「薬剤師外来」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?医師の外来診察の前後に、薬剤師が面談をおこなうことを指します。
近年、がん化学療法を受ける患者などに対して、薬剤師外来を実施する施設が増えてきており、今後も更なる発展が期待される業務です。
今回は、薬剤師外来の目的やメリット、実際の取り組み内容などについて、具体的にご紹介します。
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薬剤師外来は、診療や薬物療法の質を高める目的に、外来患者に対して、医療機関の薬剤師が面談・服薬指導をおこなうことです。2014年に「がん患者指導管理料3」が新設されたことが、薬剤師外来が展開されるきっかけになりました。
薬剤師外来の役割
薬剤師外来は、まだ発展途上のシステムではありますが、一部には加算がつくなど、その効果が期待されている業務といえます。薬剤師外来に求められる4つの役割についてご紹介しますので、参考にしてみてください。
高齢者への安全な薬物療法の提供
高齢者は加齢に伴う臓器機能の低下のため、薬物療法において有害事象をきたしやすいです。また、多数の疾患を抱える方も多く、ポリファーマシーによって相互作用の問題も多くなります。
安全な薬物療法を提供するためには、薬剤師が専門家としての視点を持ち、他院での処方薬も含めて総合的にアセスメントする必要があります。検査データや副作用状況を加味してその場で医師と協議できるのが、薬剤師外来をおこなうメリットと言えるでしょう。
アドヒアランスの向上
患者の生活習慣や嚥下機能・認知機能などを考慮し、患者が服薬しやすいように用法や剤形の変更提案をおこない、アドヒアランスの向上を支援することも、薬剤師に求められる役割の1つです。
一人ひとりの生活に即していない服用方法では、服薬を続けられず、思うような治療効果を得られないこともあります。残薬が多量に発生し、医療費が膨らむ原因にもなります。
患者に合った薬物療法がおこなえるよう、適切な支援をすることが大切です。
医師の負担を軽減
医師の働き方改革の一環として、他職種へのタスクシフトが進められるようになりました。薬剤師も、糖尿病患者への実技指導、薬物療法に関する説明、処方支援、プロコトールに基づいた投与量の変更などを通して、医師の業務負担軽減に貢献することが求められています。
たとえば、抗悪性腫瘍剤の必要性や効果・副作用などを十分に説明にするには、ある程度の時間が必要です。医師の診察の後に薬剤師が説明を実施することで、外来診療がスムーズに進められるようになります。
参考:現行制度の下で実施可能な範囲におけるタスク・シフト/シェアの推進について(医政発0930第16号)
入院・外来のシームレスな薬学管理
入院・外来の薬学管理を一貫して行うことで、患者の安全性と治療効果を最大化することが可能です。入院時には、担当薬剤師が持参薬を確認し、適切な薬物療法を計画しています。新規に開始された薬剤については、服薬指導を実施しているでしょう。
退院後も、薬剤師外来を通して継続的に服薬状況をフォローし、必要な介入をしていくことで、アドヒアランス向上や再入院の防止につなげることができます。また、術前の中止薬などを適切に指導し、安全な周術期管理に貢献することも重要です。
薬剤師外来のメリットとは?
薬剤師外来は、患者や医師にとって有益な活動だとお伝えしてきました。薬剤師にとっては、どのようなメリットが得られるでしょうか?薬剤師外来のメリットを2つご紹介します。
入院前から患者の情報がわかる
たとえば、入院前からの関わりとして、次のようなケースが考えられます。
● 手術前に服用薬の確認のため面談をする
● 外来化学療法で関わっていた患者が、レジメン変更のため入院する
● 心不全の指導で関わっていた患者が、心不全の増悪で入院する
このような場合、これまでに関わってきた薬剤師から患者の服薬状況、性格、フォローすべき点などを引き継ぐことができます。蓄積された患者情報をもとに、シームレスな連携、より密で個別性の高い薬物療法の提供が可能になるでしょう。
予定入院の場合、事前に情報が揃っていれば、薬物の相互作用は問題ないか、特殊な対応は不要かなど、時間をかけて検討することも可能です。薬物療法の安全性を高めることができます。
患者と長く関わることができる
これまで病院薬剤師は、患者が入院中しか関わることができず、退院後にどうなったかはフォローできていませんでした。薬剤師外来で、薬剤師も医師のように継続的に患者フォローができるようになれば、医師と協議しながらより良い薬物療法に貢献できるほか、患者のアドヒアランス向上も目指すことが可能になります。
長期的に関わることで、患者との信頼関係構築もしやすくなり、薬物療法への不安軽減も期待できるでしょう。
薬剤師外来のデメリットとは?
