転職しようとするとき、年収や勤務地、転勤の有無など、検討しなければならない条件はいくつもあります。しかし、希望するすべての条件を完璧に満たす職場を見つけるのはなかなか難しいのが現状で、場合によってはいくつかの条件を諦めなければならないこともあるかもしれません。
ただ、あまりにも希望条件に合わない職場への転職は、ミスマッチによる離職や転職の繰り返しにもつながりかねません。そのため、薬剤師が転職で失敗しないためには、あらかじめ希望条件に優先順位を付けておくことが重要です。
本記事では、薬剤師が転職で失敗しないために希望条件に優先順位を付けることの重要性や、希望条件に優先順位を付ける際のポイントについて解説します。
薬剤師の転職で希望条件に優先順位を付けることが大切な理由
まずは、希望条件の優先順位付けが薬剤師の転職においてなぜ大切なのかを解説します。
応募先を絞り込みやすくなる
希望条件に優先順位を付けることで、応募先を絞り込みやすくなります。地域にもよりますが、薬局や病院など薬剤師が働く職場は基本的に人手不足の傾向にあります。そのため求人数が非常に多く、希望条件に優先順位を付けない状態で転職活動を開始すると、さまざまな求人に目移りしてしまい応募先を絞り込むのが難しくなります。
この状態でなんとなく良さそうと感じた職場に転職してしまうと、待遇はいいが休みが少ないなど、一部の条件だけ見てほかの条件を見ていなかったために後悔してしまうかもしれません。
転職の機会を逃さなくて済む
希望条件に優先順位を付けずにすべての条件を満たすことにこだわりすぎると、条件に合う求人が見つかりにくく、転職の機会を逃してしまう可能性があります。
希望するすべての条件を完璧に満たす職場は多くの薬剤師にとって働きたい職場であるため、そもそも欠員が出にくく求人がなかったり、求人があったとしても多数の応募が殺到して倍率が高かったりと、転職のハードルが高いのが特徴です。
このような職場ばかり探していると、前職の退職時期が来ても転職先が見つからなかったり、転職先が見つからないために想定していた時期に前職を辞められなかったりと、希望するキャリアプランが叶えられないかもしれません。また、なかなか転職先が決まらない焦りから、希望条件に合わない職場にやむを得ず転職してしまうリスクもあります。
転職後のミスマッチが少なくなる
自分にとって譲れない条件を明確にした上で転職先を探せば、転職後に後悔することが少なくなります。自分の中で希望条件の軸がしっかりとしていれば「なぜ転職したいのか」という本来の目的を見失わないで済みます。
また、場合によってはいくつかの条件を諦めなければならないこともあるかもしれませんが、あえて妥協した条件についても自分でしっかりと納得した上で転職するため、転職後のミスマッチが起こりにくくなります。
希望条件の優先順位を付ける前にやっておくべきこと
続いては、希望条件に優先順位を付けるために必要な下準備について解説します。
転職の目的を明らかにする
まずは「なぜ転職したいのか?」という転職の目的を明らかにしましょう。転職を決意したきっかけとして、待遇の悪さ、勤務地や働き方が合わない、人間関係のトラブルなど、転職の目的となった何らかの不満が必ずあるはずです。
そもそもの転職の目的を明らかにしておくことで、何を軸に希望条件を取捨選択していけば良いかが分かるため、最も優先順位の高い条件がおのずと明らかになってきます。
年収相場を調べる
転職を機に年収アップを狙いたいと考える人も多いかもしれませんが、あまりにも高望みしすぎて的外れな転職活動をしてしまうと、なかなか転職が決まらなかったり、無謀な年収交渉をした結果、採用側の心象を悪くしてしまったりするおそれもあります。
薬剤師の年収は、職種や地域によって大きく異なるのが特徴です。年収交渉を有利に進めて年収アップを実現するためにも、自分の希望する職種や地域の年収相場を知っておくことが大切です。
