事に取り組めるようになるでしょう。
経営者との距離が近い
経営者との距離が近く、風通しが良いのも、個人薬局へ転職するメリットのひとつです。経営者の考え方や人柄を十分に把握できるので、自分の意見も伝えやすいでしょう。大手チェーン薬局だと社長と直接話す機会というのはなかなかないものですが、個人薬局ではこれが可能です。
労働環境の改善を含めて困りごとがあったときに、個人薬局だと経営者へすぐ相談できます。一薬剤師であっても重要なスタッフなので、柔軟に意見を聞いてもらえます。そのため、勤務時間や報酬などの条件交渉がしやすいでしょう。
環境によっては、経営のノウハウを身に付けるチャンスもあるかもしれません。
個人薬局への転職で注意すべきポイント
ここでは、個人薬局への転職で注意すべき点・デメリットを紹介します。
個々の業務負担が大きい
個人薬局では、スタッフの人数が限られているので個々の業務負担が大きくなることがあります。例えば、大手チェーン薬局では医薬品の在庫管理や発注は本部で管理されていることも多く、ある程度は自動化されていることが多いようです。しかし、個人薬局では、その日の欠品を翌日までに手動発注する管理体制であることも多くなっています。
また他店からの応援が期待できないため、年次有給休暇の取得 が難しい場合もあるでしょう。さらに急な退職者が出ると、業務負担が増大する可能性も考えられます。
上のポストを目指すのが難しい
個人薬局は店舗数が少ないので、小規模になるほどポストは少なく、上を目指すのであっても現実的には難しくなる場合があります。また家族経営の個人薬局の場合は、重要なポストは関係者を当てることが多いので、経営にかかわるポストを得るのも難しいでしょう。
転職を検討する場合は、このような点も確認しておくことが必要です。
教育体制や福利厚生が不十分なことがある
個人薬局の教育体制はOJTが基本です。OJTとは On the Job Trainingの略で、上司・先輩が部下・後輩に実際の仕事を通じて直接指導する教育方法のことです。当然ですが、OJTによる教育は、会社や教えてくれる上司・先輩によっても質が大きく左右されます。
また、個人薬局では大手のような整った福利厚生は期待できないことも多くなっています。福利厚生とは
「法定福利厚生」と呼ぶ社会保険と「法定外福利厚生」がありますが、ここで指すのは法定外福利厚生のことです。法定外なので内容は会社によって異なります。
法定外福利厚生の例として挙げられるのは、住宅手当や通勤手当、家族手当、健康診断補助、社員食堂、結婚祝い金や出産祝い金の支給、社員旅行などです。
システム面で遅れている場合がある
個人薬局では、設備投資が十分でなく、古い型の機器を使っていることもあります。そのため、効率の悪い業務を強いられる場合もあるでしょう。
実際の仕事現場は、転職時の職場見学を実施すれば分かります。職場見学の時に、調剤機器や薬剤師がどのように動いているかを確認するようにするのが良いでしょう。
経営者が変わる場合がある
個人薬局に起こり得ることして、店舗売却や大手に吸収されるなどのリスクが挙げられます。大手チェーン薬局によるM&Aのことを頭の隅に置いておくようにしましょう。この場合、転職時と勤務条件が変わるおそれがあります。
経営が順調だったとしても、慢性的な薬剤師不足や後継者がいない、事業承継ができないなど要因はいろいろなので安心できません。
個人薬局への転職が向いている薬剤師・向いていない薬剤師
ここでは、個人薬局に向いている薬剤師と向いていない薬剤師の特徴を説明します。
個人薬局への転職に向いている薬剤師
個人薬局への転職に向いているのは、以下のような薬剤師です。
● 調剤スキルのある薬剤師
● 生活圏を変えたくない薬剤師
● 地域医療に貢献したい薬剤師
● 高収入を得たい薬剤師
教育体制が整っていないので、個人薬局では即戦力であることが求められます。また子育て中で生活圏を変えたくない薬剤師にもおすすめです。異動の心配がほとんどないので安心して働くことができ、子どもの
急な発熱での呼び出しがあった場合にも、短時間で対応しやすい のは魅力です。
地域の顔として活躍したい場合も、同じ薬局で長期間働くことのできる個人薬局はおすすめです。
慢性的な人手不足なので、実力派薬剤師には、相場以上の年収提示がある可能性が高いと言われています。
個人薬局への転職に向いていない薬剤師
個人薬局への転職に向いていないのは、以下のような薬剤師です。
● 調剤経験のない薬剤師
● ブランクの長い薬剤師
● スキルアップ・キャリアアップしたい薬剤師
● 調剤環境の整った薬局で働きたい薬剤師
調剤経験がなくても、ブランクが長くても、薬剤師資格があれば、大半の薬局へは転職が可能です。しかし、業務をこなすためには、ある程度の教育を受ける必要があるので、研修制度が充実していない個人薬局ではない方が良いでしょう。
またスキルアップ・キャリアアップしたい薬剤師も、個人薬局ではあまり成長できず、その店舗でしか働けない薬剤師になってしまう可能性があります。数年後に他の薬局へ転職してキャリアアップしようと考えても、即戦力として見てもらえないかもしれません。
調剤環境の充実した薬局で働きたい場合も、個人薬局ではない方が良いでしょう。資金に余裕がないと最新機器を購入できません。
まとめ
この記事では、個人薬局と大手チェーン薬局の違い、個人薬局へ転職するメリット、個人薬局への転職で注意すべきポイント、個人薬局への転職が向いている薬剤師・向いていない薬剤師について、解説してきました。
個人薬局への転職は、高年収が狙える、引っ越しを伴う異動がないなどのメリットがある一方、個々の業務負担が大きい、上のポストを目指すのが難しいなどの注意すべきポイントもあります。
自分の調剤経験やスキル、今優先していること、キャリアアップを望むのか地域貢献したいのかなどを考え個人薬局への転職に向いているのかどうか検討してみましょう。
転職活動で大切なのは、希望条件の優先順位を決めることです。転職前にはキャリアの棚卸しをし、また将来のキャリアプランを考え、最適な選択ができるように準備しましょう。