近年、高齢者の割合が増えてきていることもあり、在宅医療薬剤師のニーズが高まっています。
そこで今回は、在宅医療薬剤師の仕事内容や、必要な資格、求められる素養について詳しく紹介します。
在宅医療薬剤師の必要性が高まっている理由
在宅医療薬剤師は、患者の自宅などで薬学的管理を行う薬剤師のことです。薬局に足を運んでもらうことなく、自宅にいながら最適で安心・安全な薬物療法を受けられるようサポートします。
近年では、この在宅医療薬剤師の必要性が高まっています。経済産業省の分析レポートによると、在宅医療を利用している人の22%は60〜74歳、50%は75歳以上です。
出典:「高齢者だけじゃない!需要増す在宅医療」(経済産業省)
在宅医療薬剤師が求められている背景として、高齢者の割合が年々高まっているためです。
総務省の調査によると、65歳以上の高齢者が総人口に占める割合は、2022年には29.1%です。また、2040年になると35.3%にまで増加すると推測されています。在宅医療薬剤師を利用している人の多くが高齢者であることから、必然的に需要は高まっていくでしょう。
出典:「1.高齢者の人口」(総務省)
自宅療養のニーズの高まり
高齢者の割合が増加していることに加えて、在宅医療を必要とする人が増えていることも、在宅医療薬剤師の需要が高まっている要因です。また、国も在宅医療を推進している背景があります。
厚生労働省が公表した終末期医療のあり方に関する資料によると、「治る見込みがない病気になった場合、どこで最期を迎えたいか」という質問に対して、最期を迎えたい場所について、「自宅」が54.6%で最も高く、「病院などの医療施設」が27.7%、「特別養護老人ホームなどの福祉施設」は4.5%となっています。
しかし、実際に自宅で最期を迎える人の割合は、数十年前と比べると減少傾向にあります。現実は病院で最期を迎える人がほとんどです。
このように住み慣れた自宅で看取られたい人が多いことから、厚生労働省は在宅医療の推進に注力しているのです。
出典:「終末期医療のあり方に関する 検討会の設置について」(厚生労働省)
かかりつけ薬剤師・薬局の推進
「患者のための薬局ビジョン」によると、厚生労働省は2025年までにすべての薬局をかかりつけ薬局にすることを目標としています。
出典:「患者のための薬局ビジョン」(厚生労働省)
かかりつけ薬局とは、薬剤処方に限らず、健康に関する幅広い知識を持ち合わせ、患者からの相談にのることができる薬局を指します。
かかりつけ薬局に求められる機能として挙げられているのが、次の4つです。
・ICTを活用して服薬情報を一元的、継続的に把握する
・夜間や休日含む、24時間対応できるようにする
・在宅医療への対応を行う
・医療機関と連携を取る
かかりつけ薬局には、在宅医療に対応する機能も求められています。2025年には団塊世代の全員が後期高齢者である75歳に到達するため、 今後も在宅医療薬剤師の需要は高まると予想できるでしょう。
在宅医療薬剤師の主な仕事内容
ここでは、在宅医療薬剤師の仕事内容・役割を解説します。
患者さまへの医薬品の提案・提供
在宅医療を受けている患者は、外出する体力がなかったり足腰が悪かったりするため、薬局に薬を取りに行くのが困難なケースが多いです。そのため、在宅医療薬剤師が患者の自宅に訪問し、処方薬を届けます。
薬を提供するだけでなく、服薬に関する提案も大切です。「お昼に飲み忘れやすいのなら、一日2回の薬に変えてみますか?」「錠剤が取り出しにくいなら一包化しましょうか?」など、患者がスムーズに服薬できるように手助けしていきます。
医薬品の服薬方法の指導
薬を患者に渡すのと同時に、服薬指導もします。薬局の窓口の指導と大きな違いはありません。副作用が出ていないか、薬を忘れずに飲んでいるか、飲むときに気になることがないか、ヒアリングしながら指導します。
