近年は、さまざまな職業でリモートワーク、在宅勤務が進んできました。医療関係者は、どうしても病院や薬局などへ「出勤しなければならない」と考えがちですが、在宅でできる仕事も増えています。
今回は、在宅勤務をしたいとお考えの薬剤師の方に向けて、どのような仕事があるか、また、仕事の探し方や働き方についてご紹介します。
薬剤師は在宅勤務できる?
薬剤師として、病院や調剤薬局等でおこなっているような服薬指導を在宅勤務でおこなうという道は、残念ながら現状ではほとんどありません。オンライン服薬指導が少しずつ普及してきているとはいえ、薬剤師も在宅勤務ができるわけではないようです。
ただし、薬剤師として身につけた医薬品の効能効果・安全性などに関する知識を活かせる在宅勤務はいくつか存在します。自分のライフスタイルや体調に合わせやすいということで、注目が高まってきている働き方です。
薬剤師として病院や薬局で勤務する中で、子育てとの両立が難しい、夜勤や土日のシフトが体力的につらい、残業が多くてプライベートの予定を入れにくい等のお悩みはよく耳にします。そういったお悩みのある方は、「薬剤師の知識を活かした在宅勤務」を視野に入れてみてはいかがでしょうか?
薬剤師の資格・経験が活きる在宅ワークの種類
薬剤師として在宅勤務をするのはまだ難しいですが、資格や経験を活かすことのできる在宅勤務はいくつかあります。
①メディカルライター
医療関係のライティングをおこなうライターの仕事は、近年人気が高いです。とくに、業務委託の形(フリーランス)で仕事を請ける場合、働く時間帯や曜日に制限がなく、自分の生活や体調に合わせた働き方をしやすいというメリットがあります。収入は安定しにくいですが、自由な働き方を優先する方におすすめです。
ライターとして企業に所属して働く道もあります。安定した収入を得ながら在宅勤務を叶えることもできるでしょう。
ライターは、大きく2種類のタイプに分けられます。
製薬会社などのメディカルライター
医療や医薬品に関して、専門性の高い資料やパンフレット、広告等の作成を担う仕事です。製薬企業や医療機器メーカー、医療系の専門誌や出版社などからの依頼を受け、医療従事者向けの文章を作成・校正します。
新薬の承認に必要な書類、論文の翻訳、医薬品の広告作成など、専門性の高い仕事で、文章作成が得意な方、細かな決まりを守って作業するのが苦にならない方におすすめです。論文を正しく解釈して資料を作成する必要があるため、薬理や体内動態、統計の知識などが必要不可欠であり、薬剤師としての知識や経験を大いに活用することができます。
メディカルライターは、フリーランスではなく企業に所属して働くことが多いため出社する勤務形態が主ではありますが、在宅勤務が認められているケースも少なくありません。
一般向けメディアのライター
一般の方向けの文章を作成するライターは「医療ライター」などと呼ばれ、メディカルライターとは区別されていることが多いです。
一般の雑誌やWEBメディアに掲載するための、健康に関連する記事を作成します。病気や薬の解説といった本格的なテーマから、睡眠や運動、サプリメント、美容など身近な疑問を解消するようなテーマまで、幅広く対応するのが特徴です。特別な資格が必要な仕事ではありませんが、正確な情報を書くことができるというアドバンテージをアピールできれば、仕事を請けることができるでしょう。
薬剤師として、患者へ服薬指導をしてきた経験から、わかりやすく噛み砕いて説明する力があり、一般の方が何に疑問を持つかなどを理解できているという点、正確な情報をリサーチできるという点で、医療系の資格を持たないライターと差別化をはかることができます。フリーランスでも多くの方が活躍していますので、チャレンジしてみてはいかがでしょうか。
②医薬翻訳業
薬剤師として英語論文などを読んでいた経験を活かして、医薬翻訳業はいかがでしょうか。フリーランスで仕事を請けるタイプと、製薬企業などに所属して翻訳を請け負うタイプがあります。