薬剤師外来は、患者や医師にとって有益であるだけでなく、薬剤師の職能を活かせる業務範囲の拡大が期待される業務です。一方で、デメリットとなり得る点もいくつかあります。
インセンティブが比較的少ない
現状、薬剤師外来に加算がついているのは「がん薬物療法体制充実加算」のみです。術前の内服薬確認(いわゆる周術期外来)などには、インセンティブがついていません。
そのため、薬剤師外来を実施したいと思っても、診療報酬が得られない「サービス」になってしまう以上、病院経営の観点から、活動に理解を得られない可能性があります。
人員配置の問題が生じる
薬剤師外来をおこなうために人員を割くには、薬剤部全体として人員配置の調整が必要になります。限られた人数の中で調剤業務・病棟業務などに加えて薬剤師外来をやるのであれば、時間外業務が増えてしまう可能性もあるでしょう。
新たに薬剤師を採用するには、相応の経営への貢献が求められます。診療報酬がほとんどついていない以上、人員配置を工夫して薬剤師外来に配置させなければならないため、不満が出てしまうかもしれません。
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👉薬剤師の転職相談はこちら(無料)薬剤師外来の業務内容【治療開始前の面談】
薬剤師外来では、実際にどのような業務をおこなうのでしょうか?治療開始前の面談の場合について、医師の診察前後でおこなう薬剤師の活動をご紹介します。必要性の理解が進めば幸いです。
診察前・診察時の業務
診察前には、今後おこなわれるであろう治療を念頭に置き、患者情報を収集し、アセスメントを実施しておきます。
確認すべき代表的な項目は、以下です。
● 現在の服薬状況
● アレルギー、副作用歴
● 生活リズム、生活習慣・趣味
● 検査値の評価
● 今後処方されうる薬剤との相互作用チェック
● 用量設定
他の医療機関からの診療情報提供書なども確認し、現在の病態をしっかりと把握します。
高齢者、子どもなど、薬剤の自己管理が難しい方であれば、同居家族など服薬をサポートしてくれる人の有無も確認しておくとよいでしょう。それにより、どのデバイスなら使用できそうか、用法はどうしたらよいかなども変わってきます。
収集・評価した情報は簡潔にまとめ、医師が確認しやすいようにカルテへ記載するか、直接報告をします。診察前の情報収集により、医師の負担軽減につながるほか、外来診療をスムーズに進めることもできるようになります。
診察後の業務
診察後は、処方内容が適正かどうかを判断してから、患者と面談を実施しましょう。
面談を通して、以下のような項目について確認・指導をしていきます。
● 医師からの説明を正しく理解できているかの確認
● 治療の必要性が理解できているかの確認、説明
● 治療の目標、効果、副作用などの説明
医師の限られた診察時間だけでは説明しきれない部分を薬剤師外来でフォローし、アドヒアランスの向上に努めましょう。副作用発現時の対応、対症療法薬の使い方、受診の目安などについても伝え、自己中断に至らないよう指導することが大切です。このとき、かかりつけの薬局と連携が必要であると判断した場合には、情報共有も忘れずにおこないます。
面談が終わったら、次回以降の薬剤師外来に向けて、薬学的評価計画を立てましょう。また、必要に応じて、次回以降の外来に向けて、医師と次のような内容について協議することも重要です。
● 副作用のモニタリング等に必要な検査項目の追加
● 次回の薬剤師面談で確認すべき内容
● 今後の治療方針に影響しうる患者情報
検査項目の追加は、医師と事前に作成・合意したプロトコールに基づく薬物治療管理(PBPM)を実施している施設であれば、薬剤師がおこなうこともできます。
薬剤師外来の業務内容【治療開始後の面談】
治療を開始したら、患者ごとのプロブレムに合わせて面談を進めていくことになります。一般的にどのような流れで薬剤師外来の業務をおこなっていくのかご紹介しますので、イメージを膨らませてみてください。
