分割調剤とは?目的・メリット・デメリットや流れについて解説

分割調剤とは?目的・メリット・デメリットや流れについて解説

分割調剤とは?目的・メリット・デメリットや流れについて解説

薬剤師の中には、分割調剤に対応する機会が少ない人もいるのではないでしょうか。分割調剤とは、患者に処方された薬の管理が困難と判断した場合や、初めてジェネリックを処方するときに、複数回に分けて調剤することを言います。

従来は薬剤師の判断で分割調剤を行っていましたが、2016年度の診療報酬改定に基づき、医師が「薬剤師のサポートが必要」と判断した場合などに最大3回分までの分割調剤ができるようになりました。

分割調剤の判断基準は、その目的や患者の状況によって異なります。そこで今回は、分割調剤の概要とリフィル処方との違い、目的、メリットとデメリット、算定の方法、基本的な流れをご紹介します。

分割調剤とは

冒頭の説明のとおり分割調剤とは、患者の状況に応じて最大3回に分割して処方箋を発行する処方を指します。分割調剤が発生するケースは、以下3つがあげられます。

 処方薬の長期保存の困難性などの理由による分割調剤
 後発医薬品(ジェネリック)の試用による分割調剤
 医師の指示による分割調剤

長期保存が困難な医薬品として、吸湿性のある薬や一包化した薬などが該当します。14日を超える長期投与に関して、薬の品質を維持しながら家で保管するのが難しい場合に分割調剤が認められます。

また、ジェネリック医薬品を初めて使う患者の中には、服用に不安がある人もいるでしょう。この場合、分割調剤によって少量だけ試して検討したい場合などにも利用できます。

「長期保存の困難性などの理由」「後発医薬品試用のため」に該当する分割調剤は以前からあり、医師に連絡したうえで薬剤師の判断で行えました。

2016年の診療情報改定によって、これに「医師の指示」が追加されたのです。

分割調剤とリフィル処方の違い

リフィル処方とは、慢性疾患などで症状が長期間安定している患者に対して、医師が可能と考えた場合に処方箋を繰り返し利用できる(最大3回)制度です。患者は医療機関を受診する回数が少なくなるので通院負担が減るのと同時に医療費の節約につながります。

リフィル処方が同じ処方箋を繰り返し使用するのに対し、分割調剤では定められた処方期間を分割して調剤します。
例えば、90日分の医薬品を、30日分ごとに分けて調剤する場合、「30日分の処方箋を、繰り返し利用できる旨のチェックと回数(3回)を記載して発行」するのがリフィル処方箋です。一方、「90日分の処方箋を発行し、薬局に3回の分割指示」をするのが分割調剤です。分割調剤では最大3枚の処方箋が分割指示に関わる処方箋と一緒に一度に発行されるのに対し、リフィル処方では1枚で最大3回まで薬剤を受け取れるという違いがあります。

リフィル処方の場合、初回以外の調剤時には医療機関受診の必要がありません。患者は服薬中に気になったことや症状の変化などがある場合には薬剤師に相談します。薬剤師は必要に応じて医療機関の受診を勧める場合もあります。

医師の指示による分割調剤を取り入れる目的

医師の指示による分割調剤が導入された目的は明示されていないものの、実際の処方理由に関する研究報告から以下が想定されます。

 ポリファーマシーの予防
 残薬・医療費の削減
 適切な服薬管理
 患者の健康状態の把握

それぞれ、ひとつずつ解説いたします。

ポリファーマシーの予防

ポリファーマシーとは、多くの薬を服用することによって副作用が出たり、きちんと服用できなくなったりする状態のことです。
特に高齢者の場合、複数の疾患を抱えることがあり、数種類の薬を処方されることが多くなるため、ポリファーマシーになるリスクが高い傾向にあります。
日本老年医学会の「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」によると、6種類以上の薬を服用すると、薬物有害事象のリスクが増加するといわれています。

出典:「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」(日本老年医学会)

分割調剤では、定期的に薬剤師から服薬指導を受けられるため、ポリファーマシーの予防につながるのです。

残薬・医療費の削減

日本薬剤師会の調査によると、75歳以上の在宅患者の中で年間約475億円相当の残薬があると報告されており、医療費の増大とともに問題視されています。

出典:「「後期高齢者の服薬における問題と薬剤師の在宅患者訪問薬剤管理指導ならびに居宅療養管理指導の効果に関する調査研究」報告書」(日本薬剤師会)