ほかの病院からも薬が出ている場合は、飲み合わせに問題がないか、重複服薬がないかもチェックしましょう。
医薬品の管理
一見するときちんと服薬している患者も、話を聞くとたくさんの残薬があるケースが見受けられます。
残薬があった場合、なぜ飲めなかったのかを聞いてあげましょう。単に飲み忘れてしまったのか、それとも身体機能の衰えにより飲みたくても飲めなかったのか、人それぞれ事情があります。飲み忘れやすい人には一包化を提案したり、服薬カレンダーを提供したりするとよいでしょう。
身体機能が衰えている場合も、飲みやすくなるように工夫します。残薬はそのままにしておいても減ることはないため、必ず調整しましょう。不要な薬は破棄し、必要な薬は次の処方箋で量を調節して残薬を消費します。
医療福祉関係者との情報共有
在宅医療は、担当医や看護師、歯科医師、栄養士など、複数の医療従事者や介護スタッフと協力して、患者と向き合います。副作用が見られたら、原因薬物と症状、薬の代替案を医師に報告します。
歯の状態が悪く、食事が取りづらいなら、歯科医師に相談して診てもらいましょう。ケアマネジャーと連携することも大切です。患者に何を指導したのか、変化はなかったか共有し、より適切な指導や管理に努めます。
在宅医療薬剤師に求められる資格・スキル
在宅医療薬剤師として働き始めるにあたって、特別な資格は必要ありません。薬剤師の資格さえあれば、誰でも目指せます。
取得が推奨される資格
必要な資格はありませんが、在宅療養支援認定薬剤師や緩和薬物療法認定薬剤師の資格を持っていると有利でしょう。余裕がある人は取得を目指しましょう。
在宅療養支援認定薬剤師
在宅療養支援認定薬剤師とは、良質な在宅医療を提供することを目的とした資格です。資格を持っていることで、在宅医療において必要な知識や技能を備えていることを証明できます。取得の主な条件は以下です。
・3年以上の実務経験
・在宅業務に関しての事例報告
緩和薬物療法認定薬剤師
緩和薬物療法認定薬剤師は、薬物療法によって緩和ケアに当たるための専門知識を持っていることを証明する資格です。緩和ケアとは、がんなどの病気による身体的・精神的な苦痛をやわらげるためのケアのことをいいます。
資格を取得するためには、薬剤師としての実務が5年以上の日本緩和医療薬学会の会員であり、研修認定薬剤師などの資格を持ち、緩和薬物療法認定薬剤師認定試験に合格していることなどが条件です。
求められる素養
在宅医療薬剤師は、これから間違いなく需要が高まっていきます。しかし、誰でも簡単に在宅医療薬剤師として活躍できるとは限りません。何事にも向き不向きがあるのと同様に、求められる素養があります。
幅広い知識・豊富な経験
患者のちょっとした動作や言葉から「もしかして薬が飲みづらいのかも」「ほかのスタッフに共有したほうがいいのでは」と気付くことができる幅広い知識が必要です。
そのためには、薬剤師としての豊富な経験が必要になります。経験があるからこそ察知できることも多くあるため、基礎知識はしっかり身につけておかなければなりません。
コミュニケーション能力
在宅医療では、薬局の窓口で患者と話すのとは違い、自宅でひとりの患者とより深い話をすることになるでしょう。また、ご家族や一緒に在宅医療をしている医師、ケアマネジャーなど多くの人と関わりを持ちます。
誰とでも円滑に会話ができ、必要な情報を聞き出したり伝えたりできるコミュニケーション能力が必要です。
まとめ
在宅医療薬剤師は、患者の自宅まで薬を運び、服薬指導や薬の管理をする仕事です。高齢者率が高まっていること、自宅で最期まで過ごしたいと考えている人が多いことから、在宅医療薬剤師の需要は増しています。
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