TDMとは?TDMの重要性と薬剤師の役割を解説

「TDMって何?」「TDMでの薬剤師の役割を知りたい…」と考えている薬剤師の方もいるかもしれません。TDMとはTherapeutic Drug Monitoringの略で、「薬物血中濃度モニタリング」のことです。

薬物投与で現れる薬効には個人差があり、同じ用量でも、血中薬物濃度は人によって異なります。安全域や有効血中濃度域が狭い薬物は、血中薬物濃度の個人差が致命的な場合もあるので、注意が必要です。薬物治療にTDMを活用する病院も増えつつあり、TDMに関する知識や実務経験は薬剤師のスキルとしても重要です。

この記事では、TDMの対象となる薬剤やTDMにおける薬剤師の業務内容、TDMにかかわる薬剤師に求められるスキルについて、ドラッグストア勤務経験のある元病院薬剤師が解説します。この記事を読めば、TDMの重要性と薬剤師の役割が分かります。

そもそも「TDM(薬物血中濃度モニタリング)」とは

ここでは、TDMの概要についてと有用性を解説します。

TDMとは

TDMとは、治療効果や副作用に関するさまざまな因子をモニタリングしながら、それぞれの患者に個別化した薬物投与をすることです。血中濃度と治療効果や副作用に相関がある薬物では、血中濃度を測定・解析した結果と臨床所見から投与計画を作成します。

薬物血中濃度に個人差が出てくるのは、一般に投与された薬物の吸収や分布、代謝、排泄の経路のひとつひとつには差があるからです。例えば、薬剤の多くは肝臓で代謝されますが、肝機能が低下していると代謝されにくく、薬物血中濃度は通常よりも高めの値になります。また、腎機能が低いと排泄されにくく体内に蓄積され、薬物血中濃度は高めになってきます。

現在、薬物血中濃度モニタリングに関するガイドラインがあるのは、循環器薬・抗菌薬・抗てんかん薬・免疫抑制薬の4つです。

TDMの有用性

薬物血中濃度の治療効果と副作用が密接な関係にあるとき、投与設計の指標となりえます。

TDMには以下のようなメリットがあります。

● 薬物体内動態が把握できる。
● 医薬品の適正量の投与が可能になる。
● 多剤併用の可否の判断に役立つ。
● 中毒・副作用の早期発見につながる。
● ノンコンプライアンスに気づける。

そのため、患者の病状が急変したときや、投与方法が変更後、投薬量が十分であるにもかかわらず薬効が認められないような場合に特に有用です。

治療有効域の狭い薬剤や中毒域と有効域が接近している、投与方法や投与量の管理の難しい薬剤(ジゴキシン、テオフィリンなど)の血中濃度測定については診療報酬上で、特定薬剤治療管理料が算定できます。

TDMの対象となる薬剤

ここでは、TDMの対象となる薬剤の例と代表的な薬剤についてTDMが必要な理由を解説します。

TDMの対象となる薬剤

TDMは、治療有効域の狭い薬剤や、中毒域と有効域が接近していて、投与方法・投与量の管理が難しい薬剤が対象で有用です。

TDMが有用な薬剤の例とその理由は、以下の通りです。

【TDMが有用な薬剤の例とその理由】

薬剤の例 理由
シクロスポリン、タクロリムス、抗てんかん薬薬効や副作用の測定が簡単でない
抗生物質や抗悪性腫瘍薬効果と耐性防止が期待できる
ジギタリス製剤や抗生物質など用量と血中濃度の関係で個人内・個人間の変動が大きい
フェニトイン、アプリンジン、テオフィリン服用患者の一部用量と血中濃度の関係で直線関係が成立しない
+シメチジン→テオフィリン(↑)、+フェニトイン→テオフィリン(↓)など併用薬剤の変更で薬物血中濃度の変動が予想できる
カルバマゼピン 代謝酵素の自己誘導で薬物動態が変化する

参考:日本TDM学会|薬物血中濃度が有用な場合

疾患の急激な変化で、心機能や肝機能、腎機能が変化すると、薬物動態も変化します。循環器疾患や悪性腫瘍の患者では注意が必要なため、TDMが有用な場合もあります。

TDMが必要とされる理由

ここでは、薬剤毎にTDMが必要とされる理由を解説します。

ジゴキシンの場合

ジゴキシンの有効血中濃度域はとても狭く、中毒域と隣り合わせため、細かい投与設計と患者の十分な観察が必要です。血中濃度が低いと疾患のコントロールが不十分になる一方、血中濃度が高すぎると致死的な状態を招くおそれがあります。

