「今の職場では薬剤師としてのキャリアアップが見込めない…。」そんなときは、キャリアプランを一度見直してみませんか。本記事では、調剤薬局・ドラッグストア・病院・製薬会社の一般的なキャリアプランと、キャリアアップのポイントを解説いたします。
薬剤師にとってキャリアプランが重要な理由
売り手市場が続いた薬剤師は、新卒での就職・転職が比較的容易だったことから、あまりキャリアプランについて語られてきませんでした。しかし、昨今はその重要性が見直されています。まずは、その背景について解説いたします。
キャリアプランを考える重要性について、改めて考えてみましょう。
将来的に飽和状態になる可能性がある
薬剤師資格の保有者は増加を続け、2020年に32万人を超えました。一方で、2018年に4.7倍あった有効求人倍率は、2022年には2.0倍まで減少しています。薬剤師の成り手は増えているものの、一人当たりの求人は減ってきている状況です。
出典:「医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」(厚生労働省)
出典:「一般職業紹介状況~令和5年3月」(厚生労働省)
薬剤師の需要に大きく影響するのが業務のAI化です。特に、調剤管理・薬歴管理のAI化が進む調剤薬局や、ジェネリック薬品の普及で新薬開発の需要減が見込まれる製薬会社は、将来が不安視されています。
以上の状況から、薬剤師が将来的に飽和する可能性は否めません。そのため、今後も薬剤師として長く活躍するには改めて自身のキャリアを見直し、将来像を明確にしておくことが大切です。
薬剤師の将来性については、以下の記事でも解説しています。
「【薬剤師の将来性】今後の動向やキャリア形成の方法を解説」
自分にとって理想の薬剤師像を実現するため
以前よりも専門性の高い分野が増えたことを背景に、薬剤師の働き方は多様化が進んでいます。その分、選択肢が広がり、自分に合った働き方が容易になりました。
理想とする薬剤師像を実現するためのキャリアを歩むことで、仕事のモチベーションアップにもなり、やりがいを感じやすくなります。
【調剤薬局/病院/ドラッグストア/製薬会社】薬剤師のキャリアプラン
薬剤師が活躍できる職場は、大きく分けて調剤薬局・病院・ドラッグストア・製薬会社の4つです。ここでは、職場別のキャリアプランをご紹介します。
調剤薬局でのキャリアプラン
調剤薬局の場合は、入職後、調剤薬剤師として処方箋に基づく調剤業務や疑義照会、服薬指導、薬歴管理などの経験を積み、次の道へ進むのが一般的です。
・管理薬剤師
・エリアマネージャー
管理薬剤師を目指す
管理薬剤師は、薬機法で医薬品を取り扱う薬局・店舗への配置が義務化されている責任者です。「5年以上の実務経験」を有することが望ましいと規定されています。管理薬剤師になる方法は、内部昇進と求人への応募の2つです。
業務内容は、調剤薬剤師の仕事のほか、従業員の監督と医薬品の管理などがあげられます。裁量権が大きくなる点やエリアマネージャーへの道が開けることが、管理薬剤師になるメリットです。厚生労働省の調査によると、管理薬剤師の平均年収は約720万円といわれており、責任が大きくなる分、高収入が望めます。
出典:「第23回医療経済実態調査」(厚生労働省)
エリアマネージャーを目指す
エリアマネージャーは、担当エリアの複数店舗を管理し、薬局開設者と管理薬剤師の橋渡し役を担う役職です。必須となる要件はなく、管理薬剤師の経験を積むか、調剤薬局にエリアマネージャーとして就職する方法があります。
主な業務内容は以下のとおりです。
・店舗運営の指揮・経営状況の分析
・管理薬剤師から収集した情報を薬局開設者等に速やかに報告
・薬局開設者等の指示を管理薬剤師に伝達
・薬局開設者等から法令違反の指示を受けた場合は、指示を拒否し、法令違反の旨を薬局開設者等に伝達して、記録を残す
出典:「薬局開設者及び医薬品の販売業者の法令遵守に関するガイドライン」(厚生労働省)