医療系の翻訳は、一般的な英語力があるだけではつとまりません。翻訳業は分野ごとに分かれており、正しくわかりやすい翻訳のためには、医療系の資格を持っていることが有利に働きます。
薬剤師として医療系の論文を読んでいた経験があれば、データの解釈も正しくおこなうことができるため、比較的取り組みやすい仕事と言えるでしょう。
翻訳者としてのレベルを証明する資格としては、以下のようなものがあります。資格があれば、フリーランスでも仕事を得やすくなるかもしれません。
● JTA公認翻訳専門職資格
● 治験実務英語検定
● 翻訳実務検定TQE
自分に翻訳業がつとまるか、自信がない…という方は、まずは製薬企業等の学術職などへ就職し、英語の文献に触れる機会を増やしてみるのも良いでしょう。そこから上記のような資格を取得し、フリーランスとして独立するなど、長期的に自由な働き方を模索するという手段も考えられます。
③薬剤に関するコールセンター
製薬企業などの問い合わせ窓口で電話を受け、適切な回答・情報提供をおこなう仕事です。在宅勤務でも人と関わりながら仕事をしたい方、人と話すのが苦にならない方に向いています。
医療用医薬品を販売するメーカーであれば、医療従事者からの問い合わせに対応することとなります。医薬品の薬効薬理、安全性、体内動態などを理解している薬剤師であれば、的確な情報提供ができるでしょう。使用法、相互作用、副作用などについての問い合わせが多いです。薬剤師として勤務する中で自身が問い合わせをした経験などが、活かせると考えられます。
OTC医薬品を販売するメーカーであれば、一般の顧客からの話を聞き、不安を解消したり、必要であれば受診勧奨をおこなったりする場合もあります。顧客から直接コンタクトを受ける「企業の顔」のような役割であるため、丁寧でわかりやすい対応が求められます。チャットでの24時間対応をおこなう企業も増えてきており、在宅勤務との親和性も高いです。今後も、需要は高まる職業だと考えられています。
④治験に関する書類作成業務
治験に関する書類作成をおこなう専門のライターを「CMC薬事ライター」と呼ばれることもあります。メディカルライターの一種です。病院や製薬会社、CROなどで治験業務に携わった経験のある薬剤師の方は、業務のイメージがつきやすいのではないでしょうか。
CMC薬事ライターは、治験薬概要書を中心に、治験実施計画書、症例報告書、同意説明文書、治験総括報告書、インタビューフォーム、PBRER、投稿論文等の作成など、治験に関連したあらゆる書類作成を担います。治験には非常に多くの書類が必要になるため、書類作成を一手に担う人材を置くようになってきました。
各種ガイドラインの内容を把握した上での、緻密な文書作成能力が求められます。多くの場合、高い英語力も必須です。英語文献の翻訳のほか、日本語から英語への翻訳が必要な場合もあります。また、文章や資料を作成するのに基本的なソフトが扱えることも必須条件とされることがほとんどです。
求められるレベルが高い分、給与水準も高い傾向にありますので、在宅勤務で高い給与を目指す方は、検討してみてはいかがでしょうか。
オンライン学習の講師
国家試験対策の講習や、認定薬剤師取得のためのeラーニングなど、オンライン学習の講師として働くという方法もあります。教えるのが好きな方、自分が学習で苦労した経験を還元したい方などにおすすめです。
国家試験対策の場合、生徒と1対1またはグループ講習として、学習をサポートします。授業をして質問に答えるだけでなく、学習計画の作成やフォローアップも必要です。個別指導であればあらゆる科目に対応しなければなりませんので、指導のために改めて勉強することも必要となるでしょう。国家試験には、新しい治療薬やインパクトのあった医学的進歩など、最新の情報も関わってくることから、医療現場の動きをリサーチし続ける能力も欠かせません。