年収相場については、WEBや知人からの情報収集はもちろん、転職エージェントも活用できます。特に、職種ごとの最新の年収動向や地域特有の年収事情などを知りたい場合は、転職エージェントの担当者と面談を行い、アドバイスをもらうのが有効です。
転職したあとのことをイメージする
転職によって現在の不満を解消することはもちろん大切ですが、転職したあとのことも必ずイメージしておきましょう。これは、自分のキャリアプランを叶えられる職場を選ぶために重要な作業です。
たとえば、転職によって現在の不満は解消されたものの、自分の思うような働き方やキャリアアップができないような職場を選んでしまうと、働くにつれて新たな不満が出てきて将来的なミスマッチを招いてしまうおそれがあります。
そのため、現在の不満を解消できる職場をやみくもに探すのではなく、転職したあとの長期的な働き方やキャリアプランをイメージし、転職によって将来的に何を叶えていきたいのかを明らかにしておきましょう。
優先順位を付けるべき項目と絞り込むべきポイント・注意点
必要な下準備が終わったら、いよいよ希望条件に優先順位を付けていきましょう。ここからは、優先順位を付けるべき項目と、優先順位を付ける際に絞り込むべきポイントについて解説します。
年収・時給
まずは、年収や時給といった給与面の待遇について検討しましょう。相場から大幅に外れた年収・時給や、自身のスキルやキャリアに見合わない年収・時給を条件として設定してしまうと、希望を叶えられる転職先が見つかりにくくなります。地に足のついた現実的な範囲で、希望条件を設定しましょう。
また、年収について条件設定する際は、月給だけでなく退職金や賞与についても考えておきましょう。これらが絶対に必要なのか、場合によってはなくても良いのかによって、応募すべき求人が変わってきます。
職場の種類
職場の種類も、転職先を選ぶ上で大切な条件のひとつです。
調剤薬局、調剤併設ドラッグストア、急性期病院、慢性期病院といった業種とあわせて、個人薬局、中規模薬局、大手チェーン薬局といった企業規模も考えておきましょう。
薬剤師の仕事内容や収入は、業種によって大きく異なります。また、個人の役割や裁量の程度は、企業規模によっても変わってきます。自分の転職の目的を叶えるためには、どのような種類や規模の職場を選択すれば良いのかをしっかりと検討しましょう。
年間休日・休日となる曜日
年間休日や休日となる曜日についても確認が必要です。求人情報には「年間休日数」が記載されていることが多く、完全週休2日制の職場の場合は年間休日が105日程度。土日祝日に加えてお盆休みと年末年始休暇がある職場の場合は、年間休日が120日程度となります。
また、休日となる曜日は職場によって異なるため、休みにしたい希望の曜日がある場合は、条件として挙げておきましょう。
忙しさ
薬剤師の仕事は、職場によって忙しさが大きく異なります。1カ月あたりの平均残業時間や、調剤薬局であれば薬剤師1人あたりの処方箋枚数が忙しさの目安になります。希望がある場合は、条件として設定しましょう。
通勤時間
通勤にかけられる時間について、通勤手段も含めてあらかじめ検討しておきましょう。
たとえば「自動車で片道〇分以内」や「自宅の最寄駅から○分以内」など具体的な時間を設定しておくことで、長い通勤で疲れてしまったり、プライベートの時間が極端に少なくなったりすることを避けられます。
福利厚生
福利厚生の内容は、会社によってさまざまです。育児休業の長さや子どもが何歳になるまで短時間勤務が可能か、看護休暇に対する給与支払いの有無といった育児支援の内容は、会社によって特に差が出やすいポイントです。また、住宅手当や扶養手当、自己研鑽に関わる費用の補助などの各種手当も確認しておきたいところです。
ただし、福利厚生の豊富さよりも、自分にとって必要な制度が整っていることが重要です。さまざまな福利厚生の中から自分にとって欠かせないもののみをピックアップし、条件として設定しましょう。
職場の雰囲気
薬剤師が転職に失敗する原因のひとつとして挙げられることが多いのが「職場の雰囲気が合わなかった」という不満です。職場の雰囲気は求人情報を確認するだけでは分かりにくく、いざ勤務を始めてみたら思っていた雰囲気ではなかったというミスマッチが起こりがちです。
