「門前薬局って調剤業務だけなの?」
「かかりつけ薬局とかかかりつけ薬剤師って門前薬局とは関係ないの?」
と考えている薬剤師の方もいるのではないでしょうか。
門前薬局は病院やクリニックなどの近くにある薬局のことです。医療機関からの処方箋を受け付け、調剤するだけが門前薬局の役割だと思われがちですが、門前薬局には特別な役割があります。門前薬局のメリットとデメリットをよく知ってから、働くようにしましょう。
この記事では門前薬局の持つ役割、門前薬局で働くメリットやデメリットなどについて、ドラッグストア勤務経験のある、元病院薬剤師が解説します。この記事を読むと、門前薬局について詳しくわかるようになります。
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👉希望に合う求人を紹介してもらう門前薬局とは?
門前薬局は病院やクリニックなどの近くにある薬局のことで、いわば「門の前」にあることからこのように呼ばれています。おもに近くの医療機関からの処方箋を受け、薬を調剤することが多いようです。
医療機関で医師の診察を受け処方箋を発行、薬局で薬剤師が薬を調剤するという、このような状態を医薬分業といいます。医薬分業の始まりはヨーロッパで、神聖ローマ帝国のフリードリヒⅡ世が毒殺を怖れ、主治医の処方薬を別の者に確認させたのが始まりと言われています。それぞれの専門家が薬の処方と調剤を分担するので、医薬品のリスクが小さくなり患者の安全を守れるが特徴です。
日本の医薬分業は、厚生省がモデル国立病院に対して院外処方箋受取率70%以上の完全分業を指示した1997年以降、急激に進みました。2024年現在、処方箋受取率は80%を突破し、処方箋発行枚数は7億枚を超えています。院外処方箋の枚数は年々増えており、この傾向は続くことが予測されます。
参照元:厚生労働省|薬局・薬剤師のあり方、医薬分業のあり方(その2)
参照元:日本薬剤師会|医薬分業とは
参照元:日本薬剤師会|処方箋受取率の推計
門前薬局の持つ役割
病院やクリニックなどの医療機関から処方箋を受け付け、調剤するだけが門前薬局の役割だと思われがちですが、門前薬局には以下のような役割があります。
● 医薬品の調剤や販売
● 処方医や医療機関と連携
● かかりつけ薬局
● 健康サポート薬局
門前薬局では処方箋による調剤や医薬品の正しい使い方の指導をし、複数医療機関から処方されている場合は飲み合わせのチェックなどもしています。必要に応じて医師へ連絡し、問い合わせや提案をするので、患者は安心して医薬品を使え、医師の手間を減らすことも可能です。薬を渡した後も患者の状態によっては、処方医に報告したり、残薬確認をしたりします。
かかりつけ薬局では24時間対応の他、在宅対応もして、患者の地域での生活を守ります。これにより患者は薬局の営業時間外にも薬の相談ができ、必要に応じて在宅医療もサポートしてもらうことが可能です。
一般用医薬品を販売するときには、症状に合った医薬品を探したり、度合いによっては医療機関などへの受診を勧めたり、サプリメントの選び方を教えたりなど、セルフメディケーションをサポートします。セルフメディケーションとは自分の健康に責任を持ち、軽い体の不調は自分で治すことです。さらに、禁煙サポートやアンチ・ドーピングなど専門知識が必要な相談にも対応できる薬剤師がいる門前薬局もあります。
参照元:日本薬剤師会/かかりつけ薬剤師・薬局とは?
参照元:日本薬剤師会/健康サポート薬局とは?