薬剤師向けのeラーニング等の講師は、動画の内容から自分で構成する場合もあり、ご自身の専門性をしっかり発揮できる仕事です。大手調剤薬局などでは、グループ内で使用するオンライン学習システムを持っていることもあり、現場の薬剤師から講師へのキャリアチェンジもできるかもしれません。認定・専門資格などを持っていれば、講師としてのニーズも高くなるでしょう。
薬剤師の在宅勤務を始める方法
在宅勤務を始めようと考えた場合、どのように仕事を探せばよいでしょうか?大きく3つのパターンをご紹介します。
アウトソーシングサービスを利用する
フリーランスで働きたい方は、アウトソーシングサービスを利用して求人を探すのがおすすめです。ライター、医薬翻訳、コールセンターなどは、アウトソーシングサービスでも募集が多い傾向にあります。単発の仕事から継続の仕事まで、さまざまな募集がありますので、積極的に応募しましょう。
ご自身のキャパシティに合わせ、仕事量を調整できるのがフリーランスのメリットです。ただし、実績が少ないうちは、条件のよい仕事を請けるのが難しいかもしれません。収入が安定しにくいこと、税務申告なども自分でおこなわなければならないことに、注意してください。
ハローワークで探す
企業に所属して働きたい方は、ハローワークも選択肢となります。ハローワークを使って転職をしようと考える薬剤師は少ないようですが、実際、薬剤師の求人数は多いです。ハローワークは、地元の企業などを紹介する公的なサービスであり、窓口で担当者との直接面談もできるため、じっくり話を聞いてもらいながら仕事を探したい人に向いています。
ただし、基本的には出社する求人がほとんどであり、在宅勤務が可能な求人の取り扱いがあるかどうかは、地域や時期によって異なります。無料で利用できますので、まずは問い合わせてみると良いでしょう。
転職エージェントを利用する
転職にあたっては、エージェントを利用するのもおすすめです。面談を通じて希望の条件などをしっかりと把握してもらえるため、自分だけで探すよりも自分にマッチする求人を探しやすくなります。給与交渉や労働条件の確認などもエージェントが代行してくれますので、「思っていたのと違った」というようなトラブルも避けられるでしょう。転職のプロから、薬剤師としてのキャリアを効果的にアピールするにはどうしたらよいかなど、的確なアドバイスをもらえます。
在宅勤務の求人を扱っている転職エージェントはまだ少ないですが、今後、在宅勤務のニーズが高まれば、求人数も増えていくと考えられます。
薬剤師の在宅勤務でより多く稼ぐには?
病院や薬局でおこなうような薬剤師業務を、そのまま在宅でおこなう求人はまだありません。在宅勤務をしようと思うなら、ライターや翻訳業など、別の職務内容・業種へチャレンジすることとなるでしょう。そんな中で、薬剤師としての知識や経験を活かしてより多く稼ぐためには、いくつかのポイントがあります。
● 薬剤師としての経験がどう活かせるのかを考える
これまでの経験が、新しい仕事でどのように関わってくるのかを、具体的に説明できるようにしておきましょう。ただ「薬剤師免許がある」というだけでは、アピールが弱いかもしれません。
● 「薬剤師」以外のスキルを身につける
英語力や文章作成力など、薬剤師免許とは別のスキルに磨きをかけましょう。今回ご紹介したような在宅勤務のできる仕事は、薬剤師だけが担っているものではありません。薬剤師の資格があっても、他の求職者と比べて英語力などの基本的な能力で劣っていては仕事を獲得できないでしょう。必要なスキルを調べ、身につけておく必要があります。
まとめ
今回は、薬剤師の資格を活かしてできる在宅勤務について、代表的なものをいくつかご紹介しました。世間では在宅勤務が普及してきたとはいえ、服薬指導をはじめとした一般的な薬剤師業務は、まだ在宅勤務でおこなうことができません。
ライターや翻訳業、コールセンターなど、薬剤師の経験を活かせる仕事で、ライフスタイルに合った働き方を目指してみてはいかがでしょうか。