薬剤師として働く上で、多くの方が気にする条件の1つが給与です。やりがいがあっても、給与が低くては長く続けることはできません。年収が高いことは、働くモチベーションにもなります。
今回は、薬剤師の年収事情について、公的なデータを元に詳細に解説します。また、理想的な収入を得るためのキャリアパスもいくつかご提示しますので、参考にしてみてください。
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👉薬剤師の転職相談はこちら(無料)薬剤師の平均年収はどれくらいなのか?
そもそも、薬剤師全体としての平均年収はどのくらいなのでしょうか。公的なデータを元に、性別や年齢、業種、雇用形態などさまざまな視点から、細かくご紹介します。ご自身が希望する年収を得られる可能性があるかどうか、まずはリアルなデータから考えてみましょう。
薬剤師の年収の中央値はどれぐらい?
令和4年の「賃金構造基本統計調査」によると、薬剤師の月給の中央値は37万円、年間給与(賞与や超過勤務は除く)の中央値は444万円でした。
正職員で勤務する場合、一般的に賞与や超過労働給与などが追加になるため、年収の中央値はおおよそ500万円前後になるのではないかと考えられます。
経験年数、役職の有無、超過勤務の量などにもよるため、一概に年収何万円以上が良いと断言することはできません。ですが、500万円よりも高い給与を得ているのであれば、薬剤師の中でも比較的好条件の職場に勤めていると言えるでしょう。
参照:賃金構造基本統計調査
日本の平均年収との比較はどうなのか?
国税庁のデータによると、令和4年度の給与所得者の平均給与は458万円です。2年連続で増加傾向となっています。また、雇用形態別では、正職員が523万円、正職員以外が201万円でした。薬剤師の平均年収は577万円のため、日本全体の平均年収と比較すると、水準が高いことがわかります。
男女別の平均年収を見てみると、男性が563万円、女性が314万円と、差が大きく目立つ結果でした。薬剤師も、男性と比較すると女性の方がやや平均年収が低いですが、日本の平均年収と比較すると安定した給与が得やすい職業だと言うことができます。
薬剤師の男女別平均年収
こちらのデータは、「令和5年賃金構造基本統計調査」の報告結果から算出したものです。
平均年収 | 平均年齢 | |
男女合計 | 577.9万円 | 40.3歳 |
男性 | 622.6万円 | 41.0歳 |
女性 | 542.8万円 | 39.7歳 |
男性薬剤師の方が、女性薬剤師よりもやや年収が高い傾向にあることがわかります。女性薬剤師の方が、産休・育休によるキャリアの中断があったり、それに伴うパートや時短勤務といった雇用形態の方が多く含まれていたりする影響もあるのではないかと考えられます。
薬剤師の男女年齢別平均年収
こちらのデータも、「令和5年賃金構造基本統計調査」の報告結果から算出しました。
平均年収 | 男性 | 女性 | |
1年目 | 423.6万円 | 465.5万円 | 398.3万円 |
2〜5年目 | 4901.5万円 | 529.0万円 | 463.4万円 |
6〜10年目 | 512.5万円 | 527.91万円 | 498.0万円 |
11〜15年目 | 588.3万円 | 618.4万円 | 559.8万円 |
16年目以上 | 621.0万円 | 679.9万円 | 577.3万円 |
1年目は平均年収が423.6万円であったのに比べ、16年目以上では平均年収が621万円と、年齢に伴って平均年収は大きく上昇するという結果でした。薬剤師としての経験年数を積むにつれ、給与は着実に上がっていくことがわかります。長く働くことで、給与が増える見込みがあるという点は、ポジティブな要素といえるでしょう。
一方で、男女の平均年収差は、年代が上がるごとに大きくなっていました。これはキャリアの中断や雇用形態の違い、役職についているかどうかなどによる差が、年々広がっていくためだと考えられます。
都道府県別
続いて、都道府県別に平均年収を比較してみましょう。こちらも、「令和5年賃金構造基本統計調査」の報告結果から算出しました。
薬剤師の平均年収が最も高かったのは広島県で、662万円でした。半数の都道府県では平均年収が500万円を超えており、日本全体の平均年収と比較しても安定した収入が得られると言えます。
平均年収 | ||
1 | 広島県 | 662.0万円 |
2 | 秋田県 | 649.0万円 |
3 | 宮城県 | 629.1万円 |
都道府県別の平均年収で下位の場合は、日本全体の平均年収と同程度となり、上位の都道府県とは年間200万円近い差があるという結果でした。