門前薬局で働くメリット
医薬品の調剤や販売だけではなく、地域住民の健康を支えるという、病院とは違った役割を持つ門前薬局ですが、門前薬局で働くことにはどんなメリットがあるのでしょうか。ここでは、門前薬局で働くメリットを2つ、紹介します。
地域に根付いた業務ができる
健康に支障が出た場合に最初に訪れるのは、地域のクリニックや医療機関であり、門前薬局です。そのため来局者はその地域に住んでいることがほとんどで、地域の健康管理をサポートする立場で貢献できます。
調剤や服薬指導、薬歴管理などを薬剤師は担当します。門前薬局は少人数で成り立っていることが多いため、薬剤師一人あたりの担当患者数も多くなる傾向があります。多くの患者に密度濃く直接関わるので、感謝されることも多く、大きなやりがいに繋がるでしょう。
地域に密着して働くことで、患者の生活背景や習慣をよく理解できるようになり、そのことでより適切な薬学的管理が可能になります。また、地域の健康課題にも直接触れられるので、予防医療や健康増進活動にも積極的に関われることも魅力です。
アットホームな雰囲気の中で働ける
人数が少ない職場では一緒に働く機会が増えるので、自然とスタッフ同士のコミュニケーションも増えます。また、地域の患者が多く通う門前薬局では、同じ患者と顔を合わせる機会も増え、距離も近くなります。
「今日は病院の内科だった。明日は眼科クリニックへ行く」など、受診予定を知らせてくれたり、年の離れた薬剤師に自分の子どもや孫に接するように接してくれたりする患者に出会うこともあるでしょう。このような患者とのやりとりは、信頼関係があるからこそ発生するものなので、働く薬剤師にはやりがいにつながります。
門前薬局では一緒に働くスタッフや顔なじみの患者との自然な会話が生まれやすく、アットホームな雰囲気の中で働ける場合が多いようです。
門前薬局で働くデメリット
少人数でかつ狭いスペース、場合によって限られた診療科目の処方箋に対応している門前薬局で働くときには、どんなデメリットがあるのでしょうか。ここでは門前薬局で働くデメリットについて、2つ紹介します。
知識が偏りがちになる
応需する処方箋の内容は、近くの医療機関の大きさや専門診療科の影響を大きく受けてしまうのが門前薬局です。職場によっては処方箋の科目が限られてしまい、眼科クリニックの門前薬局では、目の疾患に対する内服薬や点眼薬のみ、皮膚科の門前薬局では皮膚科の内服薬や軟膏、クリームなどがほとんどということも起こり得ます。大学病院や医療センターなどの総合病院の門前薬局ではそのようなことも少ないでしょうが、門前病院の処方に知識が偏りがちになってしまう可能性があります。
将来のキャリア形成において不利になってしまう可能性があるので、自己研鑽などで偏りを正す必要もあるでしょう。この知識の偏りは、転職時や異動の際に新しい薬局になかなかなじめない、仕事を覚えるのに時間がかかる原因となる可能性があるので、幅広い知識の維持が重要です。
人間関係が閉鎖的になりやすい
門前薬局は独立した事業所であり、一緒に働くスタッフの職種は限られています。薬剤師や医療事務だけで構成されることが多く、職場によっては調剤補助者がいる場合もあります。病院薬剤師が医師や看護師、検査技師、介護職員など多職種と一緒に働くのに比べ、関わる職種も人数も少なくなります。
収容必要人数が多くないので、門前薬局のスペースはあまり広くないことが一般的です。狭い空間に少人数で長時間過ごすので、人間関係が閉鎖的になる傾向にあります。このような第三者のチェック機能が働きにくい職場ではパワーハラスメントやモラルハラスメントなどが生まれやすく、一度発生してしまうと働きにくさや離職率の高さに繋がってしまうでしょう。
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👉希望に合う求人を紹介してもらう門前薬局の今後の在り方とは?