診察前・診察時の業務
治療が始まってからは、効果や副作用の確認、アドヒアランスの評価などをおこない、薬物療法の安全性・有効性を担保することが大切です。患者と面談をする前に、前回までに挙げたプロブレムを確認し、面談で聴取すべき内容をまとめておきます。検査値にも目を通しておきましょう。
面談では、次のような項目について確認していきます。
● 自宅での服薬状況(残薬確認など)
● デバイスの使用方法を理解しているか
● 副作用の有無、対症療法薬の使用状況
● そのほか困っていることがないか
患者の病態や治療状況に合わせ、必要な情報収集を実施していきます。指導した内容を勘違いしている場合などもありますので、デバイスの使い方、服用方法、飲み忘れ時の対応など、細かい点も定期的に確認しましょう。
服用方法に問題がある、検査値や副作用から用量調整や薬剤変更が必要など、医師へ情報共有・提案すべき事項があれば、直接報告またはカルテ記載をします。
診察後の業務
診察後は、処方内容に問題がないか確認してから、患者との面談をおこないます。患者が医師の指示通りに服薬できるよう、医師からの説明を理解できているか確認し、必要な指導を実施していきます。
治療開始後は、次のような追加・変更が考えられます。間違いなく服薬ができるよう、丁寧な指導が必要です。
● 副作用に対する対症療法薬が追加になる
● 治療薬の種類が増える
● 用量が増える/減る
面談が終了したら、次回の薬剤師外来へ向けて、薬学的評価計画を立てます。
● 次回診察時の検査項目に不足がないか
● 患者から聴取すべき事項は何か(副作用、服薬状況、薬剤の管理状況など)
同様のことを繰り返し、医師やかかりつけ薬局と連携をとりながら、薬物療法の質向上を目指していきましょう。患者が入院となった場合は、病棟担当者と患者の情報を共有し、シームレスな薬学的管理がおこなえるようにします。
薬剤師外来の4つの種類と特徴
現在、すでに実施されている薬剤師外来は、大きく次の4種類に分けられます。
【がん化学療法の支援】
抗がん剤の効果や副作用、セルフケアの指導だけでなく、副作用の評価・対症療法薬の提案など、長く続く化学療法を支える業務です。
【周術期の管理】
安全に手術を実施するため、服用薬剤や使用中のサプリメント・健康食品、アレルギー歴などを確認する業務です。休薬が必要な薬があれば、患者に指導したり、かかりつけ薬局と連携をとったりします。アレルギー歴に応じて、代替薬の提案なども必要です。
【慢性疾患の薬剤指導】
心不全、慢性腎臓病、生活習慣病(高血圧、脂質異常症等)をはじめとした慢性疾患は、経過が長いことから、さまざまな問題に直面します。継続的に薬剤師が関わることで、患者の理解向上が期待されます。
【デバイス指導】
インスリンや生物学的製剤、吸入器など、デバイスの使用・管理方法などを指導する業務です。正しく使用しなければ、期待する効果が得られないことがあるため、初めて使用する患者には丁寧に指導する必要があります。
薬剤師外来における実際の取り組み事例
薬剤師外来は、医師と連携し、あらかじめ定めたプロトコールに沿って実施される必要があります。具体的に、どのような患者に対して、何の目的で薬剤師外来を実施しているのか、代表的な取り組み内容を4つご紹介しますので、参考にしてください。
参考:一般社団法人 日本病院薬剤師会「外来患者への薬剤師業務の進め方と 具体的実践事例 (Ver.1.0)」
がん化学療法外来
近年、がん薬物療法は進歩が著しく、外来通院で実施される経口抗がん剤のレジメンも増えてきました。自宅での薬剤の自己管理、副作用のセルフケアなど、患者に指導すべき点は多いです。
薬剤師が医師の診察前に、患者背景・使用薬剤・患者の生活状況などを把握し、臓器機能の評価などをおこなっておくことで、レジメンの決定がスムーズにおこなえます。また、服用開始後は服薬状況や副作用の発現状況をあらかじめ確認し、必要な対症療法薬の提案、用量変更の提案などを実施することで、医師の負担軽減・治療の質向上にも貢献できるでしょう。