残薬の原因は飲み忘れだけではありません。効果が実感できない、副作用が生じたことなどを理由に自ら服薬を中止する場合もあります。

分割調剤であれば、服薬状況を確認した際に飲み忘れに気づけるため、その後の調剤数を調整して残薬を減らすことが可能です。

万が一患者が服薬の中止を希望した場合にも、処方された薬が少ない段階で処方医に相談できるため、廃棄薬や医療費の削減につながります。

適切な服薬管理

高齢者は若年者と比べ、使用する薬の種類が多い傾向にあります。自身で適切に管理できなくなると、結果的に効果が現れない、副作用が現れるなどのトラブルにつながってしまうおそれがあります。

分割調剤では、長期処方の合間に薬剤師が薬の飲み方や使用方法を確認でき、適切に服薬管理をすることが可能です。服薬の必要性も繰り返し説明できるので、飲み忘れの防止にもなるでしょう。

患者の健康状態の把握

飲み慣れた薬であったとしても、ライフスタイルや体調の変化などにより、薬が合わなくなる場合があります。そのため、定期的に患者の健康状態を把握し、必要であれば薬の変更や減薬などを検討しなければなりません。

分割調剤では、薬剤師が患者の健康状態や薬の服用状況を確認できるため、丁寧な服薬管理が可能となります。

分割調剤を行うメリット

分割調剤のメリットは、次のとおりです。

 服薬アドヒアランスが向上する
 通院負担が軽減する
 患者の健康状態を把握しやすい
 ジェネリック医薬品を気軽に試せる

以下で、1つずつ詳しく解説します。

服薬アドヒアランスが向上する

服薬アドヒアランスとは、患者が自身の病気を受け入れ、医師の処方どおりに服薬している状態のことです。患者の中には、自己判断で服薬を中止したり、飲み忘れをしたりする人が一定数見られます。そこで、分割調剤で定期的に服薬指導を繰り返すことにより、適切な服薬管理を促すことが可能です。
分割調剤に関する研究によると、57%の患者が分割調剤にしてから薬の飲み忘れが減少した、という結果が報告されています。

出典:「長期処方の分割調剤における患者の薬物療法への影響」(国立保健医療科学院)

現在では、患者も積極的に治療方針の決定に参加し、その決定に沿って治療受けようとする気持ちが求められるようになってきています。患者側から何度か薬局に足を運ぶというアクションが必要な分割調剤は、服薬アドヒアランスの向上にも寄与しているのです。

通院負担が軽減する

長期保存に向かない薬や、患者自身での管理が難しい薬の場合でも、分割調剤であれば長期処方することが可能です。この場合、通院の負担の軽減にもつながります。

例えば、冷蔵保存が必要な注射薬や、高温多湿を避ける必要のある薬剤などは、薬局で適切に管理しながら分割して調剤すれば、患者宅での保管リスクを軽減できます。また、認知症患者や複雑な服薬スケジュールを要する場合、薬剤師が定期的に服薬状況を確認しながら調剤することで、より安全で確実に服用できるようになるでしょう。

薬の飲み忘れや誤用が防げるので、治療効果を最大限に引き出すことができます。同時に、患者や家族の服薬管理の負担も軽減され、QOLの向上にもつながります。

患者の健康状態を把握しやすい

分割調剤では、飲み始めてからの経過や副作用の出現がないかどうか確認する機会が増えます。そのため、薬が合わないことが発覚した場合は、速やかに医師に相談し、薬の変更を検討することが可能です。

定期的な薬の受け取り時に、薬剤師が患者の体調や生活習慣の変化を詳しく聞き取ることができます。これにより、薬の効果や副作用だけでなく、患者の全体的な健康状態を継続的にモニタリングすることが可能です。

この頻回に渡るコミュニケーションを通じて、患者との信頼関係も深まり、そのことは服薬アドヒアランスの向上にもつながります。結果として、より安全で効果的な薬物療法が実現でき、患者の健康管理を総合的にサポートすることができるのです。