複数店舗を担当し、責任も重くなることから年収は高く、約750万円に達するケースもあります。さらに、経営視点で薬局運営に携わる経験はやりがいにつながり、将来の独立にも役立ちます。
病院でのキャリアプラン
病院では、病院薬剤師として入院患者の薬剤管理、外来調剤、DI(医薬品情報)業務などを経験後、薬剤部長を目指すプランが考えられます。
薬剤部長を目指す
薬剤部長は、薬剤部門の統括者として医薬品管理のほか、病院経営にも関わる立場です。就任要件は特にありませんが、管理薬剤師が薬剤部長を担う場合も見られます。
具体的には、
・認定薬剤師・専門薬剤師の取得を通じた専門的知見の獲得
・チームマネジメント力
・多職種間の協働・折衝を円滑に行えるコミュニケーション能力
などのスキルアップを図ることで、薬剤部長への道が開けます。
平均年収が約550万円といわれる病院薬剤師も、薬剤部長になると約1~6万円の役職手当も加わり、収入は大きくアップします。薬剤部門のマネジメントを通じた経営参画の経験と臨床医療に携われる点も、この仕事の魅力です。
出典:「第23回医療経済実態調査-令和3年実施-」(厚生労働省)
ドラッグストアでのキャリアプラン
ドラッグストアではOTC医薬品や日用品を多く取り扱うため、一般薬剤師は主に服薬指導・販売業務・商品管理を担当します。経験を積んだ後は、管理薬剤師やエリアマネージャーへ進むプランが考えられます。
管理薬剤師を目指す
管理薬剤師の業務内容には、一般薬剤師の仕事に従業員の監督と医薬品の管理が加わります。推奨される要件や役職に就く方法は、調剤薬局と同様です。
ドラッグストアでは、接客スキルのほか、OTC医薬品・医薬部外品などの知識が多く求められます。医薬品の知識が少ないパート・アルバイト従業員の育成・指導に関わるのも、調剤薬局との違いです。
エリアマネージャーを目指す
店舗運営・経営に関わる経験に加え、エリアマネージャーへ昇進の機会があることも、管理薬剤師になるメリットです。待遇にもよりますが、職務手当がつくので調剤薬局と同じく収入アップが見込まれます。
エリアマネージャーの主な役割や役職に就く方法は、調剤薬局のエリアマネージャーと同じです。各店舗を回って売り上げや課題などを分析し、運営・経営面から役立つ施策を立案します。売場づくりも重要な仕事です。
実際に店頭に立つ機会も多く、売り上げアップや黒字化などの目に見える成果を得た際には、喜びもひとしおです。収入も調剤薬局のエリアマネージャーと同水準が期待できます。
製薬会社でのキャリアプラン
製薬会社では、主に以下の職種ごとにキャリアアップを目指せます。各職種で専門性を高め、業務範囲を広げることが大切です。
・管理薬剤師
・臨床開発モニター
・治験コーディネーター
・MR(医薬情報担当者)
管理薬剤師を目指す
管理薬剤師は、薬機法で医薬品を取り扱う工場・拠点への配置が義務付けられているため、製薬会社にとっても必要な役職です。
職場では、次のような業務を担当します。
・医薬品の在庫・品質管理
・DI業務
・病院からの問い合わせ対応
・行政機関に提出する文書作成
・MRへの教育業務
推奨される要件は、調剤薬局やドラッグストアの管理薬剤師と同様です。製薬会社は福利厚生が充実しており、ワークライフバランスを維持しながら働けることが大きなメリットです。
臨床開発モニター(CRA)を目指す
臨床開発モニター(CRA)は、製薬会社サイドから治験業務の円滑な運営をサポートする職種です。医療機関の選定、治験の進行監督、提出書類の作成を主に行います。必須となる要件はないものの、薬剤師・看護師などの医療系資格、国際共同治験で必要な英語力が求められる傾向にあります。
この仕事のやりがいは、新薬開発を通じた社会貢献ができることです。また、業務を通じて高い専門性が身に付き、将来的な需要も見込まれています。
治験コーディネーター(CRC)を目指す