平均年収 | ||
45 | 新潟県 | 460.6万円 |
46 | 青森県 | 460.0万円 |
47 | 徳島県 | 451.7万円 |
業種別の薬剤師平均年収比較
病院・薬局・ドラッグストアでの平均年収を比較してみます。厚生労働省の「薬剤師の偏在への対応策」という資料から抜粋し表を作成しました。
病院 | 薬局 | ドラッグストア | |
20代 | 380万円 | 420万円 | 450万円 |
30代 | 500万円 | 510万円 | 500万円 |
40代 | 600万円 | 600万円 | 600万円 |
50代 | 700万円 | 600万円 | 600万円 |
60代 | 600万円 | 562.5万円 | 530万円 |
生涯累積年収 | 2億3,280万円 | 2億2,433万円 | 2億2,350万円 |
若い年代では調剤薬局やドラッグストアの薬剤師の年収が高いですが、40代頃にはほとんど同じになり、50代では病院勤務の薬剤師が最も高くなるという結果でした。
これは、ドラッグストアが若手人材確保のため初任給を高く設定する一方、病院は勤続年数や役職に応じて着実に昇給する給与体系をとっているためです。
一方、病院薬剤師は初任給が約380万円と低めですが、専門性を高めながら長期的に勤務することで昇進し、50代には年収700万円に達するなど、勤続年数に応じた着実な昇給が期待できます。
調剤薬局は30代で510万円と安定していますが、これは管理薬剤師以上のポストが限られ、昇給が頭打ちになりやすいため、その後の伸びは緩やかです。年齢別のキャリアプランを考える上では、初任給だけでなく生涯年収の視点も重要になってきます。どの業種でも、65歳の定年まで働くと仮定した場合、生涯累積年収には大きな差はないようです。
どの業種を選んでも最終的にはあまり変わらないというのは、安心材料と言えます。
参照元:厚生労働省「薬剤師確保のための調査・検討事業薬剤師確保計画策定ガイドライン作成のための調査検討事業報告書」
雇用形態別の薬剤師平均年収
薬剤師の資格があれば、正職員に限らず、パートタイムでも働きやすいのが魅力です。求人も多く、比較的時給も高いことから、パートタイムの薬剤師も多くいます。
正職員として働く薬剤師の平均年収は、550〜580万円程度で推移しています。夜勤や休日勤務の多い職場では、高くなりやすいです。
一方、パートタイム薬剤師の平均的な時給は2,000円前後が多く、週に24時間働くと仮定した場合、年収は約230万円になります。勤務時間が短いこともありますが、ボーナスがない、定期的な昇給がないという点も、年収の差として現れていると言えるでしょう。
さらに、より高時給な「派遣薬剤師」という働き方もあります。時給相場は3,000円~3,500円と非常に高く、フルタイムで勤務すれば年収600万円以上も可能です。即戦力として期間限定で働くケースが多いため、その分が高い時給に反映されています。自由度の高い働き方で高収入を目指せるため、人気の雇用形態です。
臨時勤務(派遣)の時給はデータ上2,663円ですが、実際の求人市場では時給3,000円以上の高時給案件も少なくありません。
柔軟な働き方を選びながら、ある程度の収入を確保できるのが薬剤師の強みです。
参照:令和5年賃金構造基本統計調査|臨時労働者|臨時労働者の職種(小分類)別1時間当たりきまって支給する現金給与額(産業計)
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👉薬剤師の転職相談はこちら(無料)薬剤師の年収が高い・低いと感じる理由
薬剤師の年収は、日本の平均給与より高い水準にありますが、その評価は「高い」「低い」と二分されがちです。
高いと感じる理由は、やはり国家資格を持つ専門職としての安定性です。一度資格を取得すれば、全国どこでも安定した需要があり、社会的信用も高く、生活に困る心配は少ないでしょう。
一方、低いと感じる最大の理由は、6年制大卒という高い教育コストに見合わないと感じる点です。特に、同じ医療系の国家資格である医師と比較すると年収には大きな差があります。
また、病院や薬局では昇給率が低く、給与が頭打ちになりやすいことも不満の一因です。こうした背景から、年収に対する満足度は個人の価値観や働く環境によって大きく左右されます。
薬剤師が年収に不満を感じる主な原因
薬剤師が年収に不満を感じる原因は主に3つあります。
第一に、6年制大学の学費という先行投資の大きさです。数百万円から一千万円以上かかる学費を回収するには、現在の平均年収では物足りないと感じる人がいます。
第二に、同じ医療専門職である医師との給与格差です。業務上関わる機会が多いため比較してしまい、差を感じてしまうことがあります。
