ヤンセンファーマと丸石製薬は14日、全身麻酔用鎮痛剤レミフェンタニルを無痛分娩の鎮痛目的に使用しないよう文書で注意を呼びかけた。一部の産科クリニックなどのホームページ上で、同剤を用いた無痛分娩が紹介されているためで、両社は無痛分娩への使用は適応外であり、呼吸停止などの重大事故につながる危険性があると指摘している。
ヤンセンは「アルチバ静注用」、丸石は「レミフェンタニル静注用『第一三共』」(販売は第一三共)を取り扱っている。
文書によると、一部医療機関のホームページには、レミフェンタニルを用いた無痛分娩は、従来の硬膜外麻酔による無痛分娩よりも簡便かつ安全であるとも受け取れる記載が見受けられる。しかし、無痛分娩は妊婦の自発呼吸下で行われるもので、人工呼吸下の全身麻酔で麻酔医の慎重な管理により使用するレミフェンタニルを用いることは高いリスクがある。
昨年10月1日に日本麻酔科学会は、「自発呼吸下の妊婦に対して分娩時の鎮痛目的でレミフェンタニルを投与することは不適切である」との注意文書を発表している。
同文書では、子宮収縮痛(内臓痛)には効果があっても、胎児が産道を通過する際の痛みである体性痛への効果は「ほぼ期待できない」と指摘。時間経過と共に痛みの強度が増す分娩時に効果が低いとして、レミフェンタニルの投与量を増やせば「用量依存性に発生する呼吸抑制、特に母体の低酸素血症などの深刻な副作用のリスクが高まる」ことも挙げている。
その上で「このようなレミフェンタニルの薬理学的作用と分娩時痛の特徴から見て、自発呼吸下の妊婦に呼吸抑制がほぼ発生しないレミフェンタニルの安全な投与法を提供することは不可能」と断じている。
さらに、自発呼吸患者においてレミフェンタニルによる呼吸抑制・呼吸停止が発生した場合にも触れ「麻薬系鎮痛薬の特徴である鉛管現象と呼ばれる強い筋硬直や声門閉鎖を伴うことがある。鉛管現象が発生すると、胸壁の筋肉が硬直するため、バッグバルブマスクや用手マスク換気による人工呼吸は不可能となる。さらに筋硬直によって開口が制限されるため、経口気管挿管も困難となり、筋弛緩薬を用いた気管挿管でしか対処できない事態に陥る」と解説している。
「無痛分娩中の呼吸抑制や呼吸停止、さらには心肺停止に陥る危険性は決して小さいものではない」という。
2025.7.16