経口投与の場合の採血は投与8時間後~次回投与直前に行います。有効血中濃度域は0.5~2.0ng/mlです。リドカイン、ジソピラミドなどの抗不整脈においても、同様にTDMが有効です。

出典:広島市医師会|薬物血中濃度測定の重要性~TDM(治療薬物モニタリング)の基礎知識~

テオフィリンの場合

テオフィリンは古くから使用されている薬ですが、通常の裸錠のほかに、作用が持続する「徐放性製剤」が普及しています。テオフィリンは血中濃度のピーク値に依存して副作用が起こるので、副作用を確認する場合にはピーク時に採血する必要があります。

テオフィリンの半減期は約7.5時間です。最低血中薬物濃度(トラフ濃度:次回投与直前)での採血に加え、副作用を防ぎたい場合の採血は、徐放性製剤では投与4時間後、裸錠では投与2時間後(ピーク濃度)にする必要があると言われています。有効血中濃度域は10.0~20.0μg/mlです。

出典:添付文書|テオフィリン、広島市医師会|薬物血中濃度測定の重要性~TDM(治療薬物モニタリング)の基礎知識~

バルプロ酸の場合

疾患をコントロールするためには、血中濃度を一定に保つ必要がありますが、バルプロ酸は半減期が13.8時間と比較的短く、血中濃度が大きく変化する可能性がある薬剤です。

そのために時間を定めて採血する必要があり、最低血中薬物濃度(トラフ濃度:次回投与直前)での採血が適切であるといわれています。有効血中濃度域は50.0~100.0μg/mlです。

出典:添付文書|バルプロ酸、広島市医師会|薬物血中濃度測定の重要性~TDM(治療薬物モニタリング)の基礎知識~

フェニトインの場合

通常、薬剤の投与量と血中濃度とは比例関係(線形体内動態)にありますが、フェニトインはあるところを過ぎると、少し投与量が増えただけで血中濃度が急激に上昇して中毒域に入ってしまう場合があります。

この現象が「非線形体内動態」です。これは、フェニトインが肝臓での代謝が飽和状態になるためとされています。血中濃度の測定は必ずしなければならず、最低血中薬物濃度(トラフ濃度:次回投与直前)での採血が適切であるといわれています。有効血中濃度域は10.0~20.0μg/mlです。

出典:広島市医師会|薬物血中濃度測定の重要性~TDM(治療薬物モニタリング)の基礎知識~

炭酸リチウムの場合

炭酸リチウムの有効血中濃度域は狭いので、中毒症状が出現しやすく、血中濃度測定による厳しい監視が必要です。最低血中薬物濃度(トラフ濃度:次回投与直前)での採血が適切で、有効血中濃度域は0.60~1.20mEq/lです。

炭酸リチウムによるリチウム中毒は重症になると死亡してしまう場合もあるので、薬剤を増量した場合や併用薬の必要が出た場合は、TDMを実施しなければなりません。

出典:広島市医師会|薬物血中濃度測定の重要性~TDM(治療薬物モニタリング)の基礎知識~

バンコマイシンの場合

感染症治療に用いられるバンコマイシンは、薬物動態や薬力学的特性の個人差が大きいので、治療用量を決めたり副作用の発現を防止したりするために、TDMを実施します。

有効血中濃度域は5~15μg /mlです。他にはテイコプラニンやアルベカシンなどの抗菌剤もTD実施が推奨されています。

出典:日本TDM学会|TDMの基礎知識

TDMにおける薬剤師の業務内容

TDMは、薬剤師の中でも病院に勤務する薬剤師が行う業務です。現在、TDMを積極的に運用している病院は限られており、運用していても一部の薬剤にとどまることも多いようです。主な理由は、人材不足や保険診療上の問題のためです。

そうでなくとも、病院薬剤師の業務は、調剤や院内製剤、病棟での服薬指導、外来化学療法、無菌調剤、医薬品管理など多岐に渡り、拡大する一方です。TDMの重要性は認知されつつ、まだ十分に運用されていないというのが現状のようです。ここでは、TDMにおける病院薬剤師の業務や役割を解説します。

対象薬物の血中濃度測定

TDMをするのは基本的に病院内で、測定装置や専用キットを使って、薬物血中濃度を測定します。医療機関によっては、看護師などが採血のみ行い、民間の検査センターへ依頼する場合もあります。

しかし、解析結果を患者への治療に生かすためには、結果を早期に知らねばならず、院内で薬剤師が薬物血中濃度を測定しなければなりません。代表的な血中濃度測定法には、免疫学的測定法と分離分析法があります。

