「救急認定薬剤師って何をするの?」「救急認定薬剤師になるにはどうすればいいの?」と悩んでいる薬剤師の方もいるかもしれません。
救急救命業務は医師や看護師などの業務というイメージが強いですが、救急治療ではハイリスク薬が使われることも多く、薬剤師の積極的な参加が期待されている業務です。救急認定薬剤師は、そのようなニーズに応えられる資格として、平成23年度から実施、認定されています。
初期治療の段階で常用薬やアレルギーの確認、中毒患者に関しては原因薬剤の検索や情報提供などをして、薬剤師の専門性を発揮しています。救急認定薬剤師が目指すのは最適なチーム医療です。
この記事では、救急認定薬剤師の仕事内容、救急認定薬剤師になる方法について、ドラッグストア勤務経験のある元病院薬剤師が解説します。この記事を読めば、救急認定薬剤師とは何かが分かります。
救急認定薬剤師とは
救急認定薬剤師とは、平成23年度に日本臨床救急医学会により創設された制度です。救急医療での薬物療法に関するハイレベルな知識、技術、倫理観を備えた認定薬剤師を養成し、最適な医療を提供すること、国民の健康に貢献することを目的としています。
令和4年9月には、救急認定薬剤師が行う救急医療に関する専門的薬剤業務に加えて、救急領域における研究能力および教育能力も兼ね備え、指導的立場の救急専門薬剤師の認定制度も創設され、認定されています。
救急専門薬剤師の認定には、救急認定薬剤師として5年以上の実務経験のほか、過去5年間にかかわった10症例の提出、救急領域の学会発表が2回以上、査読のある国内外の学術雑誌での筆頭論文が1 編以上あることなど厳しい要件が課せられています。
なお、2023年3月31日現在、救急認定薬剤師291名、救急専門薬剤師18名が認定されています。
救急認定薬剤師の仕事内容
ここでは、救急認定薬剤師の仕事内容について解説します。
救急認定薬剤師が求められる場所
救急認定薬剤師が求められるのは、以下のような場所です。
● 救命救急センターや集中治療室(ICU)
● 被災地の避難所もしくは被災病院など
救急の現場では、速やかに状態を把握し、 迅速で的確な判断で業務をする必要があるでしょう。
災害医療でもその職能は期待されています。災害医療では、設備の整った医療現場から離れて災害地に向かうこともあります。実際に東日本大震災では多くの薬剤師が被災地に派遣され、避難所などで医療支援にあたりました。
救急認定薬剤師の活躍の場は病院内から被災地まで広い場面が想定されていて、救急医療の知識と経験を発揮することが期待されています。
救急認定薬剤師の具体的な業務
救急認定薬剤師の具体的な業務内容は、以下のとおりです。
● 救急現場:医薬品の管理、薬剤処方設計、TDM(治療薬物モニタリング)やそれに基づく処方提案、薬剤の監査、持参薬の確認、中毒物質の特定など
● 災害時:災害派遣医療チーム(DMAT)の一員として避難所の巡回診療に同行、被災傷病者の一次トリアージに関与することもある
● その他:救急医療に関する教育
救急・集中治療室や救急救命センターなどの救急現場で行うのは、怪我や感染症、持病の悪化などで対応が必要な患者への薬物治療です。
救急医療の災害時には、医師や看護師など他の医療スタッフとコミュニケーションを取りながら、通常とは違う患者の病態に対して、あらゆる可能性を考慮して薬物治療をすることが求められます。それ以外にも、災害派遣医療チーム(DMAT)の一員として、避難所の巡回診療や被災傷病者の一次トリアージに関わることもあります。
救急認定薬剤師になる方法
ここでは、救急認定薬剤師になる方法や更新条件などを解説します。
認定試験を受けるための条件
日本臨床救急医学会「救急専門・認定薬剤師制度規則」第7条に定められた8つの基準を満たすと、認定試験を受験できます。
「救急専門・認定薬剤師制度規則」第7条の基準は、以下のとおりです。
1. 日本の薬剤師免許を有し、薬剤師として優れた人格を持ち、救急医療における薬物療法に関する見識を備えている
2. 申請時薬剤師として病院・診療所に5年以上勤務し、そのうち2 年以上救急医療に従事している
3. 申請時に、日本臨床救急医学会の正会員歴が 2年以上で会費を完納している