ジェネリック医薬品を気軽に試せる

分割調剤ではジェネリック医薬品に対して不安を抱いている人でも、短期間で気軽に試せるのもメリットのひとつです。

分割調剤を利用すれば、ジェネリック医薬品を少量から試すことができ、効果や副作用を慎重に確認しながら切り替えを進めることが可能です。これにより、患者の不安を軽減しつつ、安全性を確保しながらジェネリック医薬品への移行が可能になります。

万が一合わない場合でも、すぐに元の薬に戻すことができるため、リスクを最小限に抑えられます。さらに、薬剤師が細やかにフォローアップすることで、患者の疑問や不安、懸念にも迅速に対応でき、ジェネリック医薬品に対する理解と信頼を深めることができます。結果として、医療費の削減にも貢献し、より多くの患者が経済的なメリットを享受できる可能性が高まります。

分割調剤を行うデメリット

一方、分割調剤のデメリットとして、以下のふたつがあげられます。

 不必要な長期処方をする可能性がある
 薬剤師の業務量増加につながるおそれがある

以下で、1つずつ詳しく説明します。

不必要な長期処方をする可能性がある

分割調剤であれば、受診する必要がなく定期的に薬剤師の服薬指導が入るだけなので、不必要な長期処方を助長してしまうおそれがあります。

これにより、医師は患者の状態変化をすぐには把握できず、適切な治療機会を逃してしまう可能性があります。例えば、慢性疾患の進行や新たな症状の出現を見逃してしまったり、定期的な検査や診察が必要な状態だったりしても、患者が通院を怠りがちになることも起こるでしょう。

さらに、薬剤の過剰消費や不適切な使用につながる可能性もあり、結果として医療資源の無駄遣いや薬剤耐性菌の発生リスクが高まる可能性があります。そのため、医師と薬剤師の緊密な連携や、適切な通院間隔の設定が不可欠となります。

薬剤師の業務量増加につながる恐れがある

薬剤師の業務負担もまた課題とされています。本来であれば1回の服薬指導の患者に対して最大で3回指導することになるため、調剤業務や指導に必要な時間が増加してしまうのです。

さらに、予定していた日程で対応できない場合はスケジュール調整の連絡業務も発生するため、業務負担が大きく増える可能性があるでしょう。

この業務量の増加は、薬剤師の労働環境に大きな影響を与える可能性があります。過度の業務負担は、薬剤師の疲労やストレスを増大させ、ミスのリスクを高める恐れがあります。また、一人の患者に対する対応時間が増えることで、他の患者へのサービスの質が低下する可能性も懸念されます。これらの課題に対応するためには、効率的な業務システムの構築や人員配置の最適化が必要不可欠です。

分割調剤を行う3つのケースと計算方法

ここからは分割調剤の3つのケースと計算方法について説明します。算定できる点数が異なるので、ケースごとに把握することが大切です。

1. 長期保存が困難な医薬品が処方された場合

長期保存が困難な医薬品の分割調剤では、初回は調剤基本料を算定、2回目以降は1回につき分割調剤基本料を5点算定できます。
これは同一薬局、同一処方箋で分割調剤した場合に限ります。2回目以降に異なる薬局で受け取りを選択した場合には、次の薬局でも調剤基本料を算定できるのです。

薬剤調整料や調剤管理料、外来服薬支援料は、初めて処方箋を受け取った日から今回までの通算日数分に対応した点数から、前回までに算定した点数を引いた点数で算定します。

2. ジェネリック医薬品の試用目的

初めてジェネリック医薬品を試す目的で分割調剤をする場合、初回に調剤基本料を算定、2回目は分割調剤基本料を5点算定できます。3回目は算定できない点に注意しましょう。

薬剤調整料と調剤管理料、外来服薬支援料2に関しては、長期保存が困難な医薬品と同様に算定します。

3. 医師による指示

医師の指示による分割調剤では、患者に以下の点について同意を得たうえで調剤する必要があります。

 別紙を含む処方せんのすべてを、毎回薬局に提出する必要があること
 分割調剤の処方せんをもらったら、1回目から最後まで同じ薬局に処方箋を持ってくるべきであること
 次回の処方せんを持参する意思や来局時期を確認して、予定どおりに来局しない場合には電話などで来局するように促すこと
 次回以降、異なる薬局に処方せんを持っていきたいと希望があれば、次の薬局に薬に関する情報などを提供すること

