薬剤師のキャリアアップにつながる認定薬剤師の資格には、数多くの種類があるため、どの分野を選んだら良いか迷う人も少なくありません。
そこで本記事では、主な認定薬剤師の資格と、スキルアップを目指す人におすすめの認定薬剤師の資格6つをご紹介します。
認定薬剤師の資格は「もってないと不利になる」時代に
認定薬剤師は、必要な知識の習得に対して自己研鑽に努めている薬剤師を認定する資格です。薬剤師としての専門性を客観的に証明できるため、転職の際に優遇されたり、資格手当の支給を受けたりできるメリットがあります。
認定薬剤師は、キャリアアップにつながる資格を取得するための要件にもなっています。ある分野においては、認定薬剤師の上位資格として専門薬剤師が設けられている場合があります。その場合、同分野の認定薬剤師の資格取得が必要です。
また、厚生労働省の『「薬局開設者及び医薬品の販売業者の法令遵守に関するガイドライン」について』では、店舗や拠点の管理・監督を担う管理薬剤師は認定薬剤師であることが推奨されています。
近年、注目度が増しているかかりつけ薬剤師も、そのひとつです。認定薬剤師が、かかりつけ薬剤師の要件となっています。
急速な高齢化への対応として地域包括ケアシステムの構築が進むなか、地域における薬の相談役であるかかりつけ薬剤師の必要性は年々高まっています。そのため、資格要件である認定薬剤師の需要も高まる見込みです。
こうした薬剤師を取り巻く環境を踏まえると、認定薬剤師の資格を保有していない薬剤師は不利になる可能性があることが考えられます。
薬剤師の将来性や薬剤師業界の動向については、以下の記事で詳しく解説しています。
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認定薬剤師・専門薬剤師とは?
認定薬剤師とは、「認定薬剤師制度」における研修を受講して決められた単位を取得し、最新の知識や技術を持っていると認められた薬剤師のことです。認定薬剤師資格は、自己研鑽に励んでいて、時代のニーズに合った薬学ケアができる薬剤師である証明にもなる資格です。
認定薬剤師資格のほとんどは特定の診療科や疾病に限定されない「生涯研修認定制度」によるものですが、各分野において専門的な研修を受けたことを証明する「特定領域認定制度」による認定薬剤師も存在します。
専門薬剤師とは、「特定の専門分野の薬物療法などについて十分な知識と技術を持っている薬剤師」として、日本病院薬剤師会などの団体から認定を受けた薬剤師のことです。医師や看護師と連携し、医療チームの一員として患者をサポートします。専門薬剤師になるためには、まず各団体から認定を受けた「認定薬剤師」にならなくてはいけません。
その上で専門分野において実務経験を積み、団体の定める講習会などを受講して単位を取得したり、学会発表や論文執筆など学術方面での実績を重ねたりする必要があります。要件を満たした後、認定試験を受けて合格すると専門薬剤師になれます。
認定薬剤師がジェネラリストであるのに対し、専門薬剤師はスペシャリストで一段上の資格と言ってもいいでしょう。
認定薬剤師のメリット
認定薬剤師になるには勉強しなければならず、時間も努力も必要です。しかし、認定薬剤師になると、以下のようなメリットがあります。
● 他の薬剤師との差別化につながる
● 収入アップの可能性がある
● 転職する際に役立つ
認定薬剤師は最新の専門知識と技術を持っているので、的確な助言やサポートで周囲へ貢献することが可能です。医師や看護師、患者などからの信頼が厚くなり、他の薬剤師との差別化につながる可能性があります。薬剤師としての評価が上がり、一薬剤師としてではなく、個人として声を掛けられることが多くなるでしょう。そのことは自分の仕事への意欲を上げるのにとても役立ちます。