第三に、昇給率の低さです。特に病院や調剤薬局では管理職ポストが限られ、キャリアを重ねても大幅な年収アップが難しい現実があります。
薬剤師の年収に関する誤解と現実
「薬剤師は誰でも高収入」というイメージは一般的な誤解です。現実は、勤務地や業種によって年収は大きく異なります。例えば、薬剤師が不足している地方は、都市部より給与水準が高い傾向にあります。
また、年齢別に見ると、20代や30代前半では、他の理系大卒の専門職と年収に大差ないことも珍しくありません。
【他の理系大卒の専門職の年収】
職種 | 平均 |
保健師 | 451.1万円 |
助産師 | 567.0万円 |
看護師 | 508.2万円 |
診療放射線技師 | 537.0万円 |
臨床検査技師 | 508.5万円 |
理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、視能訓練士 | 432.5万円 |
栄養士 | 390.2万円 |
特に女性は、ライフイベントを機に非正規雇用へ移行し、平均年収が下がる傾向があるという現実も知っておくべきでしょう。
参照:令和5年賃金構造基本統計調査|一般労働者|職種(小分類)別きまって支給する現金給与額、所定内給与額及び年間賞与その他特別給与額(産業計)
薬剤師の年収を上げる具体的な方法
薬剤師が年収を上げるには、戦略的なキャリア形成が不可欠です。まず、現職での昇進を目指し、管理薬剤師などの役職に就くことが着実な方法です。
次に、専門性のアピールです。「がん専門薬剤師」などの認定資格を取得すれば、手当や転職で有利に働き、収入アップに繋がります。
また、より高待遇な職場への転職も有効な手段です。特に経験を積んだ30代は、即戦力として評価されやすいでしょう。製薬会社や大手ドラッグストアのマネージャー職などでは、年収1000万円も夢ではありません。
さらに、薬剤師が不足している地方へ勤務地を変えたり、知識を活かして翻訳や医療ライターなどの副業を始めたりと、多様な選択肢を視野に入れることが高収入への鍵となります。
専門・認定薬剤師資格の取得
専門性を証明する資格は、年収アップの強力な武器です。
例えば、「がん専門薬剤師」や「精神科専門薬剤師」などの専門薬剤師資格は、病院内での評価を高め、月数万円の資格手当が支給されるケースがあります。また、「認定実務実習指導薬剤師」の資格は、薬学生の指導に携わることで手当に繋がるかもしれません。
さらに「プライマリ・ケア認定薬剤師」など、地域医療への貢献を示す資格も、かかりつけ薬局としての評価を高め、間接的に給与に反映される可能性があります。
薬剤師の副業による収入増加法
薬剤師の資格を活かせる副業は、収入の柱を増やす有効な手段です。最も一般的なのは、週末や夜間を利用した調剤薬局やドラッグストアでのパート・アルバイトです。時給2,500円以上も珍しくなく、効率的に収入を増やせます。
他にも、自分の経験や知識を発信するメディカルライターやブログ運営、オンラインでの健康相談サービスなど、在宅でできる仕事も増えています。本業に支障のない範囲で取り組めば、年間数十万円の収入増も可能です。
地方勤務による高収入の可能性
都市部に比べ薬剤師が不足している地方では、好待遇の求人が多く見られます。
都道府県別の平均年収ランキングでも、広島県や秋田県といった地方が上位にきており、年収600万円を超えることも珍しくありません。メリットは高収入に加え、家賃補助や引越し費用負担など手厚い福利厚生が期待できる点です。
一方、デメリットとしては、交通の便や情報へのアクセス性が挙げられます。ライフプランに合わせて地方でのキャリアを選択肢に入れると、大幅な年収アップが実現可能です。
薬剤師におすすめのキャリアパス
薬剤師として働く上で重視するものは、給与のほか、やりがいやワークライフバランスなど人それぞれです。給与を重視したい方の場合どのようなキャリアパスが考えられるか、いくつか代表例をご紹介します。
①長期勤務で安定した収入を得る
昇給率が高い、資格手当やボーナスが高額など、給与条件の良い企業へ入職し、長く働くというのがまず代表的なキャリアパスです。
例えば、昇給率は企業により異なりますが、定期昇給に加えて、管理薬剤師になれば月3〜10万円の役職手当が見込めます。また、認定薬剤師や専門薬剤師の資格に月5,000円〜数万円の手当を支給する企業も少なくありません。
ボーナスは年間3〜4か月分が相場ですが、こうした手当を積み重ねることで、着実に年収700万円以上を目指すことも可能です。一般的に、勤続年数が長くなれば退職金の金額も大きくなります。役職につく機会もあるでしょう。