門前薬局は、クリニックなどの医療機関の近くで主に処方箋調剤をする薬局として発展してきました。そのような状況の中、厚生労働省は、2015年に策定した「患者のための薬局ビジョン」の中で、患者本位の医薬分業を実現するために、門前薬局を含む調剤薬局の今後のあるべき姿を明らかしました。薬局ビジョンの中で調剤薬局の役割は大きく変化しつつあります。
ここでは、「かかりつけ薬剤師・薬局」の推進や「健康サポート薬局」の展開を中心に、これからの門前薬局に求められる機能と、その実現に向けた課題について解説します。
「かかりつけ薬剤師・薬局」の推進
患者本位の医薬分業を実現するために、「かかりつけ薬剤師・薬局」を普及する必要があり、門前薬局は単なる調剤機能だけでなく、以下の役割を担う必要があります。
● 服薬情報の一元的で継続的把握
● 24時間対応・在宅対応
● 医療機関などとの連携
● 夜間・休日などの対応
● 国民の健康維持や増進
門前薬局は患者の薬物療法の安全性・有効性の向上に貢献し、地域包括ケアシステムの一翼を担うことが期待されています。
「健康サポート薬局」の展開
「健康サポート薬局」は、地域住民による主体的な健康の維持や増進を積極的に支援する薬局として位置づけられています。門前薬局は、この認定取得を目指し、以下のような機能を強化する必要があります。
● 医薬品などの安全かつ適正な使用に関するアドバイス
● 健康の保持増進に関する相談
● 医療機関の紹介など地域の保健医療サービスに関する情報提供
これらの機能を通じて、地域住民の健康リテラシーの向上や、セルフメディケーションの推進に寄与することが期待されています。
これからの門前薬局に求められる機能
そのほかにもこれからの門前薬局には以下のような機能も求められています。
● ICTの活用と業務効率化
● 高度薬学管理機能の強化
● 地域包括ケアシステムへの参画
門前薬局でもICTの活用による医療の質の向上と効率化は必須です。例としては、電子版お薬手帳の活用促進、医療機関などとの情報連携の強化、遠隔服薬指導の実施があげられます。これらのICTを活用すると、患者の利便性向上と薬局業務の効率化を図ることが可能です。
今後の門前薬局は、より高度な薬学的管理機能を備えている必要があります。具体的には、専門医療機関との連携、抗がん剤などの高度な薬学管理、医療機器などの取扱い、薬物療法の適切性の確保があげられます。これらの機能を強化すると、複雑な薬物療法が必要な患者にも適切に対応でき、医療の質の向上に貢献することが可能です。
超高齢社会において、門前薬局には地域包括ケアシステムの一員としての役割が期待されています。具体的には、在宅医療への積極的な参加、多職種連携の推進、地域の健康拠点としての機能、医療用麻薬の提供体制の構築などです。これらの役割を果たすことで、患者が住み慣れた地域で自分らしい暮らしを続けられるよう支援することが求められています。
門前薬局の機能強化に伴い、経営面での課題も生じています。主な課題と対策として、調剤報酬改定への対応(かかりつけ機能の評価など)、OTCや健康食品などを扱う多角的な収益構造の構築、効率的な人員配置と業務分担、継続的な薬剤師教育と専門性の向上があります。これらの課題に適切に対応し、持続可能な薬局経営を実現することが重要です。
門前薬局は、単なる調剤機能だけを発揮する薬局ではなく、「かかりつけ薬剤師・薬局」「健康サポート薬局」として進化することが期待されています。薬局は患者本位の医薬分業を実現し、地域包括ケアシステムの中で必要不可欠な存在となるために、継続的な機能強化と質の向上が必要です。
参照元:厚生労働省|患者のための薬局ビジョン 概要
参照元:厚生労働省|テーマ③に関する現状と課題について(薬局・薬剤師のあり方、医薬品の安全な入手)
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👉希望に合う求人を紹介してもらうまとめ
門前薬局の持つ役割、門前薬局で働くメリットやデメリットなどについて、解説してきました。
門前薬局は病院やクリニックなどの近くにある薬局のことです。医療機関からの処方箋を受け付け、調剤するだけが門前薬局の役割だと思われがちですが、門前薬局には、処方医や医療機関と連携して地域医療を支え、かかりつけ薬局や地域住民の健康サポート薬局としての役割もあります。
門前薬局で働く場合にはメリットとデメリットをよく知ってからにしましょう。