職場によっては認定薬剤師資格を持っていることが評価されることもあるので、資格手当がついたり昇給したりして、年収がアップするかもしれません。
転職する場合も資格を評価してくれる職場を探せば、よい待遇で就職することもでき、転職活動では大きなアピールポイントになります。
【一覧】認定薬剤師の種類
認定薬剤師には、分野別に多くの種類があります。薬剤師として成長し続けるためにも、自身の関心やキャリアプランに合った分野の資格を目指しましょう。以下は、主な認定薬剤師の一覧です。
分野 | 資格名 | 機関 |
悪性腫瘍 | がん薬物療法認定薬剤師 | 日本病院薬剤師会 |
外来がん治療認定薬剤師 | 日本臨床腫瘍薬学会 | |
緩和薬物療法認定薬剤師 | 日本緩和医療薬学会 | |
核医学 | 核医学認定薬剤師 | 日本核医学会 |
感染症 | 感染制御認定薬剤師 | 日本病院薬剤師会 |
HIV感染症薬物療法認定薬剤師 | 日本病院薬剤師会 | |
抗菌化学療法認定薬剤師 | 日本化学療法学会 | |
外来抗感染症認定薬剤師 | 日本化学療法学会 | |
腎疾患 | 腎臓病薬物療法認定薬剤師 | 日本腎臓病薬物療法学会 |
内分泌 | 糖尿病薬物療法認定薬剤師 | 日本くすりと糖尿病学会 |
高齢者 | 老年薬学認定薬剤師 | 日本老年薬学会 |
認知症 | 認知症研修認定薬剤師 | 日本薬局学会 |
皮膚科 | 日本褥瘡学会認定師 | 日本褥瘡学会 |
精神科 | 精神科薬物療法認定薬剤師 | 日本病院薬剤師会 |
産科・婦人科 | 妊婦・授乳婦薬物療法認定薬剤師 | 日本病院薬剤師会 |
小児科 | 小児薬物療法認定薬剤師 | 日本薬剤師研修センター |
救急・中毒医療 | 救急認定薬剤師 | 日本臨床救急医学会 |
プライマリ・ケア 在宅医療 | プライマリ・ケア認定薬剤師 | 日本プライマリ・ケア |
臨床薬理 臨床試験 | 在宅療養支援認定薬剤師 | 日本在宅薬学会 |
日本臨床薬理学会認定薬剤師 | 日本臨床薬理学会 | |
実務実習 | 日病薬認定指導薬剤師 | 日本病院薬剤師会 |
多領域 | 研修認定薬剤師 | 日本薬剤師研修センター |
医療薬学専門薬剤師 | 日本医療薬学会 | |
日病薬病院薬学認定薬剤師 | 日本病院薬剤師会 | |
その他 | 漢方薬・生薬認定薬剤師 | 日本薬剤師研修センター |
公認スポーツファーマシスト | 日本アンチ・ドーピング機構 |
(2023年6月時点)
スキルアップにおすすめの認定薬剤師資格6選
ここではがん領域や感染症など、医療現場でのニーズが高い分野を中心に、おすすめの認定薬剤師資格について解説します。
研修認定薬剤師
研修認定薬剤師は、薬剤師の資質の維持・向上に努め、最新の薬学・医療知識があることを認定する資格です。e-ラーニング研修や集合研修、論文発表などを通じて、基礎薬学・医療薬学、衛生薬学、薬事関連法規といった幅広い分野を学びます。
かかりつけ薬剤師の要件になっているほか、薬剤師としての信頼性を高められることから、今や薬剤師の3人に1人が取得しています。
資格申請には、研修を受講し「認定申請日から4年以内に40単位以上」を取得することが必要です。更新に関しては、「3年間で30単位以上かつ毎年5単位以上」の取得が課されます。
がん薬物療法認定薬剤師
がん領域の薬物療法において必要な知識・技能を兼ね備えていることを認定する資格です。
がんは、1981年から日本人の死因トップを占める疾患です。今後は病院のみならず、在宅医療でも専門的な薬学管理のニーズは高まっていくでしょう。がん薬物療法認定薬剤師には、がん治療における他職種連携で必要な助言や提案を行うことが求められます。
出典:「令和3年(2021)人口動態統計(確定数)の概況」(厚生労働省)
申請するには、以下のような要件を満たすことが必要です。
