【製薬3団体調査】日本人第I相省略は11品目‐癌領域で安全確保策適用

「海外開発先行品の国際共同治験前の日本人第I相試験は原則不要」とする厚生労働省通知により、通知発出後に第I相試験なしに国際共同治験に参加することに合意した事例が計11品目に上ることが、日本製薬工業協会など製薬3団体が実施した調査で明らかになった。「通知が開発方針に与える影響を感じない」との声や、民族差の検討など通知の本質的な議論が省略されているなどの課題も指摘された。

調査結果は4日、医薬品医療機器総合機構(PMDA)がウェブ上で実施したシンポジウムで公表されたもの。ドラッグラグ・ロス解消に向けた施策の一つとして厚労省は2023年12月、海外で開発が先行する品目に関する国際共同治験前の日本人第I相試験を原則不要とする通知を発出。これを受け、製薬協など製薬3団体が会員企業64社を対象に、昨年1~9月に通知の影響と課題に関するアンケート調査を実施した。
日本人第I相試験を実施せずに国際共同治験に参加することについてPMDAの対面助言・事前面談を実施したのは計11社(全体の17.2%)、延べ17品目となった。このうち、日本が国際共同治験に直接入ることで合意に至ったのは、オンコロジー領域5品目、非オンコロジー領域5品目、ワクチンなど健康成人対象3品目の計13品目で、「国際共同治験と並行して日本人第I相試験を実施することで合意した」のが2品目、「日本人第I相試験を実施せずに国際共同治験に参加することで合意した」のが11品目となった。
国際共同治験参加への合意に至ったオンコロジー領域の5品目ではいずれも「企業側から日本人治験参加者の安全確保策を提案して合意した」「PMDAから日本人治験参加者の安全確保策を求められた」と回答。日本人治験参加者の安全性が臨床的に許容・管理可能と主張した根拠として、「海外臨床試験のデータ(管理可能な安全性プロファイルが示されている)」「安全確保策(癌治療の専門機関での実施、データモニタリングでの安全性確保策)」などが挙げられた。
非オンコロジー領域では、「非臨床試験や海外臨床試験等のデータで安全性に大きな懸念がない」「十分な安全確保策が国際共同治験に設けられている」などとした。
通知が開発方針に与えた影響として「日本を含めた国際共同治験の検討が増えた」が19件、「ベンチャーからの導入検討が増えた」が9件となった反面、「影響を感じない・分からない」も27件に上った。
イーピーエス代表取締役の高井紀幸氏は、CROの視点から海外で実施されたアジア人・日本人を含む第I相試験データをもとに、国内で第I相試験を省略した開発計画を検討中の事例が増加傾向にあると説明した。
ただ、通知発出前後で日本人症例数設計等に関する考え方に大きな変化はなく、従来と同様の計画を基本としているとの声も聞こえると紹介。民族差の検討など通知の本質的な議論を省略し、日本人第I相試験の要・不要に関する議論だけが行われているといった課題もあると指摘した。
PMDA国際共同治験作業部会の小林洋輔氏は、「発出当初は原則不要の部分が一人歩きして誤解が多かったが、解消されつつある。日本での開発を敬遠、あるいは無関心だった海外の新興バイオ医薬品企業(EBP)が開発を検討するきっかけになれば」と述べた。

2025.08.06