薬剤師は、処方箋の記載事項に不備がある場合や、処方箋の内容に疑わしい点や不明な点がみられた際に、処方箋を発行した医師に対して疑義照会をすることが義務づけられています。
疑義照会は、薬剤師の重要な業務のひとつです。薬学的な知識だけでなく、医師や患者と良好な関係を築くコミュニケーションスキルも必要となるため、苦手意識を持っている薬剤師も多いでしょう。
また、疑義照会をしたあとはその内容を処方箋と薬歴に記録しなくてはなりません。記録する項目や書き方をきちんと理解しておく必要があります。
この記事では、疑義照会の記録の書き方と疑義照会をスムーズに進めるためのポイントを解説します。
疑義照会とは
疑義照会は、処方箋の記載事項に不備がある場合や、その内容について薬学的観点から疑わしい点がみられた際に、処方医に問い合わせて確認をする業務です。
その内容により、形式的疑義照会と薬学的疑義照会のふたつに分けられます。
形式的疑義照会
形式的疑義照会とは、処方箋の記載事項に不備がある場合に行う疑義照会です。
具体的な不備の内容は、以下があげられます。
・処方日数に制限のある医薬品が制限を超えて処方されている
・販売中止になっている医薬品が処方されている
・用量や規格の記載がない
・処方医の押印がない
薬学的疑義照会
薬学的疑義照会は、処方箋の内容に対して、疑わしい点や不明な点があった場合に行う疑義照会です。
疑義がないかどうかは、併用薬や既往歴などの服薬指導をする中で得られた情報や過去の薬歴の内容なども踏まえて総合的に判断します。
薬学的疑義照会は、処方医からすぐに回答が得られないこともあるため、患者に時間がかかる可能性があることもあらかじめ伝えておくと良いでしょう。
疑義照会記録の書き方【形式編】
疑義照会をしたあとは必ず処方箋と薬歴に記録を書かなければなりません。処方箋と薬歴、それぞれの書き方を理解しておきましょう。
処方箋への書き方
まず、処方箋への書き方を解説します。
記載項目
疑義照会の記録を書く際に、処方箋に記載しなければならない項目は以下の3つです。
・疑義照会をした年月日と時刻
・疑義照会をした医師名と薬剤師の押印
・疑義照会発生の理由と内容、その回答
記載方法
処方箋の備考欄または処方欄に照会した内容を手書きで記載します。
処方薬の変更(追加、削除)があった場合は、処方箋の備考欄と薬歴簿にその内容を記録します。
(一例)
・2023年6月3日15時00分 〇〇副作用により△△から▲▲へ変更、◇◇先生確認、薬剤師□□
薬歴簿への書き方
次に、薬歴簿への書き方を解説します。
記載項目
記載項目は、処方箋と同じ以下の3項目です。
・疑義照会をした年月日と時刻
・疑義照会をした医師名と薬剤師の押印
・疑義照会発生の理由と内容、その回答
記載方法
処方箋に記載したものと同様の内容を薬歴簿に記載します。
以前は調剤録にも記載する必要がありましたが、薬歴の義務化にともない、薬歴に記載されていれば調剤録には記載しなくても良くなりました。
電子薬歴であれば、疑義照会の内容を記入する欄がある場合もあります。SOAP形式で記入している場合には服薬指導欄を利用し、処方変更後の患者の状態を確認しましょう。
【形式的/薬学的】疑義照会記録の書き方
ここからは、形式的疑義照会と薬学的疑義照会に分けて、疑義照会の記録内容について解説します。
形式的疑義照会の場合
形式的疑義照会の場合、疑義照会を行った理由と照会結果をすべて記載します。
処方箋の記載漏れは、処方欄に直接書き足すのではなく、備考欄に処方内容を記載しましょう。
そのほか販売中止や名称変更による薬剤の変更、投薬制限超過や処方制限による投与日数・分量の変更なども記載します。
薬学的疑義照会の場合
薬学的疑義照会の場合は、処方箋の内容について、薬学的観点から疑わしいと判断した経緯や患者情報、疑義照会の回答をすべて記載します。
