薬剤師にとって薬歴(薬剤服用歴)は、患者の薬物治療を安全かつ適切に進めるために不可欠な記録であり、調剤報酬の根拠ともなるものです。
処方内容の確認や副作用の把握だけでなく、継続的に薬学的管理をおこなうためのツールにもなっています。近年は電子薬歴の普及により、記録の質や効率性が求められる場面も増えてきました。
一方で、「どこまで・どのように書くべきか」「SOAP形式でのまとめ方が難しい」と感じる薬剤師も多いのではないでしょうか。
この記事では、薬歴の基本、記載すべき項目、書き方のコツ、管理方法まで、実務で活かせるポイントを解説します。
薬歴(薬剤服用歴)とは?

薬歴(薬剤服用歴)とは、患者の薬物治療に関する情報を一元的に記録し、継続的な薬学的管理をおこなうための記録です。
服用中の薬剤の名称・用量・使用目的だけでなく、アレルギー歴、副作用歴、服薬状況、生活背景、指導内容、疑義照会の結果など、薬剤師が患者の安全な薬物療法を支えるために必要な情報が幅広く記載されます。
薬歴は、調剤時の「その場限りの記録」ではなく、次回以降の服薬指導・治療方針提案に活かすための継続的な記録として重要です。
薬歴の記載は「速やかに」とされており、原則的には当日中の記載が望ましいでしょう。後追い記載が常態化すると、算定・監査の観点から問題となる場合がありますので、注意が必要です。
近年は電子薬歴の導入が進み、記録の一元的管理、検索性の向上、重複投薬チェックの効率化など実務上のメリットが多く得られるようになってきました。
参照:令和06年調剤診療報酬点数表 / 第2節 薬学管理料 / 区分
薬歴を書く目的
薬歴を記載する最大の目的は、一人ひとりの患者に最適な薬物治療を提供するため、「継続的に」薬学的管理を実施することです。
薬剤師は、薬歴を通じて処方内容の妥当性や相互作用の有無、患者の服薬状況、副作用の発現、生活習慣・疾患の変化などを把握し、必要に応じて医師へのフィードバックや服薬指導の工夫をします。薬歴は、次回来局時の指導内容にも関わるものであり、患者の治療経過を整理するための医療記録として不可欠です。
また、薬歴の記載は薬剤服用歴管理指導料の算定要件でもあり、薬剤師業務の透明性と説明責任を果たすうえでも重要な役割を担っています。
薬歴と調剤録の違い
薬歴と調剤録は混同されやすいものの、異なるものです。
調剤録は「その処方箋に基づき調剤を適切におこなった」を証明するための記録で、処方内容、調剤量、監査結果、疑義照会の有無など、調剤行為そのものに関する情報を記載します。調剤報酬の根拠となる記録であり、厚生労働省の定めた内容を記載しておかなければなりません。
ただし、調剤録だけでは、患者の服用や副作用に関する状況、薬物治療に関する情報を時系列で管理することは難しいです。そこで、「薬歴」が作られるようになりました。
調剤録は、規定の内容を網羅していれば、薬歴の一部を代用してもかまいません。
薬歴とカルテの違い
カルテ(診療録)は、医師が診断・治療の経過を記録する医療記録で、診断名、検査結果、治療計画、処方内容など、患者の管理全体を包括するものです。
一方、薬歴は薬剤師が担う「薬物療法の最適化」に特化した記録であり、服薬状況、副作用の兆候、患者の生活背景、指導内容など、薬剤師ならではの視点で情報が蓄積されます。薬歴は、役割としては薬剤師版のカルテのような位置付けです。
医師のカルテ記載は医師法で定められており、記載に対して診療報酬はついていません。薬剤師の薬歴記載は「保険薬局及び保険薬剤師療養担当規則」に定められたもので、調剤報酬の対象となっている点は大きな違いといえます。
厚生労働省が定める薬歴の記載事項

薬歴は、薬剤服用歴管理指導料の根拠となるものです。そのため、厚生労働省から、薬歴には以下の内容を記載することと定められています。
イ:処方および調剤内容(処方した保険医療機関名、処方医氏名、処方日、処方内容、調剤日、処方内容に関する照会の内容等)
ウ:患者の体質(アレルギー歴、副作用歴などを含む)、薬学的管理に必要な患者の生活像および後発医薬品の使用に関する患者の意向
エ:疾患に関する情報(既往歴、合併症および他科受診において加療中の疾患に関するものを含む)
オ:併用薬(要指導医薬品、一般用医薬品、医薬部外品および健康食品を含む)等の状況および服用薬と相互作用が認められる飲食物の摂取状況
カ:服薬状況(残薬の状況を含む)
キ:患者の服薬中の体調の変化(副作用が疑われる症状など)および患者またはその家族等からの相談事項の要点
ク:服薬指導の要点
ケ:手帳活用の有無(手帳を活用しなかった場合はその理由と患者への指導の有無)
コ:今後の継続的な薬学的管理および指導の留意点
サ:指導した保険薬剤師の氏名
また、ウからキまでの事項については、処方箋受付後、薬を取りそろえる前に、保険薬剤師が患者等に確認することが示されています。
参考:厚生労働省保険局医療課医療指導監査室|調剤報酬の理解のために(平成30年度)
薬歴の書き方
薬歴の記載方法は、現在はSOAP形式が主に用いられています。具体的な記載方法について、以下の服薬指導時の会話例をもとに、それぞれ解説します。
新しい薬は「セマグルチド」というもので、血糖値に合わせてインスリンが出やすくなるようにしてくれます。起きてすぐ、他の飲食をする前にまずセマグルチドを少量の水で飲んでください。
その後は、30分以上飲食をしないでください。効果をしっかり出すために、この飲み方を守ってくださいね。
SOAP形式の記載例
SOAP方式とは、患者の経過等についてまとめて記載するための方法の1つです。薬剤師だけでなく、医師や看護師もSOAP形式での記録が主流となっています。記載内容は、以下の4つから成ります。
● O(objective):客観的情報
● A(assessment)評価
● P(plan)計画
SOAPに分けて記載することで、患者の主観的な情報なのか、薬剤師としての考察なのかなどを誰が見ても区別しやすくなるのがメリットです。先ほどの会話例をもとに、各セクションでの記載例をご覧ください。
S(Subject):主観的な情報
● クリスマスや正月で食べ過ぎ、運動不足の自覚あり
● 用法遵守できるか自信がない
● 食欲低下の副作用が嫌だ
O(Object):客観的な情報
● HbA1cは7.2→7.8%と上昇あり
● セマグルチドが追加
● 飲み忘れて飲食した場合は、スキップするよう対応を説明
A(Assessment):分析・評価
● セマグルチドの飲み忘れの状況(残薬)を確認する必要がある
● 食欲低下の副作用による自己中断のリスクがある
P(Plan):今後の計画
● 飲み忘れがあれば、対策を伝える
● HbA1cの改善があるか確認
● 食生活や運動の改善状況を確認しアドバイス実施する
薬歴を書くコツをケース別に紹介!

