近年、オンライン診療の普及と制度整備を背景に、遠隔服薬指導を導入する薬局が増えてきました。一方で、「どのような患者・処方が対象となるのか」「対面服薬指導とどう使い分けるべきか」「実務上どこに注意すべきか」といった点に不安を感じている薬剤師、導入を迷っている薬局も少なくありません。
この記事では、遠隔服薬指導の制度的な位置づけを整理したうえで、対象となる患者像、導入までの具体的なステップ、メリット・デメリットを実務の視点から解説します。遠隔服薬指導を安全かつ適切に活用するため、日常業務の参考にしていただければ幸いです。
遠隔服薬指導とは?

遠隔服薬指導とは、薬剤師が患者に対しておこなう服薬指導を、対面ではなく情報通信機器を介して実施する仕組みです。スマートフォンやパソコンを通じて、ビデオ通話などで薬の効果や服用方法、副作用の注意点などを説明します。
日本では、新型コロナウイルス感染症の流行を契機として、2020年からオンライン診療・遠隔服薬指導が一時的に解禁され、その後の薬機法改正により、現在では一定の要件を満たせば遠隔服薬指導を実施できるようになりました。
来局が難しい患者でも、薬剤師による専門的な指導を受けられる点が特徴で、対面服薬指導と同様に薬学的管理をおこなうことが求められます。
遠隔服薬指導の対象について

遠隔服薬指導の対象となるのは、原則として薬剤師が安全に服薬指導をおこなえると判断した患者です。
たとえば、慢性疾患で服薬内容が安定している患者、移動が困難な高齢者や障害のある方、育児や仕事の都合で来局が難しい方などが想定されます。対面の場合と同様に、患者本人に重度の認知機能障害があるなど、薬剤師と十分に意思疎通が取れない場合に関しては、家族等を対象として指導可能です。
ただし、初診の場合、医師はオンライン診療で以下の処方はおこなえませんので、薬剤師も知っておきましょう。
● 基礎疾患等の情報が把握できていない患者に対する、ハイリスク薬の処方
● 基礎疾患等の情報が把握できていない患者に対する8日分以上の処方
参考:厚生労働省|薬生発0930第1号 令和4年9月30日 オンライン服薬指導の実施要領について
遠隔服薬指導|導入までの5ステップ