4. 日本病院薬剤師会病院薬学認定薬剤師、日本病院薬剤師会生涯研修履修認定薬師(2022年度申請時まで有効)、日本医療薬学会が認定する専門または指導薬剤師、日本臨床薬理学会が認定する認定あるいは指導薬剤師、日本薬剤師研修センター研修認定薬剤師、日本薬剤師会生涯学習支援システム (JPALS) のJPALS 認定薬剤師(CLレベル 5以上)のいずれかの資格を有している
5. 医療機関で救急医療業務を通じて自分が参加した25 例以上の症例を提出している
6. 認定委員会が指定し理事会の承認を得た学術集会への参加、同学術集会での研究発表などで細則に定める単位数を履修している
7. 認定委員会が開催する講習会を受講している
8. 日本臨床救急医学会評議員または所属施設長の推薦がある
認定を希望する者は、必要書類に手数料 10,000 円を添えて事務局に申請します。認定委員会に受験資格を認められた者は、救急認定薬剤師認定試験を受験できます。
認定試験の概要
2023年の救急認定薬剤師試験は9月に実施されました。試験は年 1 回の実施ですが、不合格になった場合は再度受験ができます。
2023年の第12回救急認定薬剤師認定審査試験は以下のように公示されています。
● 受験対象者:第12回救急認定薬剤師認定審査(書類審査)合格者
● 出題基準 :「薬剤師のための救急・集中治療領域標準テキスト」(認定試験の参考図書)を中心に、救急医療における薬物療法に関して広範囲な領域から出題
● 試験時間:1時間30分
● 出題数:50問
● 合否判定基準:正解率を基準に、救急認定薬剤師認定委員会で決定
認定委員会は、申請書類および認定試験成績を総合的に審査し、申請者の救急認定薬剤師としての適否を判断して理事会に報告、理事会は審議の上、救急認定薬剤師の認定をして、合格者に認定証を交付するという流れです。認定証交付を受ける場合は、認定料として新規 20,000 円を納付する必要があります。
更新手続き
日本臨床救急医学会救急認定薬剤師は、5年に1回更新が必要です。
救急認定薬剤師は、認定から5 年後、以下の要件を満たす場合に、資格の更新申請できます。
1. 認定された後も引き続き日本臨床救急医学会の正会員である
2. 認定後5年間、救急医療に貢献するとともに、認定委員会が指定した80 単位(必修 45 単位以上を含む)を取得している。ただし、日本臨床救急医学会が主催する学術集会に少なくとも 1 回は参加している
3. 認定委員会が開催した講習会に 2 回以上受講している。ただしうち1 回は認定委員会が指定した講習会を受講として認めることができる
4. 認定委員会は、認定を受けてから 5年を経たときに、認定委員会の定める要件を満たした者について、認定更新申請書類の審査を行い、審査の上、資格を更新し、認定証を交付する。認定証交付を受ける場合、更新認定料10,000 円を納付する必要がある
救急認定薬剤師の単位取得確認書類としては、以下のものが挙げられています。
● 学術集会、研究会に参加したことを証明する書類:参加証の写し
● 学術集会での発表や日本臨床救急医学会雑誌などへの投稿を証明する書類:講演要旨の写しや別刷または写し
学術集会、研究会への参加には参加費などが発生します。勤務先によっては負担してくれる場合もあるので、相談してみるのがよい でしょう。
まとめ
この記事では、救急認定薬剤師の仕事内容、救急認定薬剤師になる方法について解説してきました。
救急治療ではハイリスク薬が使われることも多く、薬剤師の積極的な参加が期待されている業務です。
平成23年度から日本臨床救急医学会により実施されている認定制度で、2023年3月現在、救急認定薬剤師と救急専門薬剤師、合わせて300名以上が認定されています。認定試験を受けるためには、実務経験のほかに、基礎力を示すための日本病院薬剤師会などの認定薬剤師取得、学術集会での研究発表など学術的な実績も求められる厳しい要件を満たしている必要があります。また認定取得後も5年に1回の更新が必要です。
しかし薬剤師の専門性を発揮でき、チーム医療で活躍できるので、これから救急医療でがんばってみたい薬剤師の方、またはすでに現場で業務に携わって おり受験資格がある方は資格認定を検討してみるのもよいでしょう。