治験薬の院外処方解禁へ‐薬局・薬剤師を有効活用/厚生労働省

厚生労働省は、薬局・薬剤師数の増加や薬局の都市部集中が指摘される中、薬局や薬剤師の有効活用に向けた方策の一つとしてGCP省令を改正し、治験薬の院外処方を解禁する方針だ。治験実施医療機関の来院に依存しないDCT(分散型治験)の導入が進められる中、治験薬管理や被験者の服薬管理を薬局が担うことで治験実施計画(プロトコル)からの逸脱防止や治験実施医療機関の負担軽減につなげる。地域薬剤師会と製薬企業が契約を結び、会員薬局が治験薬を交付することも許容する。

DCTの普及が見込まれ、被験者の近隣に位置する医療機関のみならず、薬局での治験薬交付を認める方向で検討が進んでいる。これまでのGCP省令は「治験薬を治験依頼者の責任のもと実施医療機関に交付しなければならない」と規定され、院内処方しか認められていなかった。欧州は一部の国を除き、治験依頼者から薬局を経由した治験薬交付を認めている。
薬局からの治験薬交付は生活習慣病治療薬の治験が対象となり、院内処方が必要な注射剤の治験は対象外となる見通しだ。治験薬管理者となるパートナー薬局(仮称)は▽治験薬の管理▽被験者の病態管理▽治験コーディネーター(CRC)業務▽プロトコル逸脱防止――の役割を担う。薬局は、プロトコルに基づき治験依頼者から治験薬の交付を受け、来局した被験者に治験薬の受け渡しや、被験者の健康状態管理を行う。
パートナー薬局については施設要件などの縛りはかけないが、治験の基本的知識を身につけた薬剤師が治験薬交付業務を行うため、教育体制を確認する方針。パートナー薬局は、治験依頼者、治験実施医療機関などと契約を交わして治験薬交付を行うと見られるが、契約主体が「個々の薬局」「薬局の集合体」のどちらの形態でも容認する考えだ。
例えば、「地域薬剤師会と契約し、その会員薬局がパートナー薬局として参画する」「治験依頼者とチェーン薬局本部が契約する」といったケースも念頭に置く。一つの薬局に治験薬を保管しておき、パートナー薬局が必要に応じて在庫から治験薬交付を行うことも可能とする。

一方、被験者からの治験参加同意を取得する拠点として、薬局を活用する可能性は否定した。治験薬を交付した被験者に有害事象が発生した場合は薬局から安全性報告を行うよう求める方針で、安全性情報の報告先については今後詰める。
既に製薬団体や日本薬剤師会、日本保険薬局協会などの職能団体には、薬局による治験薬交付を認める方向性について説明を行っているが、現段階で否定的な意見は出ていないという。
治験実施施設が病院から診療所に拡大する一方、薬剤師を配置していない診療所も多く、治験薬管理が課題となっている。全国に約6万3000軒ある薬局のインフラを生かし、マンパワー不足に苦しむ診療所を支援する。

6月まで医薬局医薬品審査管理課でGCP省令改正に携わってきた松下俊介氏は、薬局・薬局薬剤師数が増加している現状を踏まえ「病院で実施していた治験を薬局にも広げ、病院薬剤師だけではなく、薬局薬剤師も医薬品開発に関与できるようにしたい」と語る。
製薬企業の中には、被験者リクルートや上市後の安全対策で薬局の関与も期待する声もある。都市部では外来患者数が減少し、薬局は処方箋調剤に依存した収益構造の脱却が喫緊の課題となっている。
治験依頼者である製薬企業との契約に基づいた治験薬交付を行うことになれば、製薬企業の研究開発費から収益が得られ、薬局の事業多角化につながる可能性もある。

2025.7.4