医療や介護の現場で注目を集めている「多職種連携」は、今後薬剤師の活躍が期待される分野です。本記事では、多職種連携の必要性と薬剤師が果たす役割、円滑に連携していくために薬剤師が心がけたいポイントを解説します。
多職種連携とは?
多職種連携とは、異なる専門分野を持つ職種が協力し、共通の目標に向かって職務に当たることです。一人ひとりの患者・利用者を支えるため、医師や看護師、薬剤師、ケアマネジャーなどが関わり、医療・介護サービスを提供します。
厚生労働省は、団塊の世代が75歳以上となる2025 年に、全人口の約18%が75歳以上になると推計しています。高齢化の進展に加え、人口減少による人手不足も進むなか、限られた財源で医療・介護サービスの質を維持する体制づくりは急務です。
出典:「我が国の人口について」(厚生労働省)
厚生労働省では、その対策として2025年を目途に「地域包括ケアシステム」の構築を進めています。地域包括ケアシステムとは、高齢者が住み慣れた場所で自分らしい生き方ができるように、医療・介護・予防・住まい・生活支援の面から地域で支える仕組みです。
多職種連携は、地域包括ケアシステムの重要な柱となっています。複数の専門職が協働し、一人ひとりの患者・利用者を「面」で支える多職種連携は、来たるべき医療・介護ニーズ増加への対策として期待されています。
多職種連携の3つの必要性
次に、医療・介護分野でなぜ多職種連携が必要とされるのか、3つの視点から詳しく見ていきます。
医療・介護サービスの質を向上させるため
切れ目のない医療・介護サービスの提供は、多職種連携に求められる働きのひとつです。特に支援が必要な高齢者の場合、「病院ではなく、自宅で療養したい」「入院準備が困難」という人も多く存在します。
各分野の専門職が多職種連携で入退院・在宅医療などの支援を行えば、患者やその家族の負担は軽減し、満足感や安心感を与えることにもつながります。
各専門職がバラバラに動いていては、患者の希望は叶えられません。多職種連携に関わる全員が目的意識を統一し、綿密な情報共有を通じて適切な支援を行うからこそ、質の高いサービスが提供できるのです。
患者の多様なニーズに対応するため
高齢化や生活習慣病の増加で、がんや心疾患、脳血管疾患といった慢性疾患を抱える人が増えています。なかには慢性疾患が併存する人もおり、医療・介護ニーズは複雑化・多様化しています。
多職種連携では、さまざまな専門職が協力することにより、あらゆる医療・介護ニーズにも多面的なアプローチが可能です。慢性疾患を複数抱えた在宅療養中の患者に対しても、急変時対応や重症化予防・介護予防など、より適したケアやサービスを提供できます。
不足している専門知識を補うため
いかに経験豊富な医療専門職であったとしても、疾病に加えて判断能力の低下や社会的孤立など、複数の問題を抱えている患者をひとりで支援することには限界があります。
異なる専門分野を持つ職種が集まり、知識と経験を補い合える点は、多職種連携の大きなメリットです。医療・介護領域のみならず、時には地域住民の力も借りながら多様な視点で患者を支援し、課題の解決を図ります。
互いの得意分野を生かした相互補完的な連携は、複雑に絡み合った課題を解決する上での大きな力となります。
多職種連携における薬剤師の役割
多職種連携に参画する薬剤師の主な役割は、適切な薬剤管理と服薬指導です。薬物療法の高度化やジェネリック医薬品の普及を背景に、医療安全の観点から多職種連携でも薬剤師の活躍が期待されています。
多職種連携の活用が望まれるのは、特に在宅医療の現場です。薬剤師は、調剤薬局に足を運べない利用者の自宅へ、医師の処方した医薬品を持参します。
在宅医療を受ける利用者のなかには認知症の人や介護が必要な人もおり、「薬の飲み忘れ」「重複・多剤服薬」「薬剤の不適切な保管」「副作用の発生」といった問題が見られます。これらの課題に対し、薬剤師は以下のような方法で改善を図ります。
・服薬を促すための説明
・残薬・薬歴管理
・服薬指導
・副作用の確認
加えて、医師に対して処方の見直しを提案することも重要な仕事です。よくある提案例として、「薬の一包化で飲み忘れ・飲み違いを防止する」「嚥下困難な場合は、粉状の薬や貼薬に変更する」などが挙げられます。
他職種との情報共有は、訪問後の連絡・報告のほか、ケアマネジャーが招集するサービス担当者会議などでも行います。
多職種連携に薬剤師が加わるメリットは、薬のエキスパートである薬剤師が薬剤管理を担うことで患者・家族が安心できる点です。さらには、介護職・看護師などの他職種も、薬剤管理にかかる負担が軽減され、本来の仕事に専念できる利点もあります。
薬剤師の多職種連携を円滑に進めるポイント
ここでは、連携の強化や業務の円滑化のために薬剤師ができることをご紹介します。
こまめな情報共有を心掛ける
服薬状況や体調変化など、薬剤師から見て気になる点があれば、チーム間で迅速に情報共有を図りましょう。ただし、職種によって医薬品に関する知識に差があるため、専門用語をできるだけ使用せず、他職種に求められる内容を選んで伝える気遣いが必要です。
効果的な情報共有を行うには、普段から他職種への理解を深めることが欠かせません。また、服薬方法のアドバイスや処方変更の提案など、薬剤師が対応できる事柄を日頃から他職種に伝えておくことも重要です。
在宅医療では、訪問時の記録を残す方法として連携ノートが活用されています。チーム間で、あらかじめ情報共有が必要な項目を決めておけば、記載の負担も軽減できます。
薬剤師としての専門性を高める
多職種連携では、各職種が専門性を発揮してこそ多様な患者ニーズへの対応が でき、課題解決が可能になります。
多職種連携で薬剤師に求められるのは、医薬品に関する専門的な知見です。そのため、患者・家族や他職種の要望に応えられるよう、日頃から専門性を磨き続ける姿勢が欠かせません。
厚生労働省は、地域包括ケアシステム構築に向けて、かかりつけ薬剤師と薬局に以下3つの役割を求めています。
・服薬情報の一元的・継続的な管理
・24時間対応、在宅対応
・医療機関等との連携強化
従って、今後はかかりつけ薬剤師として在宅医療の多職種連携に関わる機会が増加すると予想されます。
「薬剤師として多職種連携に参画したい」「多職種連携で活躍できる実力を身につけたい」と希望する人は、スキルアップを望める職場で早いうちから専門性の基礎を築いておくことをおすすめします。
また、今後は、人口の減少に伴って薬剤師の需要が危惧されています。より自分の希望条件に合った職場でキャリアアップしたいとお考えの方は、転職も視野に入れることがおすすめです。
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まとめ
多職種連携では、異なる専門性を持つさまざまな職種が連携して医療・介護サービスを提供します。地域包括ケアシステムの構築が進むなか、サービスの質向上や多様なニーズへの対応などを可能にする多職種連携は、必要性がますます高まっています。
多職種連携に参画する薬剤師には、薬のエキスパートとしての専門的な知識と経験が必要です。多職種連携でも活躍できる薬剤師を目指す方は、経験が積める職場で早いうちからスキルアップに取り組みましょう。