遠隔服薬指導は、単に服薬指導をオンラインでおこなう仕組みではなく、医師の診察、処方箋の共有、薬局での準備や確認といった複数の工程を経て実施されます。各ステップで患者・医療機関・薬局が適切に連携することで、対面服薬指導と同等の安全性と質を確保することが可能です。
ここでは、遠隔服薬指導を利用するまでの流れを5つのステップに分けて、実務の視点も踏まえて解説します。
ステップ① 対面・オンラインで病院を受診
遠隔服薬指導を利用する場合でも、まずは医師による診察を受けなければなりません。受診方法は、従来どおりの対面診療に加え、医療機関の体制によってはオンライン診療を選択できる場合もあります。
オンライン診療が解禁された当初、初診からのオンライン診療は認められていませんでしたが、現在では一定の要件のもとで初診からオンライン診療を受けることも可能です。診察の結果、医師が薬物治療を必要と判断した場合に処方箋が発行されるという点は、対面診療と変わりありません。
薬局としてはこの段階で直接関与することはありませんが、オンライン診療の可否や初診要件について正しく理解しておくことで、患者からの問い合わせ対応に役立ちます。
ステップ② 受診した医療機関から処方箋を指定の薬局へ送信
診察後に発行された処方箋は、患者が選択した薬局へ送信されます。電子処方箋を送付する、処方箋をFAXし原本を郵送するなど、処方箋をやり取りする方法は医療機関や薬局の体制によって異なります。
薬局では、処方内容を事前に確認し、調剤準備や疑義照会の要否を検討します。遠隔服薬指導では事前確認がとくに重要となるため、この段階で処方内容を把握しておくことが、安全な服薬指導につながります。
ステップ③ 遠隔服薬指導 の予約を取る
処方箋の送信後、患者は薬局と連絡を取り、遠隔服薬指導の予約をおこないます。予約方法は、電話やWeb予約、専用アプリなど薬局によってさまざまです。
この際、服薬指導に使用する通信手段の確認、本人確認、支払い方法や薬の受け取り方法の登録などをおこなうことが多いです。薬剤師は、予約日時までに処方内容や患者背景を確認するとともに、遠隔服薬指導の算定要件を満たしているかを整理しておく必要があります。
ステップ④ 予約日時に遠隔服薬指導を受ける
予約した日時になったら、患者は指定された方法で薬剤師と接続し、遠隔服薬指導を実施します。
遠隔服薬指導では、リアルタイムで、音声と映像の両方による通信が必須条件です。薬剤師は、対面時と同様に、薬の作用、副作用、服用方法、注意点などを説明します。
また、患者の体調や服薬状況を確認し、必要に応じて生活背景や不安点について聞き取りや介入をおこなうことも、対面服薬指導と同様に重要です。
たとえば、遠隔服薬指導でも残薬調整をおこなえます。実際に患者の自宅にある残薬を映像で確認できるため、対面時に自己申告で残薬確認をおこなうよりも正確性が向上するかもしれません。
ステップ⑤ 決済→処方薬の発送
服薬指導が終了したら、患者は薬剤費・調剤料などをアプリ等で支払います。
支払いが確認され次第、処方薬を患者の自宅など指定された住所へ発送します。患者は自宅から出ることなく、処方箋の提出から薬の受け取りまで、全ての手続きを終了できるのが遠隔服薬指導のメリットの1つです。
薬が届いた後も、服用中の疑問や副作用が生じた場合には、薬局へ相談できる体制を整えておき、患者に周知しましょう。
また、麻薬や向精神薬、毒薬など、厳格な管理を要する医薬品や、温度管理等に注意を要する医薬品については、適切な配送方法を用意する、薬局の従事者が直接届けるなど、工夫することが求められています。
遠隔服薬指導のメリット

遠隔服薬指導には、患者の利便性を高め、薬剤師による継続的な服薬支援を得られやすくするという特徴があります。
来局が難しい患者でも本人を交えて薬学的管理を受けられる点や、感染症対策としての有効性、さらに薬局・薬剤師を主体的に選べるようになる点など、従来の対面服薬指導にはなかった利点が挙げられるでしょう。
ここでは、遠隔服薬指導の代表的なメリットを3つ、詳しく解説します。
来局負担が減り、時間を有効活用できる
遠隔服薬指導のメリットの1つは、薬局へ実際に来局する必要がなくなる点です。高齢者や身体的な制約がある方、小さな子どもを連れている方、育児や仕事で外出が難しい方にとって、移動や待ち時間の負担は大きな課題となっています。
遠隔服薬指導を利用すれば、自宅や職場など都合のよい場所で服薬指導を受けることができ、移動時間や待ち時間を削減できます。その結果、心理的・時間的負担が軽減され、薬局内で長時間待つよりも、落ち着いて服薬指導を受けられるようになるでしょう。
薬局内で服薬指導を受ける場合と比較して、周囲の目を気にせず話せるためプライバシーが守られやすくなり、相談への敷居も低くなると考えられます。
感染症リスクを低減できる
遠隔服薬指導は、患者と薬剤師が対面で接触せず、さまざまな事情を抱えた患者同士が待合スペースで一緒に過ごすことがないため、感染リスクを大きく低減できるというメリットがあります。
とくに、インフルエンザや新型コロナウイルス感染症などが流行する時期には、医療機関や薬局への訪問自体が不安要因となることも少なくありません。
遠隔で服薬指導を受けられる環境があれば、感染を避けながら必要な薬学的支援を受けることが可能です。患者だけでなく、薬局スタッフの安全確保や医療提供体制の維持という観点からも、有効な手段といえます。
薬局・薬剤師を選択できるようになる
遠隔服薬指導では、患者が地理的な制約を受けにくくなり、自分に合った薬局や薬剤師を選びやすくなります。たとえば、自宅からのアクセスが悪い薬局であっても、特定の疾患に詳しい薬剤師や、説明が丁寧で相談しやすいと感じた薬剤師を選ぶといった変化が出てくるでしょう。
これは患者満足度の向上につながるだけでなく、薬剤師にとっても専門性を高めるモチベーションになったり、日々の研鑽や資格取得といった努力が反映されやすくなったりと、ポジティブな要素になりえます。
遠隔服薬指導の普及によって、今後は、立地だけでなく専門性や対応力といった要素が、薬局選択の基準としてより重視されていく可能性があります。
遠隔服薬指導のデメリット