出典:「平成30年度診療報酬改定の概要調剤」(厚生労働省)

医師の指示による分割調剤では、調剤基本料、薬剤調整料、薬学管理料などを合計したうえで、分割回数で割った点数を算定します。
2回目以降の来局時に、医師へ服薬状況を報告した場合には、「服薬状況等提供料」を分割せずに算定することになります。

分割調剤の基本的な流れ

ここからは、分割調剤の大まかな流れについて説明します。

大前提として、分割調剤では処方日数に関する以下の決まりがあります。

 処方せんに記載された用量を超えてはいけない
 2回目以降の調剤では、使用期間の日数(処方箋交付の日を含めて4日を超える場合は4日とする)と用量(日分)に示された日数との和から、第1回調剤日から起算して当該調剤日までの日数を差し引いた日数を超えては交付できない

例えば、4月3日交付(使用期間4日間)、用量10日分の処方箋では、4月4日に5日分の調剤を受け、次に10日に調剤を受けに来た場合には(10+4)-7=7であるから、残りの5日分を全部交付しても問題はありませんが、もし第2回の調剤を4月13日に受けに来た場合には(10+4)-10=4となるので4日分しか交付できないきまりになっています。

出典:「調剤報酬点数表に関する事項」(厚生労働省)

つまり来局する日が遅れると、渡せる薬が減る可能性があるということです。来局された日程に合わせて渡せる薬の量を確認する必要があります。

出典:「個別事項(その8)医薬品の適切な使用の推進について」(厚生労働省)

上記を押さえたうえで、分割調剤の目的別の流れを説明します。

1.長期保存が困難な医薬品が処方された場合

長期保存が困難な医薬品に関する分割調剤の流れは、次のとおりです。

1.患者から処方せんを受け取ったら、処方医に照会したうえで分割調剤する
2.調剤しなかった分量、分割調剤の理由を処方箋に記載して患者に渡す
3.調剤録や薬歴に記載する
4.分割回数分来局されて、すべて処方済みになったら、処方せんを回収する

2.ジェネリック医薬品の試用目的

ジェネリック医薬品の試用目的での分割調剤の流れは、次のとおりです。

患者からジェネリック医薬品を短期間試す希望があったら、処方医に照会のうえ分割調剤します。

その後は、前章の「長期保存が困難な医薬品」の分割調剤の流れ2〜4と同様です。2回目の来局時には、患者と相談のうえ、先発医薬品・ジェネリック医薬品のどちらかを調剤します。

3.医師による指示

医師の指示による分割調剤の流れは次のとおりです。

1.分割回数分の処方せんとともに、分割指示に関わる処方せん(別紙)すべて受け取る
2.初回分を調剤して、残りの処方せんは返却する
次回すべての処方せんと別紙を持参すること、いつまでに来局するべきか伝える
3.2回目以降は来局のたびに、残りの処方せんと別紙をすべて受け取り、その回分の薬を調剤して渡す
4.2回目以降の来局では、薬を渡したあと「服薬情報提供書」を記載して処方医へ服薬状況を報告する
5.すべての調剤が完了したら、処方せんをすべて回収する

医師の指示で行う場合には、以下の内容を含めた服薬情報提供書の提出が必要な点を押さえておきましょう。

 残薬の有無
 残薬が生じている場合はその量及び理由
 患者の服薬中の体調の変化(副作用が疑われる症状など)の有無
 副作用が疑われる場合はその原因の可能性がある薬剤の推定

引用:「別添3 調剤報酬点数表に関する事項」(厚生労働省)

まとめ

分割調剤は、患者には通院負担の軽減や服薬アドヒアランスの向上につながるメリットがあります。薬剤師としては業務量の増加などの懸念がありますが、医師が患者の健康状態を把握するために、専門性を発揮して貢献できるチャンスだといえるでしょう。

分割調剤の目的、メリットとデメリット、基本的な流れ、算定方法について把握することで、適切な調剤や服薬指導ができるようにしておきましょう。

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