特に、小さな子どもがいるパパママ薬剤師は、急な休みに対応してもらいやすい雰囲気があるかどうかは重要です。
働く人の年齢層や、子育て中の薬剤師の有無、離職率などの情報を事前に聞くことにより、雰囲気の合わない職場を避けることができます。また、応募の前に利用者として職場を訪問したり、転職エージェント経由で職場見学を申し込んだりと、自分の目で職場を見ることも重要です。「自分の目で見て少しでも違和感を持った職場は避ける」というのも、有効な条件設定のひとつです。
業務内容
一人薬剤師でも良いかどうか、門前薬局の場合は希望の診療科目や避けたい診療科目、調剤併設ドラッグストアの場合は業務の内訳や比率など、業務内容に関する条件も確認しましょう。
特に、一人薬剤師については、急な欠勤に対応しづらいこともあり、小さな子どもがいるパパママ薬剤師は避けた方が無難かもしれません。
勤務時間(シフト)
薬剤師の勤務時間は薬局や病院の受付時間に左右されるため、あとから変更することが難しい条件のひとつです。出勤は何時からであれば余裕を持てるのか、退勤は何時までであればプライベートの時間も確保できるのかを確認し、条件として設定しましょう。
また、薬局の昼休みに合わせて長めの中抜け時間があった方が良いのかどうか、遅番がある場合は可能な時間や頻度、病院の場合は夜勤や当直の頻度なども確認しておきましょう。
異動の有無
異動の有無も、大切な条件のひとつです。1つの店舗でじっくり働きたいのか、引越しをともなわなければ異動があっても良いのか、全国転勤も受け入れられるのかなど、異動の有無や頻度、規模について許容できる範囲を検討しておきましょう。
教育体制
未経験の職種への転職を希望する場合やブランク期間が長い場合は、教育体制についても検討しましょう。現場でのOJT以外に受けられる研修や、勉強会・学会への参加や専門書籍の購入に対する補助など、教育体制の充実度は会社によって大きく異なります。
資格取得の可否
将来的なキャリアアップを重視する場合は、資格取得の可否についても検討しましょう。
特に、専門薬剤師の認定を受けるためには、各団体が設定している厳しい認定基準をクリアしなければなりません。症例報告や学会発表、専門誌への論文掲載などが条件として求められる場合もあるため、勤務先の診療科目や業務内容によっては希望する資格の取得が難しい可能性もあります。
取得を希望する資格がある場合は、それが叶う環境を条件のひとつとして加えましょう。
希望条件に優先順位を付けたあとにやるべきこと
希望条件に優先順位を付けたら、以下の流れで転職活動に取り組みましょう。
① 希望条件を「譲れない条件」と「妥協しても良い条件」に分ける
② 希望条件をもとに求人の候補をある程度絞り込む
③ 候補となった職場の情報を収集する、職場見学をする
④ 書類選考・面接などを経て内定が出たら、具体的な勤務条件を確認する
⑤ 勤務条件に納得できたら内定を承諾し入職する
内定後に提示された勤務条件について疑問点がある場合や、提示された条件が面接時と異なる場合などは、早めに確認し解決しておくことが重要です。自分にとって譲れない条件がしっかり満たされているかどうかを必ず確認してから、内定を承諾しましょう。
まとめ
勤務条件が希望に合っていない職場への転職は、ミスマッチによる離職や転職の繰り返しにつながります。転職で失敗しないためには、希望する条件にあらかじめ優先順位を付けておくことが重要です。
本記事で紹介したさまざまな条件に自分の中での優先順位を付けたら、いよいよ転職活動のスタートです。自分にとって譲れない条件がしっかり満たされているかどうか、必ず確認してから就職先を決定しましょう。
薬剤師の採用事情に詳しい転職エージェントは、希望条件に優先順位付けする際の相談にのってくれるだけでなく、採用側との条件交渉を円滑に進めるためのパイプ役も担ってくれる存在です。自分ひとりでの転職活動が不安な場合は、ぜひ有効活用してみてはいかがでしょうか?