初めて薬歴を書く方、ブランクから復帰する方などは、薬歴の書き方に心配がある方もいるでしょう。なるべく当日のうちに薬歴を記載するためには、コツをおさえて効率的に記載することも大切です。
薬歴を記載するコツを、2つのパターンでご紹介します。
初回の患者さんの場合
初回は、問診票やアンケートから患者の情報を収集します。
生活状況や家族構成なども、今後指導をしていく上で必要になるかもしれません。同じことを何度も聞いてしまうと、印象が悪くなってしまいます。聴取できた内容については、細かく記載しておきましょう。
今後、効率的に患者の経過を振り返るためには、「P(Plan)」の箇所が重要です。
次の来局時は、別の薬剤師が担当することもあります。誰が担当になっても、短い時間で的確に患者情報を把握して質の高い服薬指導をするために、「P(Plan)」の内容は具体的に記載しておきましょう。
2回目以降の患者さんの場合
2回目以降の患者の場合は、前回までの記録を確認し、継続的な指導をおこなうことが大切です。
基本的には、「P(Plan)」に記載されていることを中心に聴取・指導を実施するとよいでしょう。薬歴がしっかり記載されていれば、患者本人に必要な指導がしやすくなります。
前回までに把握されている問題点が解決されているかを確認しながら、新たな問題点の把握や目標設定をおこない、次回に向けての「P(Plan)」とします。
薬歴を速く分かりやすく書くポイント

薬剤師として業務をしていれば、日々、多数の薬歴を記載しなければなりません。少しでも早く、効率的にわかりやすい薬歴を書くためのポイントを、4つご紹介します。参考にして、明日からの業務に活かしてみてください。
Sは要約して記載する
患者の発言を、一言一句丁寧に記載する必要はありません。重要な箇所に絞って、要約しましょう。
たとえば、「ステロイドが始まってから全然眠れなくて本当につらいの。仕事しているから昼寝もできないしね。先生に言ったら睡眠薬を出してくれたんだけど、あんまり飲むと認知症になるって聞いたことがあるから不安」という発言があった場合を考えてみましょう。
「ステロイド開始後から不眠。午睡なし。睡眠薬による認知症が不安。」のように簡潔に記載することで、時間を短縮できます。
箇条書きを取り入れる
患者の発言、聴取した検査値、指導内容など、薬歴に記載すべきことは多いです。
情報量が多い場合には、箇条書きで記載することで、視認性が高まります。先ほどご紹介した記載例を参考にしてみてください。
テンプレートを活用する
電子薬歴の場合、テンプレートを活用することで、大幅な時間短縮が可能です。
よく処方される薬剤、複雑な用法の薬剤、デバイス(自己注射、吸入など)などについてテンプレートを用意しておきましょう。漏れなく指導するためのチェック項目としても利用できます。
省略しすぎない
早く薬歴を書き終えようと省略しすぎると、どのような患者だったか、何を指導したかがわからない記録になってしまいます。
同じような記載になってしまうケースもありますが、一人ひとりに特有の訴えや問題点などを的確に把握できる内容を意識して記載しましょう。
薬歴の管理方法

薬歴の管理は、厚生労働省「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第5版(平成29年)」に基づき、適切な方法で行う必要があります。
電子薬歴を含む医療情報の管理では、次の3要件の確保が重要とされています。
● 見読性:保存期間中、いつでも読み取れること
● 保存性:必要な期間、安全に保管されること
薬歴の保存期間は原則3年間と定められており、この間、確実に保全できる体制整備が求められます。
とくに電子薬歴では、データ消失や改ざんを防ぐため、以下のような管理が推奨されます。
● 操作ログの取得・保管
● 定期的なバックアップと災害対策
● システム障害時の復旧手順の整備
薬歴を適切に管理することが、薬剤師の業務の質と患者安全の向上にも直結します。
多くの薬局が電子薬歴を導入している現在、ガイドラインに沿った情報管理について薬剤師も知っておくことが重要です。
参照:厚生労働省|医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第6.0版(令和5年5月)
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まとめ
今回は、薬剤師の業務と密接な関わりのある「薬歴」について、定義や記載のポイントなどをご紹介しました。
薬歴の記載は、薬剤師なら避けて通れない重要な業務です。新卒の方、ブランクのある方などは、薬歴の記載方法に不安を感じることもあるでしょう。
今回ご紹介した薬歴記載のコツを取り入れることで、効率よく質の高い薬剤師業務につながれば幸いです。