■国内でも検討スタート
医薬品の動物試験における対照群を背景データの一部を用いたバーチャル対照群(VCG)で代替して毒性試験結果を評価する新たな検討が国内でスタートしている。臨床試験で始まったVCGの概念だが非臨床試験にも波及し、VCGを用いた評価法を導入することで動物の使用を約3割削減できる可能性があるという。欧米では昨年、VCGに関するコンソーシアムが創設され、国内でも日本製薬工業協会内に検討チームが立ち上がった。米国食品医薬品局(FDA)が動物実験を削減する方針を表明する中、非臨床試験を変革する毒性評価手法として製薬業界からの関心も高いようだ。
VCGは過去の動物試験などの背景データからコンピューターモデリングやシミュレーション技術などを駆使して仮想的に対照群を生成する評価手法であり、非臨床毒性試験の同時対照群を置き換える代替評価方法として期待されている。臨床試験では希少疾患など被験者確保が困難な試験や倫理的に対照群が困難な試験において過去の臨床試験や実臨床のデータから構成したヒストリカルコントロール群を用いた試験が検討されている。2020年から非臨床分野への適用の議論が始まった。
非臨床試験にVCGが波及した背景には、動物試験の代替や使用数削減、苦痛軽減の3Rsに対する認識の高まりと実験用サルの供給問題がある。VCGは「動物数の削減や非ヒト霊長類の供給不足に対する解決」「試験データのばらつきの軽減や対照群の増加による検出力の向上」「動物購入費や対照群の検査費用の削減」を実現する可能性がある。
欧米では昨年にVCGに関するコンソーシアム「VICT3R」が創設され、この1~2年でVCGに関する論文が多く発表されるようになった。AIなど先端的な技術を組み合わせて新たな安全性試験を考えていく「NAMs」、生体模倣システム「MPS」と同様に導入に向けた検討が加速している。
国内でも製薬協が検討チームを立ち上げ、VCGの国内における普及啓発や今後の実装に向けた製薬企業などへのアンケート調査を実施している。
アンケート調査から見ると国内製薬企業のVCGに対する理解は高く、回答者の54%が「基本的な概念は理解」を選択し、「専門的な内容を含めてよく知っている」「ある程度詳しく知っている」を選択した回答者を含めると約8割に達した。一方、VCG導入については半数以上の企業が情報収集を始めたばかりで導入決定企業はなかった。
VCG実装に向けた課題は規制当局の受け入れやVCG試験のみ行われた場合に背景データが枯渇する可能性など山積している。現実的にはGLP試験において行政受け入れのハードルは高く、非GLP試験からVCGが活用されていくとの公算が大きい。製薬協調査では非GLP試験で導入したい試験を聞いたところ、薬理試験が最も多く、生殖発生毒性試験、遺伝毒性試験、安全性薬理試験の順となった。
また、施設間でVCGを利用するためには、各施設の試験条件を統一してどの施設で試験を実施しても同じような結果が得られるようにすることが重要とされており、複数施設由来の臨床検査データを用いたVCGの施設間差抑制も課題となりそうだ。
2025.7.9