術前外来
手術の前には、休薬が必要な薬剤やサプリメント・健康食品等を使用していないか、手術に関わるような副作用・アレルギー歴がないか等を確認する必要があります。一包化されている薬剤の中に休薬すべきものが入っている場合は、間違いなく休薬ができるようなサポート、場合によってはかかりつけ薬局との連携なども必要です。
従来は看護師・麻酔科医などが術前の薬剤確認をしている施設がほとんどでしたが、最近は周術期外来として薬剤師が関わっている施設も増えてきています。安全な手術の実施のため、薬剤師が貢献できる大切な業務です。
参考:一般社団法人 日本病院薬剤師会「周術期薬剤業務事例集」
心不全指導
高齢者割合が増えるに伴い、心不全患者も急増しています。慢性心不全は2024年から「調剤後薬剤管理指導加算」の対象にもなっており、国としても管理に力を入れていこうとしている病態です。
心不全では、病態について、服薬継続・生活改善の必要性などについて理解を深めてもらい、アドヒアランスを高める必要があります。
そこで、薬剤師が服薬状況や理解状況についての情報収集をおこなって必要な指導をしたり、用法・用量等の提案を実施したりすることが重要です。医師の診察をサポートし、患者のQOL向上に寄与することができます。
インスリン自己注射指導
インスリンを使用する場合、投与方法、インスリンの管理方法、低血糖時やシックデイ時の対応など、知っておくべきことがたくさんあります。すべてを医師の診察時間内に指導することはできません。薬剤師が時間をとって指導することで、安全性の向上に寄与することが期待されます。
たとえば、インスリンの「空打ち」をしていないために思ったような効果が得られていないケース、低血糖時に不適切な対応をしているケースなど、患者から十分な聞き取りをしなければ発覚しない問題は多いです。薬剤師が継続的にフォローし、適切な周辺知識を指導すること、医師へフィードバックすることで、有効で安全性の高いインスリン治療が継続できます。
薬剤師外来の今後について
現在の薬剤師外来では、服薬指導や患者情報の聞き取り、処方設計のサポートが主な業務となっているようです。今後は、専門的な知識を活かし、薬物治療の方針決定に関わるような活躍も期待されてくるのではないでしょうか。
たとえば、がん、感染症、精神科薬物療法、妊婦・授乳婦の薬物療法、心不全、糖尿病などの分野では、専門的な認定資格を持つ薬剤師が増えています。薬剤師が治療薬の選定や用量設定に積極的に関与し、患者ごとに最適な薬物療法を提案する機会が増えていくでしょう。
薬剤師外来の有用性が認められるようになれば、診療報酬加算もつくようになり、薬剤師外来の業務が盛んになっていくと思われます。
また、病院薬剤師と保険薬局薬剤師の連携を強化し、外来と在宅医療の間でシームレスな薬学的サポートを提供することも必要です。トレーシングレポートや薬剤情報提供書などを活用し、より密に患者の処方変更や副作用情報を共有することが、質の良いフォローアップに直結します。
薬剤師外来の業務範囲の拡大は、医師のタスクシフトの一助となります。薬物療法を適切にサポートできるよう、薬剤師としてスキルを磨いていきましょう。
あなたに合った職場をお探しします
👉薬剤師の転職相談はこちら(無料)まとめ
薬剤師外来では、治療の開始前から治療中にかけて、要所要所で適切なサポートを提供することが期待されています。薬剤師が積極的に関わることで、服薬アドヒアランスが向上し、副作用の早期発見や治療の最適化につなげることが可能です。
現在はがん化学療法のみですが、実績が増えていけば、今後はさまざまな領域に加算がついていくことも考えられるでしょう。患者一人ひとりを適切に評価した薬物療法の実現のため、薬剤師外来を取り入れ、発展させていくことが求められます。