病院薬剤師の特徴的な業務といえば、「病棟業務」を思い浮かべる薬学生や薬剤師は多いのではないでしょうか?
今回は、薬剤師の病棟業務について、具体的な内容や、求められる役割などについて、未経験の方にもわかりやすく解説します。病棟業務は、今後、さらに拡大していくと見込まれます。病棟業務をやってみたいという方は、目指すための参考にしてみてください。
病棟業務での薬剤師の役割とは?
医師をはじめ、看護師や理学療法士など、さまざまな職種と連携し、患者に安全で効果的な医療を提供できるようにするのが、薬剤師の病棟業務での大きな役割です。
厚生労働省も、薬剤の投与量や投与方法、薬剤の選択、血中濃度のモニタリング、経過を加味した処方提案などの面で、薬剤師が積極的に関与していくべきだと方針を打ち出しています。薬剤師が病棟で業務をすることで、医療安全の面でメリットが得られるという実際の報告も増えてきました。
急性期病院だけでなく、慢性期病院でも薬剤師の病棟業務がおこなわれるようになってきており、今後は業務範囲自体も拡大していく見込みです。
薬剤師の病棟業務の内容とは?
病院での薬剤師業務として、実際にどのようなことをするのか、イメージは持てているでしょうか?病院により業務内容に幅はありますが、ここでは基本的な業務を3つご紹介します。
患者さんに対する業務
まず、患者さんに対して実際に薬に関連する指導をし、理解度を高めていく「薬剤指導」がイメージしやすいでしょう。抗がん剤やステロイドなど、新たに導入する場合には、しっかりと薬について理解してもらうこと が大切です。
薬剤師が関われるのは、新しい薬が処方されたときだけではありません。持参してきた薬の使い方が間違っている場合にも、改めて指導することでアドヒアランスの向上に繋がります。きちんと服薬できていない場合には、その理由を聴取し、服薬タイミングを変更する、剤形を変更するなど、一人ひとりに合わせた無理のない服薬方法を医師へ提案することも、薬剤師ならではの重要な業務です。
医療従事者に対する業務
医療従事者に対しても、薬剤師としての知識を使って多くの支援が可能です。
たとえば、持参してきた薬剤が院内に採用されていなかった場合は、適切な代替薬を提案したり、腎機能に対して用量が問題ないか・相互作用はないかなどを確認したりすることで、安全な薬物治療に貢献することができます。
病棟に常駐していれば、注射薬の配合変化や薬剤の管理方法、副作用に関するモニタリング項目の確認など、看護師に対してもすぐに返答ができ、円滑に業務を進める助けになるでしょう。最近では、薬剤がリハビリに影響するということも注目されてきており、薬剤師がさまざまな職種と連携することが求められています。
薬剤管理業務
院内で使用するあらゆる医薬品について、保管方法や使用期限のチェックなどを通した「品質管理」や、必要量を確保するための「在庫管理」などをおこなうことも、薬剤師の業務です。麻薬、毒薬、向精神薬は、管理方法が法律に定められているため、知識も必要となります。
病棟や外来で保管されている医薬品についても、保管方法が適切かどうかを確認するのは、ほとんどの病院で、薬剤師の業務です。
あまり処方量の多くない医薬品や高額医薬品については、期限切れを起こさないように調整する必要があります。必要な時に必要な医薬品を使用できるよう、患者の入退院に合わせ、過不足なく医薬品を調達しています。
また、災害拠点病院の場合は、院内で使用する分に加え、災害時には地域全体へ医薬品を供給する役割も求められますので、在庫管理も煩雑となります。
病棟業務における薬剤師の必要性
病棟において、薬剤師はどのような面で貢献しているのでしょうか。3つの側面からご紹介します。
医師や看護師の負担減
薬剤師が病棟で活動することで、医師や看護師など、他のスタッフの負担軽減に繋げることができます。
たとえば、一部の病院では、医師の代行として処方を入力する業務をおこなっています。医師は、外来・処置・手術などの合間を縫って処方を入力しているため、どうしても処方が時間外になってしまったり、処方もれが起きたりといった事態が避けられません。薬剤師が決められたルールに則って処方を代行することで、医師の負担を大きく減らすことができます。