治験コーディネーター(CRC)は、医療機関で治験に関わる患者・医療従事者・製薬会社の調整役を担います。特定の資格は不要で、薬学的な知識に富む薬剤師が力を発揮できる職種です。
この仕事には、医学的知識や事務処理能力に加え、調整・折衝力、治験に不安を抱く患者へ適切な配慮が行える高いコミュニケーション能力も求められます。新薬がリリースされたときの達成感、患者から寄せられる感謝の声を糧に、業務に励む人も多いようです。
医薬情報担当者(MR)を目指す
医薬情報担当者(MR)は営業・広報担当として、医薬品の効能・安全性などの情報を医療機関や薬局に提供する仕事です。医師や患者からのフィードバック、副作用などの情報も収集します。必須となる資格はなく、薬剤師が持つ医薬品の知識を活かせる環境です。
求められるスキルは、医学・薬学的知見に加え、営業力やプレゼンテーション能力、コミュニケーション能力が挙げられます。新薬をはじめとする最新の医薬品情報に触れられることや、平均年収約570万円という比較的高い報酬が期待できる点も魅力です。
出典:「医薬情報担当者(MR)」(厚生労働省)
薬剤師でキャリアアップを目指したいときのポイント
薬剤師が希望のキャリアアップを実現するための方法として、資格の取得と転職エージェントの活用があります。
認定薬剤師資格や専門薬剤師資格を取得する
薬剤師のキャリアアップには、一定水準以上の薬学的知識を証明できる認定薬剤師の資格取得がおすすめです。「もっとスキルアップしたい」「目指したい領域が決まっている」という人は、さらに高度な知見を習得できる専門薬剤師の資格取得も検討してみましょう。
以下は、代表的な認定薬剤師資格です。
研修認定薬剤師
日本薬剤師研修センターが認定する資格です。集合研修や自己研修などの受講を通じて、時代に即した薬学全般の知識を有している証明が期限付きで授与されます。かかりつけ薬剤師の要件のひとつです。
がん薬物療法認定薬剤師
日本病院薬剤師会が、がん領域の薬物療法に関する知識と技能を持ち、チーム医療に貢献できる薬剤師を認定する資格です。増加し続けるがん患者の薬物療法において、患者への服薬指導や情報提供のほか、他の医療従事者への提案も行います。
緩和薬物療法認定薬剤師
日本緩和医療薬学会が、がん緩和療法に貢献できる専門的な知見を持った薬剤師を認定する資格です。患者の状態に応じて、緩和薬物療法に使用する薬剤を的確に管理することが求められます。研修認定薬剤師を取得することが資格要件のひとつです。
続いて、主な専門薬剤師資格をご紹介します。
感染制御専門薬剤師
日本病院薬剤師会認定の感染制御に関する資格です。患者が安心して適切な治療を受けられる環境を提供するため、感染制御の基礎知識や的確な薬剤管理を身に付けることが求められます。
精神科専門薬剤師
日本病院薬剤師会が、精神科の薬物療法について高度な知見を有し、患者の状態に合った薬物療法の提案、社会復帰の支援などが行える薬剤師を認定します。患者の増加を背景に精神科医療で需要がある資格です。
妊婦・授乳婦専門薬剤師
妊娠・授乳期の薬物療法に関する日本病院薬剤師会の資格です。妊婦・授乳婦に対する薬物療法の専門的な知識と経験があり、服薬に関するカウンセリングができる薬剤師を認定します。
転職エージェントに相談する
薬剤師としてキャリアアップを目指すなら、転職エージェントへ相談するのもひとつの方法です。高待遇・高収入の求人情報を見つけやすく、非公開求人も紹介してもらえます。勤務条件や年収の交渉をコーディネーターに任せられるのも利点です。
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まとめ
将来的な薬剤師の需要減に備えつつ、理想のキャリアを実現するには、キャリアプランを見直す必要があります。思い描くキャリアプランを歩むためには、資格の取得や転職エージェントの活用が有効な方法です。
「キャリアアップにつながる資格を取得したい」「希望の職場や職種がある」という人は、早速、資格取得や転職の準備に取り掛かりましょう。