携わる業務範囲に制限が出る、変わらない環境に飽きるなどデメリットはありますが、給与の見通しが立てやすいため、安定した生活を希望される方にはおすすめの働き方といえます。
②派遣薬剤師として高収入を得る
薬剤師として必要なスキルや知識がある程度身についた方であれば、派遣薬剤師として高条件の求人を選んで働くというキャリアパスもあります。勤務地にこだわらないのであれば、薬剤師不足の地域へ行くのもおすすめです。
特に派遣薬剤師は、高時給が魅力の働き方です。時給相場は3,000円〜3,500円で、フルタイム勤務なら年収600万〜700万円以上も可能です。期間限定で集中的に稼ぎたい方や、様々な職場を経験したい方に向いています。特に女性にとっては、子育て後の復職など、柔軟な働き方を選びやすい点もメリットです。
一方で、即戦力を求められるため、薬剤師としての実力をシビアに評価されるストレスがある点や、必ずしも自分のやりたい業務ができるとは限らない点などデメリットはあります。
定期的に環境を変えてリフレッシュできる働き方ですので、興味のある方は派遣薬剤師を検討してみてはいかがでしょうか。
③管理薬剤師で年収アップを目指す
調剤薬局やドラッグストアの管理薬剤師になれば、一般薬剤師と比較して大幅な年収アップが見込めます。
令和3年に実施された「第23回医療経済実態調査」によると、管理薬剤師の平均年収は646万円で、店舗数が少ないほど管理薬剤師の年収は高い傾向にありました。
管理薬剤師の業務は、一般的な薬剤師業務のほか、従業員の監督、医薬品の在庫管理、店舗運営など多岐に渡ります。責任は重いですが、確実な年収アップを目指す方にはおすすめのキャリアパスです。
管理薬剤師は、役職手当として月3万円~10万円が加算され、年収が50万円~100万円アップするケースが一般的です。薬局での5年以上の実務経験が推奨されているため、20代後半以降のキャリアプランとして視野に入れると良いでしょう。
④転職で年収アップを目指す
転職に伴って、年収アップを目指す方も非常に多いです。
病院から調剤薬局への転職など、業種を変えるのも良いでしょう。これまでの経験が新しい業種でどのように活かせるのかをうまくアピールできれば、給与アップも見込めます。同じ業種であっても、知識や経験、取得した資格などを強みとしたキャリアアップが可能です。
ただし、自分の強みがわからずアピールに失敗してしまうと、転職活動がうまく進まず、給与が下がったり、転職先で希望の業務ができなかったりすることもあり得ます。
希望通りに転職したい方は、転職エージェントのアドバイスを受けてみてはいかがでしょうか?自分では思いもよらなかったアピールポイントが見つかるかもしれません。
特にスキルと経験を積んだ30代は、市場価値が高く、大幅な年収アップを狙える絶好のタイミングです。年齢別に見ても、この年代の転職成功例は多く、平均で50万〜100万円の年収増が期待できます。大手企業や製薬会社へ転職すれば、将来的に年収1000万円を目指すことも不可能ではありません。
非公開求人を多く持ち、面接対策や条件交渉の代行などもしてくれる転職エージェントを賢く利用することが、成功の鍵となります。
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薬剤師の平均年収は日本全体の平均より高いものの、勤務先や働き方によって大きな差があります。
年齢別の推移や職場ごとの特徴を理解し、専門資格の取得、有利な条件での転職、地方での勤務など、戦略的にキャリアを構築するのが、満足のいく高収入を得るための鍵と言えるでしょう。
よくある質問
薬剤師のリアルな年収はいくらですか?
令和5年の賃金構造基本統計調査によると、薬剤師の平均年収は約578万円です。
ただし、これは全体の平均値にすぎません。20代では400万円台、病院勤務では初任給が低いなど、年齢別・勤務先によって大きく異なります。自分の状況に近いデータを確認することが重要です。
薬剤師で年収1000万以上の人はどれくらいの割合ですか?
薬剤師全体で年収1000万円を超えるのは、上位数%とごくわずかです。
その多くは、大手製薬会社の管理職やMR、複数店舗を統括するエリアマネージャー、自分で薬局を経営するオーナーなどです。一般的な勤務薬剤師が到達するのは、非常に難しいのが現実です。
薬剤師の将来的な年収見通しはどうですか?
薬剤師数の増加により、調剤業務のみでは給与が上がりにくくなる可能性があります。
しかし、在宅医療や予防医療といった分野で専門性を発揮できる薬剤師の需要は今後さらに高まります。AIが導入されても、対人業務の価値は揺るぎません。スキルアップを続けると、将来も安定した年収が見込めるでしょう。