看護師にとっても、薬剤師の病棟業務はメリットがあります。病棟で薬剤師が業務をしていない病院では、看護師が看護業務の合間に簡単な薬剤説明やインスリン等の手技指導をおこなう場合も多いです。薬剤師が指導などを担えば、看護師も本来のケア業務に時間を割くことができ、患者の安全性や満足度も高まると考えられます。
薬剤師の病棟業務により、あらゆるスタッフが、自分たちの本来の業務に集中することができるのです。
医療安全の推進
薬剤師が特定の病棟を担当して業務をおこなうことで、医療安全上もメリットがあります。
たとえば、入院患者の場合、現在服用している薬が1つの処方上にまとまっていないことも多く、調剤や鑑査の段階では、相互作用を完全には確認しきれないことが少なくありません。病棟担当者を配置することで、しっかりと相互作用や副作用症状の確認をおこなうことが可能です。
実際に薬剤を投与したあとは、病棟で患者の状態を直接確認することで、効果や副作用についてより適切に評価することができます。必要に応じ、用量・用法の変更提案、別の薬剤への変更提案なども迅速におこなうことができ、薬物治療の適正化がスムーズに実現できるのが、大きなメリットです。
「チーム医療」によるよりよい医療の提供
専門的な医療チームに薬剤師が参加することで、提供できる医療の質の向上も期待されます。医薬品の用法・用量の提案や相互作用の確認、必要な在庫管理など、薬剤師として貢献できることは非常に多いです。
現在、緩和ケアチーム、感染制御チーム、栄養サポートチーム、褥瘡管理チームなど、さまざまな医療チームの活動に対して加算がつけられており、薬剤師の参加が必須の要件となっているものもあります。チーム活動に薬剤師が参加することで、その場で迅速な対応をすることができ、スムーズなチーム活動、よりよい医療の提供に繋がっています。
薬剤師の病棟業務が増えている背景
1988 年に現在の薬剤管理指導料の前身である「入院調剤技術基本料」が、そして2012年には「病棟薬剤業務実施加算」が新設されました。これにより、それまでは加算なしで各々の薬剤師が自主的におこなっていた病棟業務に、初めて加算がつきました。1990年代には医薬分業が叫ばれるようになり、院外処方へと変わるに伴い、病院薬剤師に時間が生まれたことも、病棟業務開始への後押しになったようです。
当初は医薬分業の観点から病棟業務が拡大していきましたが、近年は「医師の働き方改革」にも影響を受けています。2024年4月より、医師の時間外労働時間に制限がかけられたことを受け、医師の業務負担を減らすことが急務となりました。そこで、医師の業務の一部を薬剤師へと「タスクシフト」することが求められているのです。
たとえば、既におこなわれているタスクシフトとしては、以下のようなものが挙げられます。
● 薬剤師外来の実施
● プロトコルに基づいた疑義照会の簡素化
● プロトコルに基づいた処方代行
● 薬物療法やそれに伴う副作用に関する説明
● 術前休止薬など周術期の薬剤的管理
● 医師と協議の上、TDMや検査オーダーなどの代行入力、処方修正
● チーム医療へのさらなる貢献
ニーズに合わせて病棟業務を拡大していくためには、病院薬剤師の人数を確保する必要があります。病院薬剤師の数は不足が続いている一方で、病棟業務に手を広げようという病院は増えていますので、未経験の方も挑戦してみるチャンスではないでしょうか。
薬剤師として病棟業務 を目指す方へ
病棟において、薬剤師に求められることは多岐に渡ります。
用法・用量や相互作用、副作用、配合変化といった、薬剤師としての基本的な知識に加え、疾患やその治療に関する知識、患者や他職種とのコミュニケーション能力、質問された内容を迅速に調べる力などが必要です。
病院の規模にもよりますが、希望者が全員、病棟で活動できるとは限りません。病棟で活動したいという方は、薬剤師として知識や経験を積み、「病棟で活動したい」という意欲を積極的にアピールする姿勢も、必要になるでしょう。
まとめ
今回は、病院薬剤師の業務の1つである「病棟業務」について、様々な観点からご紹介しました。薬剤師が病棟で活動することで、他職種の負担軽減や、医療の質の向上にも寄与することができます。今後、業務の幅はさらに広がっていく見込みです。
本記事が、病棟業務を目指す薬学生・薬剤師の参考になれば幸いです。