● 薬剤師として3年以上の実務経験
● 申請時に病院または診療所で、がん薬物療法に3年以上かつ引き続いて1年以上従事
● がん患者への薬剤管理指導実績が50症例(複数の癌種)以上
● 各種講習会をはじめとする所定の単位(40時間、20単位)以上履修(ただし、日本病院薬剤師会主催のがん専門薬剤師に関する講習会を12時間、6単位以上取得すること)
緩和薬物療法認定薬剤師
主にがん治療の緩和ケア領域で専門的な知識・技術を持った薬剤師を認定します。ホスピスや緩和ケア病棟などにおける緩和ケアチームの一員として、薬物療法の提案や情報提供、服薬指導などを行い、身体的・心理的にサポートします。
緩和薬物療法認定薬剤師になるには、
● 薬剤師としての5年以上の実務経験
● 緩和医療領域における薬剤管理指導(服薬指導)の実績を「病院等に勤務する薬剤師は30症例」、「保険薬局に勤務する薬剤師は15症例」提示(過去6年以内のものに限る)
などの条件を満たす必要があります。
感染制御認定薬剤師
感染症治療・予防領域で、適切・安全な薬物療法が行える薬剤師であることを認定します。医療現場では、感染対策チームにおいて他職種と連携し、情報提供や感染対策の提案、感染対策マニュアルの作成などを行います。
感染制御認定薬剤師には、感染制御に欠かせない消毒薬や微生物、耐性菌の基礎知識に加え、薬学的管理ができることが求められます。申請するには、以下をはじめいくつかの条件を満たすことが必要です。
● 3年以上の実務経験
● 日病薬病院薬学認定薬剤師の取得(ただし、日本医療薬学会の専門薬剤師制度により認定された専門薬剤師であればこれを満たす)
● 各種講習会をはじめとする所定の単位(20時間、10単位)以上履修(ただし、日本病院薬剤師会主催の感染制御に関する講習会を1回以上受講していること)
漢方薬・生薬認定薬剤師
漢方薬・生薬について、一定レベル以上の専門性と適性を備えた薬剤師であることを認定する制度です。講義研修と実習を通じて、服薬指導をはじめとする薬学的管理のほか、患者や医師への情報提供が適切に行えるようになります。
近年では、セルフメディケーションへの関心とともに、漢方薬への注目も高まっています。漢方薬の専門的知識を身に付けることで、薬剤師としての付加価値を高められるでしょう。
漢方薬・生薬認定薬剤師の資格は、「漢方薬・生薬研修会」を受講後、薬用植物園実習レポートを提出して試問に合格すると取得できます。
資格の有効期間は3年です。更新には、有効期間内に漢方薬・生薬に関する研修を受講し、30単位以上を取得することが求められます。この際、毎年5単位以上取得することや、必須研修15単位以上を含むことを満たす必要があります。
プライマリ・ケア認定薬剤師
総合的な観点から患者に必要な対策を講じる力や多職種連携のスキルといった「プライマリ・ケア能力」を持つ薬剤師を認定します。この薬剤師の役割は、患者に寄り添いながらかかりつけ医師・看護師などと連携し、健康をサポートすることです。
認定には、日本プライマリ・ケア連合学会に研修開始届書を郵送して、4年以内に指定の研修会・講座で50単位を取得することが必要です。単位の取得については、以下の指定があります。
● 学会関連の講座で30単位以上
● 細則にある必須領域で20単位
● 見学実習が8単位
必要な単位を取った後、試験・審査を経て資格を取得できます。
まとめ
認定薬剤師は、薬剤師のキャリアアップを考える際に欠かせない資格です。かかりつけ薬剤師の要件でもあることから、今後は認定薬剤師の需要も高まると予想されます。
認定薬剤師は専門分野ごとに多くの種類があるため、関心やキャリアプランに合った資格を選択することが大切です。要件は各資格で異なります。事前に要件を確認したうえで資格取得に臨みましょう。