データの解析および治療への反映

薬物血中濃度データと患者情報(体重・性別・腎機能など)を用いて検査結果を解析します。解析結果が適切な薬物血中濃度ではない場合は、投与量や投与間隔を検討し、薬物血中濃度が治療域におさまるように、処方へ反映させます。

データ解析結果を治療へ反映させるためには、薬剤の特性を十分に理解しておく必要があるので、一連の業務は薬剤師ならではの仕事でしょう。

医師などと情報を共有

医師や看護師などほかの医療職と電子カルテで解析結果の情報を共有したり、カンファレンスに参加して処方変更を提案したりします。薬剤師がバンコマイシンを投与している全患者の血中濃度測定と解析を実施し、対象症例119例中72例に用法・用量の変更を推奨したところ,処方変更率が80.4%に達したとの報告もあります。

また、TDMの実施でバンコマイシンの投与日数が減少した、複数の解析データを設定可能な血中バンコマイシン濃度解析ソフトを用いて、透析患者でバンコマイシン血中濃度を高度に予測、副作用の発現なしに患者を短期間で治癒させたなど、抗生物質の適正使用が可能になり、使用量減少や副作用回避に繋がったという報告もされています。

参考:日病薬誌|医療の質向上のためのチーム医療への薬剤師の関与とその成果に関する論文実例集⑶TDM領域

薬剤師は薬の専門家です。その専門家がTDMを介して、処方に関わると、薬物治療の有効性と安全性の確保につながるということでしょう。

TDMにかかわる薬剤師に求められるスキル

ここまで来て、TDMに関わることを望むようになった薬剤師の方もいるのではないでしょうか。ここでは、携わる薬剤師に求められるスキル・あるとよい資格などを解説します。

医薬品の特性や薬物動態に関する知識

対象薬剤の特性や体内動態、臨床検査値に関する専門知識が必要です。十分な知識がないと、得られたデータを多角的に評価できません。医薬品が投与されてから、効果を発現するまでには、吸収や代謝などさまざまな過程があります。

「薬物血中濃度が最大になるのはいつか」「有効血中濃度はどのくらいなのか」「併用薬による相互作用はあるのかないのか」「食事の影響は受けるのか」など、複合的に治療を評価するスキルがなくてはなりません。TDMの対象薬剤は多くありませんが、特性をより深く理解している必要があり、多くの医薬品に関わる薬局薬剤師と大きく異なる部分です。

コミュニケーションスキル

近年、薬剤師は従来の薬中心の対物業務から患者中心の対人業務のシフトが必要とされています。TDMでも患者とのコミュニケーションは必要なので、分かりやすく伝える力や必要な情報を聞き出す力といった、コミュニケーションスキルは必須と言えるでしょう。

「薬物血中濃度が低いのは用量が少ないからだ」と判断しても、ひょっとすると患者が服用していないだけかもしれません。患者からコンプライアンスの情報を聞き出せなければ、過量処方になってしまう可能性もあるでしょう。「飲み忘れたというと怒られる」と思っている患者もいるので、適切な治療をためにはコンプライアンスも必要な情報だと理解してもらい、情報を聞き出すことも必要です。

また解析結果や処方設計、投与計画などに関する情報をほかの医療職と共有しなければならないため、同じ医療職とのコミュニケーションスキルも欠かせません。

抗菌化学療法や感染制御に関する認定薬剤師資格

TDM業務をする際に必要な資格はありませんが、「抗菌化学療法認定薬剤師」や「感染制御認定薬剤師」の資格があるとより専門性を発揮できる可能性があります。例えば「抗菌化学療法認定薬剤師」は、抗菌化学療法のスペシャリストで、抗菌薬をモニタリングするTDMでは高いレベルの専門性を発揮できることでしょう。

資格を持っていなくてもTDMに携わってから、「抗菌化学療法認定薬剤師」をはじめとする認定資格の取得を目指すことも可能です。前向きな気持ちを持っている方はTDM業務にトライするのも良いでしょう。

まとめ

TDMの対象となる薬剤、TDMにおける薬剤師の業務内容、TDMにかかわる薬剤師に求められるスキルについて解説してきました。

薬物投与で現れる薬効には個人差があり、同じ用量でも、血中薬物濃度は人によって異なります。安全域や有効血中濃度域が狭い薬物は、血中薬物濃度の個人差が致命的な場合もあるので、注意が必要です。薬物治療にTDMを活用する病院も増えつつあり、TDMに関する知識や実務経験は薬剤師のスキルとしても重要です。

TDMをするためには薬剤師であること以外の要件はありませんが、医薬品の特性や薬物動態に関する知識やコミュニケーションスキルは必要です。抗菌化学療法や感染制御に関する認定薬剤師資格があるとより専門性を発揮できる可能性があります。

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