遠隔服薬指導は多くのメリットがある一方で、薬剤師が留意すべき課題や限界も存在します。ここでは、実務の観点から押さえておきたい主なデメリットについて、以下の3点について整理します。
● すべての薬剤で遠隔服薬指導が適しているわけではない
● 薬が手元に届くまで時間がかかる場合がある
患者の状態把握に限界がある
遠隔服薬指導では、画面越しのコミュニケーションとなるため、患者の表情や体調の微妙な変化を把握しにくい場合があります。また、薬の使用状況を直接確認することが難しく、服薬状況の評価に限界が生じることもあります。
特に高齢者や服薬管理が不安定な患者では、対面での観察や細やかな対応が必要となるケースも多く、遠隔服薬指導が適さない可能性があります。薬剤師による慎重な判断が欠かせません。
すべての薬剤で遠隔服薬指導が適しているわけではない
遠隔服薬指導は、すべての薬剤に適用できるわけではありません。副作用リスクが高いハイリスク薬や、症状の出現・経過について注意深い観察が必要な薬剤では、対面服薬指導が望ましい場合があります。
たとえば、EGFR阻害薬の副作用による皮膚障害の治療の場合、症状の程度を直接確認したり、部位別に外用薬の使用方法をしっかりと説明したりすることが、適切な副作用マネジメントのために重要です。
また、インスリン注射や吸入薬など、デバイスの使用方法を実演しながら説明した方が理解を得られやすい薬剤では、遠隔での指導に限界があります。薬剤の特性や患者の状況を踏まえ、適切な指導方法を選択する必要があるでしょう。
遠隔服薬指導を選択する際には、薬剤そのもののリスクだけでなく、患者の理解度やセルフマネジメント能力も含めて総合的に評価することが重要です。
薬が手元に届くまで時間がかかる場合がある
遠隔服薬指導では、服薬指導後に処方薬を発送するため、来局してその場で薬を受け取る場合と比べて、手元に届くまで一定の時間を要します。風邪やインフルエンザ、緊急の症状などで服用開始を急ぐ治療の場合には、薬が届くまでの時間がはっきりしないことで不安を感じてしまう患者もいるでしょう。
配送体制や薬局の対応によっては翌日以降の受け取りとなる可能性もあるため、処方内容や治療の緊急性に応じて対面服薬指導と使い分けることができるよう、薬剤師がアドバイスすることも重要です。
服薬指導はオンラインでおこない、薬は店舗へ受け取りに行くという方法を取れる薬局もあります。
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まとめ
遠隔服薬指導は、来局が困難な患者や時間的制約のある患者にも継続的な薬学的管理を提供できる一方で、すべての患者や薬剤に適しているわけではありません。
安全に運用するためには、処方内容や患者背景を踏まえた適応判断と、対面服薬指導との適切な使い分けが不可欠です。導入によるメリット・デメリットを把握した上で、適切に運用することが求められます。
患者からのニーズは高まると考えられますので、この記事を参考に遠隔服薬指導を実施している職場への転職・導入を検討してみてはいかがでしょうか。