疑義照会に至るまでの経緯(処方内容、患者から聴取した内容、薬歴、お薬手帳など)と疑義が生じた理由(用法・用量、禁忌、慎重投与、副作用、アレルギーの有無、残薬など)をわかりやすく記載します。
可能であれば、疾患名や検査値などの情報にも触れると良いでしょう。
疑義照会を進める際の4つのポイント
疑義照会をスムーズに進めるために押さえておきたいポイントが4つあります。
1.疑義照会前に薬剤師同士で相談する
2.情報を整理してから医師に照会する
3.医師と良好な関係を築いておく
4.患者への伝え方に配慮する
ひとつずつ詳しく解説します。
疑義照会前に、薬剤師同士で相談する
「疑義照会をすべき内容」と「しなくても良い内容」の選別ができないときは、他の薬剤師に相談してみましょう。
疑義照会は、薬剤師法24条で義務づけられる薬剤師の重要な責務のひとつです。しかし、薬学的疑義を発見するには薬剤師としての経験や知識が求められます。
新人薬剤師では、医師に報告すべきかの判断が難しいケースも多いのではないでしょうか。
これまでの処方歴から処方意図が推測できる場合や、ベテラン薬剤師の経験や知識から判断できる場合もあります。
不必要な疑義照会をしないためにも、安易な自己判断は禁物です。迷ったときは先輩薬剤師へ相談しましょう。
情報を整理してから医師に照会する
疑義照会の内容を整理して、医師へ要点を簡潔に伝えることが大切です。
忙しい外来診療の合間に疑義照会に対応している医師も多く、要点がきちんとまとまっていないと時間がかかって迷惑をかけてしまうこともあります。
医師と薬剤師は協力関係にあるため、お互いの負担にならないよう、確認は短時間で簡潔に済ませるよう心がけましょう。
処方変更の必要がある場合には、スムーズに代替薬や分量などを提案できるよう事前に準備しておくことも大切です。
医師と良好な関係を築いておく
疑義照会をスムーズに進めるためには、普段から医師と良好な関係を築き、信頼してもらうことが重要です。
疑義照会は、安全で適切な薬物治療を行うための重要な業務ですが、医師の処方の不備や間違いを指摘する必要があります。適切な関係性を築けていないと、不必要な誤解を招いてしまうかもしれません。
医師の心証を悪くしないために、伝え方に注意しましょう。「内容について確認させていただきたいことがある」「患者情報を踏まえて相談させていただきたいことがある」というように、あくまで確認・相談というスタンスで伝えることが大切です。
また、合同勉強会を行うなど、コミュニケーションの機会をつくることもおすすめです。医師の考え方や治療方針を定期的に確認することで、処方の意図を推測しやすくなります。疑義照会すべき内容かどうかも、正確に判断できるようになるかもしれません。
患者への伝え方に配慮する
疑義照会の際、患者を待たせてしまうことも多いです。疑義照会の必要性について丁寧に説明し、時間をいただくことについて了承を得ましょう。
その際、患者と医師の信頼関係を損なわないように、「医師の処方が間違っている」という表現は避けることが大切です。
「より安全に薬物治療を進めるために確認しておきたいことがある」「飲み合わせが心配な薬が出ているため念のため確認したい」のように、あくまでも患者の健康被害を防ぐためのものであることを伝えましょう。
まとめ
本記事では、疑義照会の記録の書き方と疑義照会をスムーズに進めるためのポイントを解説しました。
疑義照会は薬剤師の義務であり、適切かつ安全な薬物治療のために欠かせない業務です。薬剤師の視点から医師の処方の疑わしい点に気づき、疑義照会をすることは医薬分業の本質ともいえます。
疑義照会の流れや記録の書き方、スムーズに進めるためのポイントをきちんと理解し、薬剤師としての経験を積んでいきましょう。